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池松壮亮×蒼井優×新井英樹『宮本から君へ』鼎談 二十数年越しに「救われた」と語る、決闘後の裏側

リアルサウンド

19/10/3(木) 13:00

 漫画家・新井英樹が、何事にもがむしゃらに立ち向かう熱血営業マン・宮本浩を世に出してから29年、ドラマの放送を経て、真利子哲也監督が「もう一歩、人間の難しい局面に踏み込まなければならない」という決意を持って映画化した作品『宮本から君へ』が公開された。

 本作で恋人となり、ある事件をきっかけに共に「愛の試練」に挑むのが、宮本を演じる池松壮亮と中野靖子演じる蒼井優。今回、池松、蒼井に原作者の新井を交えて、本作のラストシーンの裏側でそれぞれが抱いていた思いを聞いた。

【写真】蒼井優の撮り下ろしカット

●池松「どんどん『宮本』に感化されていく」

ーー今日は池松さん、蒼井さん、新井先生の3名でのインタビューよろしくお願い致します。

池松壮亮(以下、池松):さぁ、新井さんが来たら大変ですよ(笑)。

新井英樹(以下、新井):何が大変だよ。いじりばっかだよね。

池松:いやいやいや(笑)。

ーーエネルギーに溢れた作品でしたが、実際の現場で感じた熱量はどうでしたか。

池松:20代から30、40代くらいの若いチームで作っていたんですけど、パワーがありましたね。キャストもスタッフも、どんどん「宮本」に感化されていくんですよ。誰かが疲れると誰かが“宮本化”して、その人が疲れるとまた誰かが“宮本化”して。

蒼井優(以下、蒼井):いい迷惑だね(笑)。

池松:本当にいい迷惑なんですけど、結局はぞれぞれ「宮本」の存在に引っ張られて、みんなの内なる何かが暴れだすみたいな現場でした。

ーー新井さんはどうですか。

池松:俳優として?

新井:えっ、俳優として?(笑)。

ーー宮本浩の父親役で出演されていましたね。俳優目線でみた現場はどうでしたか?

新井:俳優としてはね……いじめられました。子どもの歳くらいの2人にここまでいじられるのかって(笑)。

池松:そんなことないですよ。

新井:こっちは天下の池松壮亮と蒼井優に挟まれて一生懸命芝居をしようとしているのに、本番のスタート直前まで、雑談を振ってくるんですよ。

池松:「新井さんって本読みますか?」って。

新井:今、頭の中で一生懸命セリフを整理しているのに「どう思いますか?」って両サイドから話を振られて(笑)。これが芝居の空気なんだろうなと思ってそれに合わせるようにしていきましたけどね。原作者の立場で言ってしまうと、基本は邪魔になっちゃいけないと思っていたので、一番ネックになるようなシーンは怖くて見に行けなかったんです。例えば、靖子がひどい目に遭うシーンも見に行けないし、宮本と真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)の階段の決闘シーンはもう恐ろしくて見に行けませんでした。次の日、リアルタイム検索で「池松壮亮見た」と探して、池松くんが生きてるのを確認しました(笑)。

池松:いや~新井さん結構、大変なところで来てましたよ。

新井:本当に?

池松:公園のシーンとか、ここで来ないで! って思いましたもん。

蒼井:事件の翌朝の飛鳥山での2人のシーン。

新井:俺もね、行って後悔した。

蒼井:方向性あってるのかな? って原作者の方がいたらすっごい気にしちゃうよね。

池松:どうしたってやっぱ気になる。

新井:逆、逆! 俺は、一緒に演技しなきゃいけないシーンがあるから、ここは慣れないと、と思って見に行っていました。そしたら2人が、リハーサルの段階でボロボロ泣いていたりしていて、うわぁ……すげぇテンション……! って思って。蒼井さんが、カットがかかって、その姿のまま、パッと目の前にあったラムネを取ってガって立ち上がった瞬間に、「あ、ラムネは持たないか」って軽く言ったのを見て、一緒にいた女性プロデューサーの人と「怖。こっわ」って言い合ってました。

