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三月のパンタシアのライブはそれぞれが答えを見つけていく 音楽と映像と朗読がひとつになった空間

リアルサウンド

18/7/18(水) 18:00

 ボーカルのみあを中心に活動する音楽ユニット、三月のパンタシア。彼女たちの2ndワンマン『~星の川、月の船~』が、6月23日に東京・TSUTAYA O-EASTで開催された。

(関連:三月のパンタシアの初単独公演に感じた、心地よい喪失感

 この日のライブは活動初期からの人気曲「星の涙」の世界観をテーマにした物語と、バンド編成でのライブとを交互に披露することで「私」と「きみ」の恋の行方を綴った全四章のストーリーを描く彼女たちならではの構成。みあの歌声に魅了されたコンポーザー、イラストレーターといった様々なクリエイターが集い、「音楽」「映像」が融合した空想の物語を作り上げる三月のパンタシアの特徴を最大限に活かしたものになっている。公演前には公式YouTubeアカウントで豊崎愛生が声を担当した今回のライブ用のオリジナルストーリーが第三章まで公開され、観客はその物語の結末をこのステージで目撃することになる。

 まずはステージ中央に設置された透過スクリーンにイラストが表示され、豊崎愛生の朗読で第一章がスタート。ここで同じ高校に通う「私」と同級生の「きみ」との映画館での出会いのシーンが朗読されると、観客とスクリーン1枚を隔てたステージ奥にみあとバンドメンバーが登場し、まずは「群青世界」でライブがはじまっていく。スクリーンにはタイポグラフィを中心に音や歌詞、楽曲のイメージと連動した様々な映像が映し出され、ステージに立てられた約10本のライトも楽曲と連動。曲のサウンドや歌詞、歌の主人公の感情の移ろいがかなり細かく反映されたステージ演出によって観客を物語の世界に引き込んでいく。

 以降もスクリーンを筆頭にしたステージ演出は楽曲の内容を丁寧に反映したものが用意され、ピンクの照明が会場を覆った「フェアリーテイル」、熱量全開のバンド演奏とともに照明がいくつも降り注いだ「イタイ」、青い照明や映像で川辺の風景を再現した「青に水底」、引き続き水のモチーフがスクリーンを覆った「七千三百とおもちゃのユメ」を次々に披露。そのまま第二章に突入すると、ふたたび物語の朗読がはじまり、同じ映画研究部に入って「きみ」への恋心に気づきつつも、「きみ」には好きな子がいることを知った「私」の葛藤が描かれていく。その内容にリンクするように第二章の演奏はより熱量を増し、教室のイラストやチョークの映像が歌詞と連動した「ブラックボードイレイザー」、スクリーンで花が散りゆく様子が美しい「花に夕景」など、様々な視覚表現を効果的に使ったパフォーマンスを繰り広げる。人気曲「風の声を聴きながら」を披露する頃には会場が大歓声に包まれた。

 とはいえ、こうした三月のパンタシア特有のライブを支えているのは、やはりみあの歌声だ。みあの歌声はどこか優しく親近感を感じさせるような雰囲気をまとっていて、聴いた人の心にすっと入り込むような魅力を持っている。そしてそれが、三月のパンタシアの空想の物語を多くの人々に伝え、「自分の歌」や「近しい誰かの歌」として共感を広げる役目を果たしているように思える。また、音楽的にはしとやかなバラードからポップソング、ギターを基調にしたロック曲、エレクトロを取り入れた楽曲など様々なサウンドを持ちながら、それを自然な形でひとつに繋いでしまうのも、こうした彼女の特徴的な歌声ゆえなのだろう。

 以降は第三章に突入して2人のすれ違いや、卒業を機に映画監督になるため上京していく「きみ」との別れが描かれると、連動するように「day break」「キミといた夏」「シークレットハート」「♯最高の片想い」などを披露。その後事前には公開されていなかった第四章のナレーションが突如はじまり、物語は卒業から2年ぶりに学校を訪れた「私」が、部室で「きみ」が撮影したフィルムを見つけるシーンに切り替わる。そしてそのフィルムを見た「私」は、収められたどのカットにも、「私」が映っていたことを初めて知るーー。誰しも経験があるはずの、「あのとき出せなかった少しの勇気」や「ちょっとしたズレ」が生んだ2人の恋の物語は、「はじまりの速度」や「ルビコン」でいよいよクライマックスを迎えていった。

 ここで初めてみあのMCパートが設けられ、観客に今回のストーリーを伝えはじめる。「言わなくても伝わる思いもあるけど、きっと言わないと伝わらない思いもあると思います。(中略)だから私は今目の前にいてくれているあなたに、ちゃんと伝えようと思います。本当に、いつもありがとう」。そう告げると、今回のテーマ曲「星の涙」がスタート。事前に公開された「私」と「きみ」の空想の物語が、三月のパンタシアと観客との物語にも変化していくような雰囲気の中で本編を終えた。

 アンコールでは、みあが透過スクリーンの前に登場し、「会いにきてくれるみなさんが大好きです」と改めて感謝を伝えながら、最後まで観客を煽りながら「恋を落とす」と「コラージュ」を披露。本編のコンセプチュアルなライブとは一転、ここでは観客と息を合わせながらパフォーマンスを繰り広げ、観客も手拍子で熱演に応えていく。その姿はまるでライブバンドのようで、「ありがとう」という歌詞を持ったラスト曲「コラージュ」には、この日の観客への感謝の気持ちが特に込められているように感じられた。

 物語と音楽、そしてライブならではの演奏がひとつになって青春のきらめきを描いたこの日のライブは、通常の音楽ユニットとは異なる三月のパンタシアでしか成立しない。そして何より印象的だったのは、「この物語の最後の涙はどんな涙だったのか。あなたに空想してもらうことで、この物語は完成します」というみあのMC通り、彼女たちがその物語の結末をリスナーに委ねていたことだ。つまり、様々な人々が集まるライブという空間で、それぞれが解釈を持ち帰り、それぞれの答えを見つけていくーー。音楽と映像と朗読がひとつになって生まれる三月のパンタシアにしかなしえない独特のライブ空間と、その物語の中に観客にも空想の余白を残したストーリーテリングの妙が印象的な一夜だった。(杉山 仁)

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