Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

向井太一らサポートするMop of Head George、同期を使ったライブセットの可能性を説く 「演出面で生きることも多い」

リアルサウンド

19/11/14(木) 7:00

 米津玄師をサポートしているARDBECK(須藤優、堀正輝)を筆頭として、00年代のエレクトロを起点に、ロックとクラブミュージックの融合を試みた世代が、若いアーティストを後ろから支えている2010年代後半。Mop of HeadのGeorgeは間違いなくその主役の一人である。向井太一やiriといった新世代のR&Bシンガーをサポートしつつ、その一方でBACK DROP BOMBのようなハードコア/ミクスチャーのバンドにも関わるというのは、カテゴライズからするりと抜けだしていくGeorgeらしさをよく表していると言えよう。同期が当たり前になった時代のライブセットのあり方や、下の世代に対する想いなど、幅広く話を聞いた。(金子厚武)

(関連:【インタビューカット】Mop of Head George

●「なるべくミニマルなセットですごいことをやりたい」
――GerogeさんがサポートをやるようになったきっかけはKeishi Tanakaさんだったそうですね。

George:そうです。Riddim Saunterが解散した後に、いきなりMop of Headのライブに来てくれて、お誘いいただいて。僕はRiddim Saunterが好きだったので、びっくりしました。もともとサポートには向いてないと思ってて、他のアーティストに関わるなら、楽曲提供の方がいいかなと思ってたんですけど、Keishiさんが誘ってくれるなら、やってみようと思って。実際やってみると、全然違うジャンルを演奏するのはすごく勉強になるし、そこからいろんな方にもお誘いいただくようになって、80KIDZのツアーを一緒に回らせてもらったり、the chef cooks meのライブで弾かせてもらったりするようになりました。

――近年では向井太一さんと密接に関わっていますよね。

George:向井くんはちょっと変わってるというか、もともと事務所から連絡が来て、「こういうアーティストがデビューするんだけど、既存のライブセットじゃない、新しい打ち出し方をしたい」っていうお話をもらったんです。ちょうどその頃に海外でDisclosureとかが出てきて、主流になりつつあったんですよ。あれってスタイリッシュではあるけど、やってることはわりとシンプルだと思ったので、ああいうことを自分の解釈でやってみたくて、向井くんとならそれができるんじゃないかと思い、「やらせてください」って言ったのが始まりです。

――同期を用いた自由な編成のライブセットは日本にもかなり浸透してきましたよね。

George:ラップトップセットも多いですけど、自分的に「ラップトップだけじゃない方がいい」って思うのは、自分がバンドマンだからかなって。マニピュレーターって難しいポジションで、押せば音は出るわけですけど、0.1~0.2秒の感覚で、お客さんの高揚感って変わってくるんです。「この曲が終わって、次の曲スタートします」っていう、その間隔がすごく大事で、「前の曲が終わったら、すぐ次の曲が来てほしい」とかもあるじゃないですか。もともとバンドをやっていたから、最初からそこは意識できていて、sumikaも彼らが同期を入れたいっていうタイミングで連絡をいただいて、マニピュレーターのみで入ったりもして。

――そもそもMop of Headではクラブミュージックを人力で演奏していて、80KIDZのライブセットでは同期を使っていただろうから、素地があったわけですよね。

George:「このタイミングで次の曲が欲しい」みたいなのって、DJの感覚にも近いかもしれなくて、人を高揚させる間だったり、曲順だったりは自分がDJをやるときにずっと意識してたことでもあるから……もともと向いてたのかもしれないですね。

――向井さんのライブセットはどのように変化していったのでしょうか?

