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シム・ウンギョンが東京新聞を駆ける!“たった今”を描く政治劇「新聞記者」現場レポ

ナタリー

19/3/26(火) 12:30

「新聞記者」メイキング写真。左から北村有起哉演じる社会部デスクの陣野和正、シム・ウンギョン演じる吉岡エリカ、監督の藤井道人。

シム・ウンギョンと松坂桃李がダブル主演を務める「新聞記者」の撮影現場に映画ナタリーが密着。2018年12月某日、東京都千代田区にある中日新聞東京本社を訪問した。

同社が発行する東京新聞の社会部で現役ジャーナリストとして働く望月衣塑子の著書「新聞記者」を原案とした本作。2017年頃から内閣官房長官記者会見に出席するようになった望月は、真実を求めて質問を重ね食い下がる姿で一躍脚光を浴びた。そんな彼女とその著書にインスパイアされた本作は、国家権力の闇に迫る新聞記者と、理想に燃え国家公務員の道を選んだ若手エリート官僚の葛藤を描いた政治サスペンスだ。

この日の撮影には、「サニー 永遠の仲間たち」「怪しい彼女」といった作品で知られる韓国の女優シム・ウンギョンが参加。彼女が演じる吉岡エリカは、日本人の父と韓国人の母を持つ米ニューヨーク育ちの帰国子女というキャラクターで、自殺した父親の死の真相を探りながら、記者として世の中に真実を伝えていく。彼女の起用について、プロデューサーの河村光庸は「本当にただただ素晴らしい女優と思ったからお願いしました。言葉の問題は、演技力で乗り越えることができるはずだと。それは『かぞくのくに』『あゝ、荒野』で起用したヤン・イクチュンにも感じたことでした」とコメント。

シム・ウンギョンが日本映画に主演するのは本作が初めてとなる。真っ赤なカーディガンにパンツスーツという衣装を着た彼女はゼリー飲料でエネルギーを補給し、とてもリラックスした様子で現場へ。吉岡になり切った彼女は、韓国人のマネージャーと会話する際も日本語という徹底ぶり。撮影は東京新聞全面協力のもと、実際に本物の記者たちが使用しているオフィスで行われた。どこまでが本物で、どこからが小道具なのか判別できないほど現場は作り込まれ、フロアいっぱいにデスクが立ち並ぶ。蛍光灯の白い光だけで照らされた空間は薄暗く、作品の冷たいトーンをうかがわせる。窓からは、およそ1km先にある国会議事堂の中央塔も望めた。

劇中で、吉岡は“羊のイラスト”が描かれた謎めいた大量のFAXの出処を探っていく。撮影が行われていたのはクライマックスへの導入部という大事なシーンで、現場も緊張感に包まれる。本番が始まると数十人に及ぶ社員役のエキストラが、新聞のゲラを手に一斉に歩き出した。ペラペラという小気味いい音がいたるところから聞こえ、現場の様相は一気に慌ただしくなる。その合間を縫って、彼女は小走りで上司のデスクへ駆け寄った。

続くシーンで、吉岡はある原稿の執筆に取り掛かる。カメラは資料が雑然と置かれたデスクでパソコンに向かう彼女の姿を、時にクレーンを用いてダイナミックに捉えていく。カットの合間には時折笑顔を見せ、椅子に座ったまま背筋を伸ばすなど、終始和やかな様子のシム・ウンギョン。だが、ひとたびカメラが回り始めると、シリアスな雰囲気を身にまとう。この日の現場には望月の姿も。彼女は記者としての視点から、主にセリフや所作に関するリアリティチェックを行っている。

本作の監督には、2018年に「悪魔」「青の帰り道」を発表し、山田孝之プロデュース作品「デイアンドナイト」が1月に公開されたばかりの藤井道人が抜擢された。河村は、硬派な政治劇を若者の視点から描くために現在32歳の藤井を起用したと話す。「新聞を読んだことがない」「政治に無関心だった」という藤井だが、河村は彼のこれまでの監督作から、その深層心理に「政治を避けては生きていけない」という意識を感じたそう。そして「今、まさに“たった今”の話を描いています。直近の政治的話題を題材にした劇映画は古今東西あまりない」と、権力による報道メディアへの圧力に関する現在進行形の問題を描きたかったと強調する河村。実際に2019年に入ってからも、首相官邸が「記者が国民の代表とする根拠を示せ」と、東京新聞記者の質問権を制限するような要請を官邸記者クラブに出した問題も発生している。

河村は「新聞記者」を映画化しようとする際「その題材でやるんですか」「ヤバいですよ」と周囲から何の気なしに言われたことを明かし、「この映画の製作過程で私が感じた、“作ってはいけないんじゃないか”という同調圧力、これが今の社会の特質で最大の問題。個人個人は自分が同調圧力に同調していることに気付いてないんです」と、昨今の日本社会を取り巻く空気に警鐘を鳴らした。

「新聞記者」は6月28日より全国ロードショー。

(c)2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

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