池松:女優・蒼井優の素顔を見たと。

新井:さっきまであんなに泣いて叫んでた人が、一瞬で素に戻っていて、怖くなりましたね。この後に所沢で一緒の撮影が待っているのに、余計自分の心の中の「蒼井優」像を、より巨大化させてしまって、来なきゃよかったと心底思いました。

ーー蒼井さんはどうでしたか。

蒼井:私は一番、言葉を大事にしようと考えてやっていました。これだけの新井さんが靖子に与えた言葉の羅列だから、この言葉削れない、この言葉変えられない、と一語一句正確にやるのを目指して。結果できなかったところもあるんですけど。

池松:中盤くらいに、もうOKが出てるんですけど、蒼井さんが「語尾変えちゃった。みんな撤収し始めているどうしよう」って言ってきたんですけど。「でも俺、結構変えてますよ」って言ったのは覚えています。

蒼井:そうやって、なるべく言葉を大事にしたいなと思っていたのに、新井さんが来たら、どんどん自分の台詞変えていくんですよ(笑)。書いた本人が? って思うことがありました(笑)。

新井:そうか、一番変えてるって言われたんだ(笑)。

●新井「救われました」

ーー当初は、池松さんが歯を抜く予定だったのを新井さんが止めたそうですね。

新井:「歯を抜く」って言ったときは「もうその気持ちだけで十分だから」と、池松くんが家に来たときにカミさんと二人で一生懸命止めましたね。抜くって決めてたんだったらそれだけでいいじゃんって。あと、歯を抜いたら思考回路が変わっちゃうから抜かないほうがいいよと言いました。

ーー自分が生み出したキャラクターに蒼井さんと池松さんが向き合っている姿を見て、どんな気持ちになりましたか。

新井:前売券の特典用に“池松くん宮本”を描いてくれと頼まれて、池松壮亮に似なきゃいけないし、原作の宮本も被らなきゃいけないと考えたら描くのが難しかったんです。今回、結婚祝いのプレゼントに蒼井さんの顔も描いた時に、娘に「普段の蒼井優と違う」って言われて。蒼井さんが登場するシーンの描きたい表情で止めていた画面を見ていたら、蒼井さんが漫画の靖子に寄った顔になっていると気づいて衝撃でした。だから、言い訳でもなんでもなく、絵が全く似なくて(笑)。普段の蒼井さんと顔が違うってくらい靖子が乗り移っていたのは、原作者として嬉しかったです。

ーー宮本が決闘後に靖子の元に向かったシーンの映画での顛末に「救われた」と聞きました。

新井:事件が起きた後の宮本の行動は、事件を解決しようという気持ちだけど、とんでもないやり方で、靖子が傷ついたこととは別のことをずっと徹底してやっていて。自分でも描きながら、結局この場合、男があの立場で救うことって一切できないよなと考えていたシーンでした。あとはもう、宮本がやらかしてきたことを靖子がどう受け止めるかだけで。漫画の方は、最後に靖子が宮本を受け入れたけど、描きながら俺、これはずるいことをしたんじゃないかって思いがあったんです。でも、撮影現場で蒼井さんから「あ、私、素で感動したよ」って言われて。俺はそれで救われました。他の人が「ひどいよあの話」って言っても、いやいや靖子を演じてた蒼井優がそれで良いって言ったんだからって。

池松:なんならカットかかって、「もう1回やって」って言いましたからね(笑)。

新井:二十何年あそこはずるいことしたなってモヤモヤしていたのが、帳消しなりました。

ーー蒼井さんは、そのシーンをどう感じました?