George:一番最初は2人だけでやったんですけど、すぐに「ドラムを入れたい」って言って、Satoshi(Mop of Head)を呼んで、会場がデカくなってくると、「ベースも入れられるね」って。これからどうなっていくかはまだわからないですけど、個人的に、あんまり人は増やしたくなくて、なるべくミニマルなセットですごいことをやりたいんですよね。同期の音楽で難しいのが、ただ生に当てて演奏すれば合うってわけでもなくて、例えば、ギターは音源に入ってる音をそのまま使った方が、ライブでも馴染んだりするんです。プレイヤー目線で言うと、弾き過ぎちゃったり、感情をつけようとしちゃうけど、感情がない方が音楽としての聴き心地はいい場合もあって。

――なるほど。

George:最近向井くんのライブでギターを弾いたりもしてるんですけど、「この曲のここは生に置き換えるのがベスト」みたいなことは常に探ってますね。ドラムにしても、音源と同じキックの音をそのままパッドに入れた方がいいのか、ライブだったら別の音にした方が抜けるかとか、そこを考えるのにすごく時間がかかるんです。

――打ち込みの音源をバンドの生演奏で再現すること自体はもちろん昔からあったわけですけど、機材の進歩もあって、よりシームレスになるなかで、そこの精度が求められるわけですよね。それこそ、今は同期を使ってない方が珍しいくらいになってきてるし。

George:そうですね。そのうち「同期だから、生だから」みたいな会話すらなくなっていくと思うし、同期ってものがライブにおいて異物じゃない時代が……今すでにそうかもしれないし、これからのミュージシャンにとっては、クリックを聴いてライブをすることが当たり前になるでしょうね。同期の役割って、外に出る音ももちろんなんですけど、演出面で生きることも多いんです。細かい話ですけど、生演奏だったら曲に入る前にドラムがカウントを出して、テンポをみんなで共有するってことを人力でやるわけじゃないですか。でも、カウントなしで、いきなり全員で入ったら、それだけでお客さんの印象って全然違うと思うんです。

――確かに、そうですね。

George:さらに、照明さんにもクリックを送れば、照明のタイミングも完全にシンクさせられる。USのヒップホップがやってきた演出って、そういうことかなって。日本のライブシーンって、照明だったりVJだったり、モノ的な方に頼っちゃうけど、僕はディテールの方が大事だと思うんです。演出をすごくしようとすると、派手な方向というか、「盛る」方向になりがちだけど、でも「明るい/暗い」だけでも表情は作れるし、海外のバンドとかってそういう中でめちゃめちゃ盛り上げたりしてて。外国の人って大雑把なイメージも強いけど、美的センスに対するこだわりはめちゃめちゃ強いなって。

――アーティスト、照明、VJがそれぞれ盛り上げようとするんじゃなくて、その全部がシンクすることによって、派手なだけではない、強烈な世界観を構築できる。

George:そうですね。そのためには、みんなが同じ時間軸を共有してることが大事で。そうやって時間に縛られるのって、本質的な音楽からはかけ離れちゃうのかもしれないけど、ショウとして考えると、時間に縛られるって、すごくきれいなことだと思うんですよね。美しく始まって、美しく終わる。そういうライブを作るのは、すごく楽しいです。

●「枠を抜け出したところにホントに面白いものがあるかもしれない」
――近年はiriさんのサポートも務めていますね。

George:向井くんとも対バンしてたり、もともと同じ空間にいた子というか。なので、どこかのタイミングでマネージャーさんから誘っていただいて、主に鍵盤と同期の整理をやってます。ちなみに、去年の『サマソニ』(『サマーソニック』)はSONIC STAGEのトップバッターが向井くんで、次がiriちゃんっていうタイムテーブルだったんですよ。一回捌けて、また戻ってくるっていう、一番恥ずかしいやつで(笑)。まあ、サポートとして入ってるんで、別に誰も気にしてないとは思ったけど、ちょっとだけ配慮して、着替えをしてる自分が嫌だったり(笑)。

――iriさんと向井さんはどちらも新しい世代を代表するシンガーとなっていますが、それぞれのアーティストとしての魅力をどう感じていますか?

George:iriちゃんは彼女が一人でステージに立っても、バンドがいても、世界観は同じものが作れる。それくらい彼女自身の力がライブに出るアーティストだと思っていて、ギター1本持ってステージに出ても、「すごいな」って、袖から見てても思います。向井くんはまたキャラクターが全然違って、難しいトラックで歌ってるはずなのに、彼が歌うと伝わりやすくなるというか、プレゼンテーションがすごく上手いなって。普通のシンガーがあのトラックで歌っても、あんなに多くの人に届かないと思うんですけど、彼が歌うとものすごく自然にポップに聴こえるんですよね。どちらにしろ、僕が頑張ってできることじゃないから、尊敬できるし、ずるいとも思います(笑)。

――iriさんの春ツアーのリズム隊は向井さんのバンドメンバーでもある村田シゲさんと、堀正輝さんでしたが、今回のツアー(『iri presents“Wonderland”』)はどんな編成なのでしょうか?

