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ジョーイ・バッドアスなどからの批判も? 「Blackout Tuesday」ストライキから考える問題点と課題

リアルサウンド

20/6/11(木) 12:00

 2020年6月2日火曜日、「Black Lives Matter」運動が渦巻くアメリカで、音楽産業が黒に染まった。大手レーベルや有名メディアなど、多くの音楽関連企業がSNSアイコンをブラックに変えて「Blackout Tuesday」ストライキに参加したのだ。定額制音楽配信サービスのApple Musicに至っては、ディスカバリー機能にあたる「For You」ページを文字どおりブラックアウトさせ「Black Lives Matter」運動に賛同するステートメントを掲載。当時ここで聴けるラジオは、黒人アーティストによる楽曲を流す「Listen Together」のみだった。ページデザインを黒色基調としたSpotifyにしても、一部ポッドキャストやプレイリストに8分46秒の無音トラックを挿入。これは、2020年プロテストの大きなきっかけとなった黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に暴力を振るわれ死に至らしめられた時間と同じ秒数である。

(関連:『Black Lives Matter』プレイリスト楽曲がチャート浮上 チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」などから考察

 「#TheShowMustBePaused(ショーを中断しなければならない)」運動に根づく「Blackout Tuesday」は音楽企業幹部ジャミラ・トーマスとブリアンナ・アギェマンが提起したもので、黒人表現者たちから膨大な利益を得てきた音楽産業が一般業務を中断させることで人種問題に関する思考や行動を促すストライキ運動とされる。

 結果的に、大手ストリーミングサービスの「Blackout Tuesday」は音楽消費の面でも効果をなした(参照:http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/88797/2)。Spotifyがローンチしたプレイリスト「Black Lives Matter」に掲載された同運動のアンセムとされるケンドリック・ラマー「Alright」は同サービスのグローバルチャートで歴代最高となる26位についた(参照:https://hypebeast.com/jp/2020/6/childish-gambino-this-is-america-kendrick-lamar-alright-more-songs-boost-in-streams-during-protests)。チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」もUSチャート2位、グローバルでは7位に返り咲きしている。また、Apple Musicにしても、同2曲やN.W.A「F**k the Police」を並べたブラックネスを祝福するプレイリスト「‎For Us, By Us」をリリースし、プロテストソングの再生数増加に貢献した。

 有名企業による「Blackout Tuesday」は大きな注目を浴びたわけだが、ミュージシャンやアクティビストからの批判も発生させている。象徴的なものは、SpotifyとApple Music両方のプレイリストに楽曲「FOR MY PEOPLE」を掲載された1995年生まれのラッパー、ジョーイ・バッドアスの言葉だろう。

「はっきり言っておく。大企業や、黒人ではないインフルエンサーたちの投稿やシェアになんの意味もない。“クールに見えること”をやって取り繕っているだけだ」(https://twitter.com/joeyBADASS/status/1267580371157291009?s=20)

 疑問を投げかけたミュージシャンは他にもいる。その多くは、大企業の姿勢表明が「見かけだけで実態的な支援が伴っていない」というものだ。例えば、ジャック・アントノフは「音楽企業はいくら寄付したの? 情報がまったく見当たらない」旨をツイートした(https://twitter.com/jackantonoff/status/1267642242602319872)。のちにザ・ウィークエンドも三大レーベル、およびSpotifyとApple Musicを名指しするかたちで寄付活動を呼びかけている(https://twitter.com/theweeknd/status/1267884576728182791?s=20)。こうした寄付に関する疑念は、ある程度は時間が解決したかもしれない。Billboardによると、「Blackout Tuesday」以降、ワーナーおよびソニー・ミュージックが1億ドル規模、ユニバーサルグループが2,500万ドル規模の寄付や中長期的計画を発表していった(https://www.billboard.com/articles/business/9395882/list-music-companies-labels-donations-racial-inequality)。額面非公開ではあるが、Appleもドネーションを行ったようだ。

