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多部未華子、吉高由里子の主演作が高評価 2019年のお仕事ドラマに現れた“ルール遵守”のヒロイン

リアルサウンド

19/9/20(金) 6:00

 多部未華子がハマり役だとじわじわと話題を呼んでいるお仕事ドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK総合)。前クールで人気を誇った『わたし、定時で帰ります。』(TBS系、以下『わた定』)も同じく仕事を題材とした作品で、両作とも小説が原作だった。

 「定時で帰ること」をモットーにWEB制作会社で働く吉高由里子扮する結衣と、「何事もイーブン」が信条の経理部の森若さん(多部未華子)。双方ともに「定時」と「経費」という会社のルールを厳格に守るヒロインが主人公で、それを守らない他の社員との攻防から、それぞれが抱える事情や会社の問題が見えてくる問題提起型ドラマだ。様々なケースが紹介される中で、視聴者の誰もが他人事とは思えないような「あるある」が描き出され、そんな状況下でヒロインが「正しさ(ルール)」を貫くことにためらいを感じつつも、自身の信条を持ってして仕事を全うし、折衷案を見出していくという痛快さもある。グレーゾーンをグレーのままにしてはおかず、見て見ぬ振りして暗黙の了解に従うその他大勢とは異なるヒロインの姿は、ある意味会社内で勧善懲悪を体現する『水戸黄門』要素もあり、毎話視聴後のスッキリ感が病みつきになるファンも多いのではないだろうか。

 ただし“勧善懲悪”とは言ったものの、2人のヒロインが単にルールを押し付けるだけの“正しさの暴力”を行使するのではなく、相手の事情も鑑みながら彼らの仕事ぶりやコンプレックスを「正しさ」を持って肯定し、正当に評価しモチベートしていく点が両作のヒットのミソであり、共通項として挙げられる点でもあるだろう。

 このように似通っているところも多い一方で「似て非なる」部分もある両作。最も大きな違いは、2人が追求する「正しさ」のわかりやすさ、明文化度合いだろう。

 森若さんは部署自体が「経理部」で、経費処理が業務である。そのため森若さんが他の社員の経費申請をチェックし異議を唱えるのは職務上当然のことであり、誰からも咎められない。また経費の不正利用はたとえどんな状況下であっても罰せられる対象で、誰にとってもわかりやすく「悪」である。

 しかし、『わた定』の結衣が信念とする「定時で帰ること」というのは、昨今かなり働き方改革が進んでいるものの、あくまで個人の自由や裁量による部分が大きく、いまだに所属組織や状況によっては必ずしも良しとされる訳ではない考え方である。その点では結衣のほうがこの多様な働き方が認められ始めつつある過渡期に、より自身の信念を持って「定時帰り」を死守していたように思える。結衣の会社には同じように毎日定時帰りする者はいなかった。そんな中、ある種最先端の働き方としてロールモデル不在だからこそ、結衣が覚悟を持ってしてその仕事ぶりで周囲を説き伏せ、より高度に関係各所に根回しし、「落とし所」を常に見つけていたように思われる。

 「経費」については、森若さんが所属する会社でも「社長案件」と呼ばれるイレギュラーケースが存在するようだったが、どちらかと言えば特例をあくまでルール内できちんと仕分けていくのが彼女の仕事で、その「仕分け方」にこそ彼女自身の優しさや粋な計らいが光っていた。対して『わた定』では、前述の通り「定時で帰る」という、まだ曖昧で正解のない考え方について、主人公も周囲の社員と一緒に「より自分らしい働き方ができるように一緒に考えていこうよ」というようなスタンスをとっていたのが印象的だった。その点ではアプローチは異なるものの、やはり両者ともに自分の仕事に対する考え方、捉え方が明確であるからこそ、相手の意見に耳を傾け自身の考え方も伝えることができるという余裕があったのは共通している。

 そんなヒロインの恋のお相手もまたひたむきに仕事に取り組む。『これは経費で落ちません!』の太陽くん(重岡大毅)も、『わた定』の種田さん(向井理)も、必ずしも仕事に対する考え方が主人公と一致していたわけではなかった。それでも、やはり彼らもまた自身の信念を語る“自分の言葉”を持ち、彼らが何気なく言った言葉がヒロインを救う場面が多々あった。

 今、THE恋愛ドラマ一色ではなかなかヒットが難しく、また共働きが当たり前になってきている時代でもある。だからこそ、「仕事」という生涯の営みについてヒロインが四苦八苦しながらも、その仕事ぶりを通して人となりがあぶり出され、そこに惹かれる男性が現れる。そして時にぶつかりながら、互いに励まし合って愛を育んでいくようなストーリーの方が視聴者にとってもすんなり入ってきやすい上、それこそが「ドラマだからこそのちょっとした夢があって良い」という淡い期待を描きやすい憧れのシチュエーションとなっているのかもしれない(「種田さんのような上司が職場にいたら……」「近くの部署に太陽くんのような存在がいたら……」と単純に妄想して楽しんだ視聴者も多かったはずだ)。

 「仕事」を巡る人間関係をコミカルに描きながらも、そこに主題というよりはサブとして恋愛要素が盛り込まれている。それくらいのバランスがリアルでいて理想的だと言えるのだろう。(文=楳田 佳香)

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