蒼井:いや、もう幸せでした。ボロボロになった人に目の前であの状況でプロポーズされて。いい仕事だなと思いました(笑)。でも靖子も実際はあの事件が起きてから、自分と向き合って生きていくんです。前を向くことに執着する。そこからやっと雪が降るシーンで、今になってという話をするんです。だから極限の状態で心がやっぱり追いついてなかったんだろうなとは思います。

新井:プロポーズの時の池松くんの声のトーンが、ずるいんだよね。

蒼井:ずるいずるい。声裏返って。

池松:撮影がはじまって2日目くらいに声をからしてしまったんです。意図的ではないんですよ(笑)。

新井:こんなのやられるじゃんって思うよね。それでもあのシーンで宮本が靖子に「褒めてもらいたい」って言うのを聞いた瞬間に、こいつ頭おかしいんじゃないかって思いましたね。

池松:自分で書いたんですよ。

新井:俺、原作を読み返してなかったからアシスタントに「そんなセリフ書いた?」って聞いたら、「書いてました」って。頭おかしいぞこいつってなりましたね。

ーー池松さんはどういう気持ちでしたか?

池松:漫画では宮本が喧嘩に勝った後に、靖子のところに向かうまでに「あいつが街にやってくる」という章があるんですけど、宮本が今までで1番人生を謳歌している、キラキラしている瞬間なんです。靖子に会いに行って、ああいうことを言って。でも結局は「俺の人生バラ色だからよ」って言いながらも、やっぱり新井さんが話していた罪の意識が僕に乗り移ってしまい、“もう本当ごめん何もできなかった、俺喧嘩勝ったけど、それじゃ解決できない”ということが残って、宮本がウイニングブルーみたいになるんですよね。

 でもそこで靖子が反応してくれたことは、もう宮本を通して死ぬぐらい嬉しかったです。事実も消えないし過去も消えないけれど、全部は無理でも、宮本だから靖子が背負っているものを半分にはできたんでしょうね。

●池松「僕の20代の最後の武器」

ーーこの映画通して、宮本という存在を改めてどういう風に感じていますか。

池松:僕の20代の最後の武器みたいなものです。宮本だったら自分が感じたように誰かの突破口になってくれる。自分がなれなかったヒーローですね。

新井:映画を見た時に初めて気がついたのが、成長する話ではなかったんだということでした。自意識過剰な化け物みたいな男が、色んなことがあって傷ついて成長していく話かなと思ったら、もう喧嘩を頂点に自意識を爆発させていて。

 宮本と靖子の間で起こった事件を自分ごととして考えた、自分なら何ができるか考えると、宮本の行動は意味はないかもしれないけど、少なくとも「こんなことやるやつっているか?」って、徹底して嫌わなくてもいいぐらいの愛し方はできるんじゃないかと思うんです。俺、漫画以上に主人公の宮本の言ってるセリフが恥ずかしかった(笑)。

池松:それは真利子(哲也監督)さんに言ってください(笑)。

蒼井:宮本……難しいですね。私からしたら、めちゃくちゃいい男なわけですよ。

新井:私のタイプ(笑)。

蒼井:そうそうそう。だから絶対に一定数は、めちゃくちゃキュンキュンすると思います。

新井:トラック野郎にとっての八代亜紀みたいな。

蒼井:ははは。胸キュン映画だよって(笑)。

ーーご自身の中には宮本っぽい部分とかはないですか?

池松:ないからこそ、平成の最後に作られて令和に公開になるんじゃないかなと思います。今、この生き方をできる人はなかなかいないと思って。

新井:宮本はエネルギーはめちゃくちゃあるのに捧げる方向を多分間違えていて。でも、方向間違いぐらい許してあげればいいじゃんっていうところはあるんでしょうね。

蒼井:宮本のエネルギーが自分自身に向いているから、見ていて不快じゃないんです。人に認められるためにやってるエネルギーの使い方をしてたら、多分、見ている人は気持ち悪いってなるかもしれないけど、宮本はそうじゃないですからね。

(取材・文=大和田茉椰)

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