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主人公の“内なる風景”を描く。衝撃作『ミッドサマー』監督が語る

ぴあ

20/2/19(水) 12:00

『ミッドサマー』 (c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

『ヘレディタリー/継承』で圧倒的な評価を得たアリ・アスター監督の新作『ミッドサマー』が21日(金)から公開になる。本作はスウェーデンの奥地で90年に1度開催される祝祭を訪れたアメリカ人大学生が、壮絶な体験をする様を描いた作品だが「この映画はあくまでも(主人公の)ダニーの視点から見た話」であることがポイントだとアスター監督は語る。

本作の主人公ダニーは、ある出来事がきっかけで家族を失い、天涯孤独の身になってしまう。恋人のクリスチャンとの関係はうまくいっておらず、孤独が日に日に増していくが、彼女はある日、クリスチャンと友人たちとスウェーデンの奥地にある村に旅行に出かけることに。ホルガと呼ばれるその村は花が咲き乱れる美しい場所で、人々も笑顔で穏やか。優しく村に迎え入れられた彼女たちは太陽が沈まない夏至の祝祭に招かれるが、周囲で少しずつ異変が起き始め、ダニーやクリスチャンらの人間関係にも変化が訪れる。

本作はアスター監督の失恋の経験と、制作会社からの新作オファーが混ざりあって創作が始まった。主人公はいまにも恋愛関係を失いそうな状態にあり、孤独に押しつぶされそうになっているが、ホルガの祝祭に参加することで少しずつ満たされていく。「現代はどこにいても、いつでも誰とでもつながることができるけど、そのことが僕たちを貧しくしてるんじゃないか、と思うことがある」とアスター監督はいう。「だから、ダニーがホルガでロマンティックな想いをするとしたら、それはネットから切り離れた環境に置かれて、ネットのコミュニケーションから解放されたことで実現しているのかもしれません。この映画はダニーの孤独について描いた映画だと思うし、『ヘレディタリー/継承』の登場人物たちも、同じく全員が血でつながっていて、家族の中にいるにも関わらず、心のどこかで何らかの孤独や疎外感を感じているんです」

そこでアスター監督はプロダクションデザイナーと入念に調査を行い、世界の様々な祝祭や慣習、神話などを組み合わせてホルガの祝祭をつくりだした。「この映画で描かれる祝祭は主にアメリカ社会について僕が感じていることを反映させています。ホルガは様々な要素が合体し、混ざり合っています。あの場所を一種の理想郷だと考えることもできるでしょうし“あんな風になれたらいいのに”と憧れる存在として捉えることもできます」

しかし、太陽の光が降り注ぐホルガは良い面ばかりではない。人々に囲まれ、笑顔で迎え入れられたはずなのにダニーたちの関係は少しずつこじれ、孤独は大きくなっていく。「ダニー以外のアメリカ人たちはみな自己中心的でキャリア至上主義で、個人主義者で、お互いに対して忠誠心がまったくない相手を搾取しようとするキャラクターとして描かれていますが、それはこの映画がダニーの視点から描かれているからなんです。彼女の主観が観客の視点になるので、ダニーの求めているものをアメリカ人たちは何も与えてはくれないけど、ホルガの人たちは与えてくれると思えてしまう。だから映画を観てくれる人には“この映画はあくまでダニーの視点から見た話なんだ”ということを意識して観てもらいたいですし、映画を観ながら葛藤し、格闘してもらたいと思っています」

監督が本作を客観的な視点ではなく、主人公の“主観”を通じて描いたのには理由がある。「僕が映画で描きたいのは、映画で描かれる外側の世界と、登場人物の内側の世界が完全にマッチすることなんです。例えば、別れを経験したとします。客観的に見たら、別れは別れに過ぎないわけだから、友達は“まぁ、よくあることだから立ち直れよ!”というかもしれません。でも別れた本人にとっては世界が終わる、自分が死んでしまう、終末が来てしまったかのような気持ちなわけです。もちろん時が経てば、そんな感情も乗り越えられるんだろうけど、僕はその人がまさにその瞬間に感じる“当事者の感情の大きさ”を映画で表現したいと思っています」

自身の心が揺らぐとき、孤独を感じるとき、恋人が離れていってしまうとき、世界が壊れる、この世の終わりがやってくる。観客はダニーの内面を通じて夏至の祝祭に、すべてのおわりに立ち会うことになるのだ。「僕は映画で世界を作り上げることを愛していますが、それはセットやロケ地などを通じて物理的な世界を作り上げるだけではなく、キャラクターの感情、つまり“内なる風景”を作ることを含んでいます。だから、観客の方が『ミッドサマー』を通じて、ダニーの“内なる風景”を体験し、感じてくれたらうれしいですね」

ちなみにすでに公開されている国や地域では本作のラストに“爽快感”を感じる観客が多かったようだ。しかし、アスター監督は語る。「爽快感を感じてもらった後に、“待てよ。本当にこれでいいのか?”と思ってもらえたら」。『ミッドサマー』は衝撃や爽快感や恐怖よりも強い、いつまでも“心に残り続ける感情”を観る者に宿す映画になっている。

『ミッドサマー』
2月21日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

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