George:ドラムはSCAFULL KINGやFRONTIER BACKYARDをやられてるTADAAKIさん(TADAAKI“TDC”FUKUDA)で、ベースはTempalayとかをやってるKenshiro(Kenshiro Kameyama)です。大体どこのフェスに行っても会う人が一緒になってくるんですけど、最近は同年代とか年の近い人が増えてきてます。

――ドラマーで言うと、最近は堀さんの活躍がすごいなって思うんですよね。

George:あの人はドラマーとしてニュータイプなんですよね。ドラムの概念を超えちゃってるから、今みんなが必要としてる理由がわかります。めちゃくちゃ丁寧に仕事をされてるし、音源と同じ音を使ってやれるので、あの発想って、生楽器だけやってきた人ではできないですからね。

――堀さんはもともとトラックメイカーでもあり、なおかつプレイヤーでもある、その両側面を持っているのが大きいですよね。

George:なりたくてもなれないタイプのドラマーだと思うんですよ。普通ドラマーのこだわりはドラムセットに向くわけじゃないですか。でも、今は音源を再現することが重要視されてるので、「音源と違うから、音圧足りないね」みたいに、どうしても生じゃカバーできないところが出てくる。堀さんはそこで当たり前のようにパッドを使った上でライブならではの高揚感が出せて、生に置き換えるかどうかのジャッジメントもちゃんとできる。特別な存在だと思いますね。

――Mop of Headにしろ、堀さんのSCAM CIRCLEやARDBECKにしろ、もちろん80KIDZにしても、00年代のエレクトロ世代で、当時ロックとクラブミュージックの融合を試みていた人たちが今の若い世代、米津玄師さんに代表されるニコニコ動画世代や、そこともリンクする新たなR&Bやヒップホップの盛り上がりを支える図式になってると思っていて。

George:あー、考えたことなかったですね。でも確かに、そう言われてみればそうかもしれない。時代は繰り返すんですね。僕からすると、ある程度の期間で絶対に会う人たちだから、あんまり意識はしてなかったですけど……みんなちゃんと続けてきたっていうことでもありますよね。

――ずっと続けていると、BACK DROP BOMBのサポートをやるなんていうまさかの機会も巡ってくる(笑)。向井さんやiriさんに関わりつつ、BACK DROP BOMBもやってるっていうのは、何ともGeorgeさんらしいなあと。

George:ありがたいですよね。呼んでくれるアーティストが、僕のジャンルが決まってしまわないように動かしてくれているというか。「あのシーンにいる人ですよね」みたいな感じにはなりたくなくて、「BACK DROP BOMBのサポートをやってる」っていうと、みんな大体「え?」ってなるから、それはいいなって。

――どういうきっかけで参加することになったんですか?

George:Keishiさんの先輩にあたるのがAIR JAM世代なので、対バンだったりでお会いする機会があって。で、福岡のミュージシャンが集まる飲み屋でたまたまタカさんと会って、それがきっかけですね。ちょっと前にギタリストが抜けたこともあって、鍵盤兼マニピュレーターで入ったんですけど、もともとタカさんしか知らなかったので、最初はめっちゃ怖かったです(笑)。

――向井さんやiriさんの流れで見てる人からすれば「え?」って感じだけど、そもそも「Mop of Headの人」って考えれば、そこまで違和感はないですよね。

George:もともと「謎でありたい」っていうのはあって、「こういうジャンルで、こう売って行きたいんです」というよりは、型にはまってないアーティストをやらせていただく方が面白いんですよね。「クラブ寄りのサウンドだったらあの人」みたいに呼んでもらえるのも嬉しいけど、枠を抜け出したところにホントに面白いものがあるかもしれないから、勿体ないなって。やっぱり流行りのサウンドって怖さもあって、本人がそれをホントに望んでいるのかがすごく重要だと思うんです。これからデビューするような子は、どうしても時代が求めるものを求められちゃうけど、自分よりも年下に対しては、その子がホントにやりたいことがどういうことなのかをしっかり聞くようにしていて。