 しかしながら、もう一つの大きな批判に関しては、長い道のりを要するだろう。前出ジョーイ・バッドアスは、こうもツイートしていた。

「本当に変化を起こしたいか? それなら労働環境を変えろ。才能ある黒人を雇って、正しい報酬を払え」(https://twitter.com/joeybadass/status/1267580508931788806)

 ケリスやエリカ・バドゥも、こうした報酬の問題を提唱している。アメリカを中心とした音楽業界が「黒人クリエイターを不平等に扱い利益を搾取してきた」とする批判は、長きにわたって語られている。

 21世紀の音楽産業を変革したストリーミング関連企業に対しての批判もある。たとえば、Vox(https://www.vox.com/the-goods/2020/6/3/21279292/blackouttuesday-brands-solidarity-donations)では、スリープ・ディーズ(https://twitter.com/SleepDeez/status/1266735793864753152)などのインディペンデント・アーティストから「Spotifyは競合と比べてクリエイターに支払う報酬が低い」と反発が出た旨が記されている。メディアやSNSでは、1,000万ドルもの寄付を発表したAmazonに対しても具体的な批判が寄せられた。2015年に発表されたデータ(https://www.bizjournals.com/seattle/blog/techflash/2015/06/85-percent-of-amazon-s-black-u-s-workers-hold.html)ではあるが、同社の(アメリカにおける)黒人従業員のうち、推定85%は単純労働に従事しており、幹部格はたった1人とされる。そして、Amazonの倉庫労働者が身を置く過酷な環境への批判は、新型コロナ危機において一層活発になっていた。つまるところ、(人種間)経済格差を促進させるメガ企業が社会正義ステートメントを出すとは酷い「偽善」だ、と糾弾されたのだ。

 実は、今では珍しくなくなった大企業による政治的表明を活性化させたのも「Black Lives Matter」運動である。大きな潮目になったのは2018年、NikeによるNFL選手コリン・キャパニック支持キャンペーン「Dream Crazy」とされている(NFLキャパニック問題に関しては昨年のスーパーボウル記事に詳しい/https://realsound.jp/2019/02/post-316934.html)。これが発表された当時、「賛否両論の政治的イシューを扱う企業広告はリスクが高すぎる」として同社の株価は一旦下落したものの、その注目度から24時間で47億円相当のエンゲージメントを生み出し、オンライン売上高を急増させ、結果的には同社の史上最高株価の更新に貢献した(https://www.wwdjapan.com/articles/752744)。キャンペーン自体もエミー賞獲得に至っている。しかし、当のキャパニックは選手として復帰できていない。この件に関しては、大企業たるNikeがNFLに介入するわけにはいかない事情があるだろうが、もっと広い問題として── 果たして、さわりのいい大企業による社会正義キャンペーンは、中身が伴っているのだろうか? そもそも、そうしたパワーある機関こそが格差構造を押し進めていないだろうか? ビッグブランドが軒並み参加していった「Blackout Tuesday」は、それら企業に対する精査も広めたと言えるだろう。

 個人的な考えで恐縮だが、企業や一般人ふくめて、ハッシュタグによる政治的表明はそれなりに意味があるだろう。批判されがちではあるが、やりようによっては、問題の知名度や関心を増やす一助にはなる。しかしながら、関心の拡散以上の何かをしたい場合、できる行動を自分なりに探すこと、冷静さを持って考えることが必要になる(これは「Blackout Tuesday」がもたらした機会の一つだ)。ジョーイ・バッドアスの「FOR MY PEOPLE」が収録された2ndアルバム『All-Amerikkkan Badass』では、アクティビズムにおける葛藤と共に、こんな詩がラップされている。

「ときどき思うんだ あいつらは俺を理解してないって してないだろ?
世界は変えられない 俺たちが内から変わらない限り」
(「Land of the Free」より)

(辰巳JUNK)

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