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いま、最高の一本に出会える

「立川談春三十五周年記念公演 玉響」のチラシ

広瀬和生 この落語高座がよかった! myマンスリー・ベスト

9月のベストは立川談春、シアターコクーン「立川談春三十五周年記念公演 玉響」で聴いた『たちきり』。さだまさしのアンサーソングも胸にせまった

毎月連載

第11回

19/9/30(月)

9月に観た落語・高座myベスト5

① 立川談春『たちきり』
  シアターコクーン「立川談春三十五周年記念公演 玉響」(9/1)
② 立川談笑『浜野矩随』
  国立演芸場「立川談笑月例独演会」(9/14)
③ 柳家三三『大工調べ』
  日経ホール「J亭スピンオフ 三三・一之輔二人会」(9/19)
④ 三遊亭兼好『応挙の幽霊』
  なかのZERO小ホール「兼好庵」(9/4)
⑤ 柳家わさび『紺屋高尾』
  深川江戸資料館「真打ち直前 わさび・小痴楽腕試しの会」(9/10)

*日付は観劇日
8/26〜9/25までに行った落語会&寄席定席20公演、102演目から選出

談春の『たちきり』は、蔵住まいの五十日目で両親と番頭の会話の場面が描かれ、ここで番頭に「手紙が途切れなければ二人を夫婦にしてあげたいと思う」と語らせることで悲恋物語に深みを与えている。小糸が芸者置屋の娘であることを強調する演出も独特だ。若旦那が線香をあげてからが長いのも特徴で、とりわけ母さんの若旦那に掛ける台詞の言い回しは談春の独擅場。「優しい子でした。若旦那と出会えて幸せだったと思います。誰も悪くありません。若旦那と小糸は悪縁だったんです。この家を一歩出たら小糸のことはきれいに忘れて生きてください。小糸には私がいます」 談春ならではの台詞だ。この公演では談春の『たちきり』に続いてさだまさしがアンサーソングとして“かささぎ”を披露、余韻と響き合って切なく胸に迫った。それも含めての1位選出。

「立川談笑月例独演会」のチラシ

談春『たちきり』+さだまさし“かささぎ”がなければ今月は談笑の『浜野矩随』がダントツで1位だった。談笑版では、矩随は独創的な天才だが若狭屋は「普通のものを彫れ」と矩随の作品を認めない。病床にあって天寿を全うしようとしている母は「お前の彫った観音様をおとっつぁんに見せたい」と頼み、矩随が仕事を続ける中で静かに息を引き取る。母が語る「四歳の矩随が花見で父の腰元彫りを持っている侍を次々に言い当てた」というエピソード、三歳で矩随が見よう見まねで母のために彫ったウサギの件など、談笑の『浜野』はすべてがオリジナル。心に沁みる名作だ。

「J亭スピンオフ 三三・一之輔二人会」のチラシ

三三の『大工調べ』は啖呵を切って終わるのではなく後半の奉行の名裁きまで描く痛快な一席。棟梁と大家はもともとお互いのことが嫌いで、それが徐々に露わになって喧嘩に至る過程の描き方が抜群に上手い。棟梁の啖呵もちゃんと腹から出た台詞。三三が演じる与太郎がまた、独特の可愛さがあって素敵だ。

「兼好庵」のチラシ

兼好の『応挙の幽霊』では道具屋は幽霊と酒を呑むだけでなく夫婦約束をして固めの盃を交わし、幽霊が「足を描いてください」と言い出して独自のサゲへ。兼好の唄う都々逸が抜群に上手くて思わず拍手が湧き起こる。陰気で地味な噺をここまで楽しい噺にしてしまうのが凄い。兼好のポテンシャルの高さをまざまざと示す一席として心に残った。

「真打ち直前 わさび・小痴楽腕試しの会」のチラシ

わさびの『紺屋高尾』は久蔵が真実を打ち明ける純情さに物凄く説得力があり、高尾が情にほだされるのもよくわかる。「今度いつ来てくんなます?」と訊かれて「三年経ったら……」と言って泣き出す久蔵が真に迫っている。高尾の年季が明けるのは来年二月の十五日。ラストは高尾が来て小僧が驚き六兵衛が驚くと、久蔵との再会は描かず地の語りで「祝言をあげ三人の子をもうけた」と結ぶ。「高尾が初対面の久蔵と夫婦約束した」ことが納得できる、爽やかな一席。『明烏』同様、わさびは“女を知らない男”(とその目覚め)がよく似合う。


プロフィール

広瀬和生(ひろせ・かずお)

広瀬和生(ひろせ・かずお) 1960年、埼玉県生まれ。東京大学工学部卒業。ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」の編集長、落語評論家。1970年代からの落語ファン。落語会のプロデュースも行う。落語に関する連載、著作も多数。近著に『「落語家」という生き方』(講談社)、『噺は生きている 名作落語進化論』(毎日新聞出版)など。

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