――クラブミュージックは特に流行のサウンドが求められますもんね。

George:でも、本人がホントにやりたいことをやるのが一番説得力が出ると思うんです。その方が、先々の音楽人生も長くなると思うし、音楽人生が長くなれば長くなるほど、いろんなものを作る期間が長くなるわけだから、単純に、それを聴いてみたいし。もともとは仕事とか関係なく、音楽を好きで始めて、デビューして、音源を出すって、もちろん嬉しいことなんですけど、でもそれって同時に「終わり」を設けられちゃうじゃないですか。「もううちの会社では支援できない」ってなると、最初はただ楽しくて始めたことなのに、「終わり」を設けられちゃう。

――音楽を続けることに関して、本来は「終わり」なんてないはずなのに。

George:でももし「終わり」が設けられたとしても、ちゃんとそこまで自分のやりたいことをやっていれば、もし契約が切れたとしても、その後も続けていけるはずで。ディテールまで任せてデビューして、「ダメでした。やめます」ってなっちゃうのは、あまりにも勿体ない。音楽を簡単に作って出せる時代になったけど、簡単にやめられる時代にもなってるんで、もう少し一人の人生の作品を追ってみたいなって。

――その意味では、the chef cooks meの作品はシモリョーさん(Vo/Key/etc)の人生そのものですよね。

George:すごいですよね。今回のアルバム(『Feeling』)は、今のところ僕の2019年ベストです。お手伝いをさせていただいているので、感情移入しちゃう部分ももちろんあるんですけど、シモリョーさんは音楽への探求心がすごくて、ホントにミュージシャンだなって思うから、尊敬もするし、勉強になります。

――シモリョーさんもASIAN KUNG-FU GENERATIONのサポートをやるようになったり、いろんな時期がありながら、the chef cooks meという看板を掲げ続けて、自分のやりたいことを追求してきたからこその今がある。それはやはり素晴らしいことですよね。

George:嬉しくなりますよね。しばらく出してなかったけど、新作は今の時代にもめちゃめちゃハマってるし、新しいことをやってるし、ああいうバンドの活動をリアルタイムで見れて、同じ時間軸を生きてるっていうのは、ホントにいい経験だなって思います。

――シモリョーさんにとってのthe chef cooks meのように、GeorgeさんにとってはMop of Headが「自分のやりたいことを追求する場所」なわけですよね?

George:僕にとってはMop of Headが全てっちゃ全てで、自分のミュージシャン像が詰まってる気がしますね。「あのバンドで音楽をやってるめちゃくちゃな人」って思ってもらえれば、それでいいかなって。自分で言うのもなんですけど、Mop of Headを聴いて、「この人にサポートをしてもらおう」って思う人がいるって、すごいことだなって。今一番世の中に必要とされてないところをピックアップしてやってますからね(笑)。

――2010年代の終わりにガバキックだったり(笑)。

George:それを自分でわかってやってるんで、楽しいんですけどね。ホントはもっと流行りとか気にした方がいいんでしょうけど、音楽業界ってものをあからさまに無視して、そことは関係ないことにメンバー4人が本気になって、ある種のカオスが起きてるって、カルト集団みたいなもんですよね(笑)。もちろん、大衆に受け入れられるのも大事なことだと思うけど、僕らはこのまま突き詰めた先に何があるのか見てみたいんです。「いつやめたくなるんだろう?」とか、ある種の人体実験みたいな感覚もあったり。

――それこそトレンドを追いかけるんじゃなくて、自分のやりたいことを追求してるからこそ、続けることができるんだと思うんですよね。

George:Mop of Headにとっては世の中のトレンドより自分のトレンドの方が全然大事で、「今自分が何を聴きたいか?」が大事なので、そこを突き詰めたいです。やっぱり、謎でいたいんですよね(笑)。「誰をサポートしたい」みたいなのは特になくて、面白いと思った人とはぜひ一緒にやらせてもらいたいけど、もともと天邪鬼なので、「あいつはこう」みたいには言われたくないから、ずっと捕まらないように生きていきたい。「決めつけないで」って思うけど、でも「呼んだら面白くなりそう」とは思われていたいですね。(金子厚武)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む