Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

Ovall、Kan Sano、Michael Kaneko…『origami SAI』に見た、独立した音楽家たちが刺激し合う“コレクティブ”としてのあり方

リアルサウンド

19/11/12(火) 21:00

 そもそも「サポート」をテーマとした連載を始めるきっかけになったのが、2017年のOvall再始動だったと言っても過言ではない。2010年に新たなセッションカルチャーの盛り上がりを伝えた1stアルバム『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』、2013年にはよりジャンルレスに、ポップミュージックへと接近した2ndアルバム『DAWN』を発表するも、その後に活動を休止。しかし、Shingo Suzuki、関口シンゴ、mabanuaの3人はそれぞれがサポート/プロデューサーとして数多くのアーティストを支え、「ブラックミュージック」がキーワードになった2010年代後半の日本において、再始動が待望視されることとなった。

(関連:Kan Sanoが追求するサウンドのオリジナリティ 全てを一人で作り上げた『Ghost Notes』を語る

 これは「優れた音楽家がアーティスト活動と裏方を交互に行き来することで、音楽の歴史は作られてきた」という事実を改めて示すとともに、ネット/SNSの時代になって、それがよりボーダーレスに、よりダイナミックに、より「個人」を主体とした形へと変化して行ったことを示していた。Ovallの所属するorigami PRODUCTIONSのアーティストが一堂に会し、11月1日に渋谷クラブクアトロで開催された『origami SAI』は、そんな時代感を証明し、コレクティブとしてのレーベル/マネジメントのあり方を印象付ける一夜となった。

 イベントのトップバッターを務めたのは、レーベルの新時代を象徴するNenashi。シンガー、ラッパー、プロデューサー、トラックメイカーとマルチに才能を発揮し、これまで正式に発表されたのはまだ「Lost in Translation」と「Satellite Lovers」の2曲のみながら、そのクオリティの高さが話題の新人であり、彼にとってはこの日が初ライブ。

 ステージ前面には紗幕が張られ、そこにビジュアルを投影しながらのライブは、スタイル的にamazarashi、サウンドとの同期はコーネリアスを連想させるもの。スーパーローの出た、音数の少ないトラックの上で、美しい歌声を聴かせるライブはまさに「今」を体現していて、前述の2曲に加え、新曲とドレイク「Passionfruit」のカバーも披露(この曲はコーネリアスもカバーしていた)。紗幕に加えて、MCも機械がしゃべるなど、「噂の新人の全貌が露わに」というよりは、その正体がますます気になるステージだったと言える。

 イベント中盤では、Michael Kanekoとmabanuaがそれぞれフルバンドで登場。Michael Kanekoはソウルフルな歌声や自らのギターソロで場内を沸かせ、mabanuaはインディロック的な側面も持った独自のスタイルでオーディエンスを魅了した。サポート的な観点で言えば、Michael Kanekoのリズム隊は、関口シンゴがサウンドプロデュースを手掛けるあいみょんのレコーディングにも参加しているベースの多田尚人とドラムの御木惇史に、キーボードはMimeの近藤邦彦。mabanuaのサポートはShingo Suzukiと関口シンゴにキーボードの村岡夏彦というOvallメンバーに加え、ドラムは円人図のメンバーで、Kan Sanoともプレイする今村慎太郎。やはり、それぞれが単なるサポートとしてではなく、一ミュージシャンとしてそこに立っているように感じられた。

 トリ前の出演となったKan Sanoは、エンタメ精神あふれるステージを展開。「Baby On The Moon」では鍵盤によるインプロビゼーションからトランペットを吹き、「Sit At The Piano」ではベースを演奏、ドラムソロを挟んで、マーヴィン・ゲイの「What’s Going On」をオリジナルなアレンジで披露、さらに「DT pt.2」ではダンサーと一緒にプレイするなど、音源の繊細なイメージをいい意味で裏切るアグレッシブさが非常に魅力的だ。

 ベースはMimeの森川祐樹が務め、Kan SanoがBLU-SWINGのYusuke Nakamura、SANABAGUN.の澤村一平らと結成したLast ElectroにもMimeからギターの内野隼が参加、ドラムは無礼メンの菅野颯で、来年3月に開催されるKan Sano主催のイベント『counterpoint』で共演が決まっているTENDREには、同じく無礼メンのベース・高木祥太が参加。Mimeと無礼メンは、バンドと個人それぞれに注目である。

 イベントの大トリを務めたのはもちろんOvall。2017年12月の再始動以降もそれぞれの活動を続け、Shingo SuzukiはKan Sanoらとともに七尾旅人をサポートし、関口シンゴは前述の通りあいみょんのサウンドプロデュースを手掛け、mabanuaに続いて『関ジャム』にも出演。mabanuaもおかもとえみ、川本真琴、DEAN FUJIOKAと様々なアーティストの作品に参加しているが、12月に待望の新作『Ovall』のリリースを控え、この日はバンドとしての現在地を感じられる絶好の機会となった。

 再始動後の新たなOvallを提示した「Stargazer」や、ネオソウル風の「Slow Motion Town」といった新曲に、「Take U To Somewhere」のような過去の人気曲も交えたセットリストは、Ovallの多面性を伝えるもの。そして、ラストにファンキーな「Green Glass」と、アフロな「La Flamme」でバンドの原点であるセッションカルチャーの熱気を今に鳴らすことによって、まさに過去と現在を繋ぐようなライブになっていたと言える。

 アンコールにはHiro-a-keyもMCとして登場し、この日の出演者が勢揃いして、「I Only Want You」を全員でセッション。この曲はかつてShingo Suzukiやmabanuaらが参加したセッションベースのマンスリー企画『laidbook 01』に収録されていた楽曲だ。一個人として独立した音楽家たちが、音で会話することによって緩やかに繋がって、お互いを刺激し合い、支え合う。それはまさに、origami PRODUCTIONSというレーベル/マネジメントのあり方を示す光景であった。(金子厚武)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む