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KREVAが語る、『存在感』の制作背景とヒップホップのこれから「しっかり点を打ちたい」

リアルサウンド

18/8/11(土) 18:00

 KREVAが5曲入りの新作『存在感』を8月22日にリリースする。表題曲は、ダークでメランコリックなトラックに乗せて〈存在感はある でも決定打が出ていないような気がした〉とギクリとするようなフレーズをラップする一曲。緊迫感あるビートに乗せて〈結局やっぱり 最後は健康〉と繰り返す「健康」も、胸がザワザワするような印象を強く残す。メタファーでもテクニックでもなく「それを言っちゃうんだ」というストレートなワンフレーズを放り込んでくる作品だ。
 
 制作の背景を聞いたインタビュー。「初めて音楽がおもしろくなくなった」というエピソードから、KREVAが考えるトラックメイキングや音選びの極意まで、語ってもらった。(柴那典)

新しいルールでやったら、おもしろがりながら曲ができた

ーーすごくいい驚きのある作品でした。

KREVA:そうですか、ありがとうございます。

ーーそもそも去年はレーベル移籍を経て久々のソロアルバムの『嘘と煩悩』もあり、KICK THE CAN CREWの再始動もあり、アウトプットの多かった一年だったと思うんです。それを踏まえても、かなり創作意欲が旺盛になっているんじゃないかと思うんですけれど。

KREVA:いやいや、実はそうじゃなくて。これまで音楽がずっと好きだったんだけど、今年の年明けくらいに、初めてつまんないと思っちゃった。

ーーそうなんですか? 

KREVA:理由はわかってなかったんだけれど、キックのツアーが終わったくらいのタイミングでそう思ったんだよね。キックのツアーはずっと20年近く昔の歌をずっと歌ってたわけじゃないですか。で、常に新しくあろうと思ってやってきた俺からすると、それはあんまりおもしろくなかった。そういう感じだったのかな。

ーーそんな風に思うのって、過去にはあまりなかったですよね?

KREVA:そうだね。完全に初めてだった。毎日スタジオには行くんだけれど、何も出てこない。持ってるレコードの整理をしたりするだけで。トラックだけは作ったやつがいっぱいあるんだけど。

ーースランプだった?

KREVA:スランプというよりも、とにかくおもしろくなかったんだよね。「なんのためにやってるんだ、これ?」みたいに思うようになった。で、アプローチを変えてみようと思って。作ってあった沢山のトラックはとりあえず置いておいて、まずはいちから、口をついて出てきた言葉から作ってみよう、と。それで最初に作ったのが「健康」って曲なんだけど。

ーーなるほど。「健康」はどうやってできたんですか?

KREVA:まず〈結局やっぱり 最後は健康〉ってフロウが口をついて出てきて。それを歌いながら車に乗ってスタジオに行って、そのフロウが乗るトラックを1時間くらいで作って、歌詞を書いて、1日で完成まで持っていった。で、普段だったら聴きまくるんだけど、とりあえず聴かずに置いておいて。そしたらまたある日、車に乗ってたら「存在感はある」っていう言葉が口をついて出てきた。そういう感じで、思いついたことをその日のうちに形にするというやり方にして、曲をどんどん作っていってここに至ったという。でも出すことは考えてなかった。

ーーリリースは意識してなかったんですか?

KREVA:このまま誰にも聴かせないのか、ただで配るのか、売るのか、何も考えてなくて。俺が聴くかどうかもわからないけれど、とにかく作るという。それで何かのミーティングのときに、話の流れで「曲はあるんだけど、聴かせるものじゃない」って言って。暗いから聴かせたくないって話をしてたんだよね。でも、聴いてもらったら「いや、いいですね」ってことになった。それでリリースに至ったという感じ。だから、もし柴くんが言うところのスランプだったとしたならば、自分で作って自分で解決したって感じかな。作ることで抜けたというか。

ーー「存在感」はどうでしょう。「健康」が完成したことで何か掴んだ感じがありました?

KREVA:あった。とりあえず1日で完成に持っていくことができるってわかったし。それまで曲ができなかった原因はトラックがあるけど言葉が出てこないというものだったから。でも、とにかく言いたいことはあるんで、あとはもう突っ走るだけだという。そのフレーズに対するトラックを作って、曲を完成させるために歌詞を書いて、ものすごい速さで完成させたから。

ーートラックの作り方はどうでしょう? 「存在感」はメランコリックでスローなテンポ、「健康」は切迫感のあるビートになっていますが、これはどういう作り方だったんでしょう?

KREVA:とりあえず、フレーズを忘れないように、それを録ったんですよ。トラックが気持ちいい速さというのはあるんだけど、それじゃなくて、iPhoneのBPMというアプリを使って言葉の速さを測って。で、そこからコード感をつけた。「健康」のときは、とにかく走ってる感じのビートだけが聞こえていたから、それをつけたという。「こうしてやろう」というのはあんまり考えてなかった。

ーーたとえばアジアでも欧米でも、今のラップミュージックのシーンっていろんなフロウやトラックの作り方が出てきていると思うんです。そのあたりは刺激になりますか?

KREVA:そうだなあ、それでいうと、Mass Appealっていうサイトがやってる「Rhythm Roulette」って企画があるんです。レコード屋にいって、目隠しして3枚レコードを買って、そこからサンプリングで曲を作るという。

Rhythm Roulette: Fish Narc | Mass Appeal

 あとFACT MAGAZINEというメディアがやってる「AGAINST THE CLOCK」という、10分でどこまで曲を作れるかという動画があって。それをずっと見てましたね。その刺激があったから、自分も1日で作れるかトライしてみようと思ったのかもしれない。

Amirali – Against The Clock

ーーなるほど。もともとKREVAさんって誰かが完成した曲や音源よりも、機材やルールに刺激を受けるタイプですよね。

KREVA:そうだね。他にも機材の動画とかにインスパイアされているのが多いかな。それで今回は新しいルールでやったら、おもしろがりながら曲ができたって感じなのかな。

ーー今言ってくれた二つの動画って、どういうところが刺激になったポイントだったんでしょう?

KREVA:「ラフだなあ!」っていう。ゴーを出すのが早い。特にアメリカの黒人のプロデューサーはサクサク決めていくんですよ。やっぱり「これでいける」と思ったら判断が速いんです。ラッパーだって、言いたいことがあって、それがビートに乗るって見えたらすぐにゴーを出せる。それはいいなって思いました。やっぱり時間があればあるほど、いろいろやりたくなっちゃうんですよ。サウンドを差し替えるのも簡単だし、声の高さも、音程もワンクリックで変えられる。でも、その時に形になるというのは尊いなって。

モードが変わってきている気がする

ーー「存在感」についても聞ければと思うんですが、改めて曲にしてみて、なぜこういうモチーフになったんでしょうか。

KREVA:実際にこういうことを思ってたんだと思う。サビができて録ってバースを考えた時に考えてたのは、世の中には「頑張れソング」は飽和状態だから「説教ソング」を求めているだろうということ(笑)。とりあえず存在感はあるけど結果を出せてない人を思い浮かべながら、しっかり文句言っていくつもりで書いた。でも、必然的に自分にも言えるのかなって後で思ったりしたかな。

ーー読み取り方によっては、2種類にとれるんですよね。説教ソングにも聴こえるけれど、一方で自省にも聴こえる。そういうところが曲の深さになっている。

KREVA:そうだね。わかるわかる。だから周りでもモノを作ってる人には特に響いてるみたいで。それは嬉しかったな。

ーーラップの乗せ方についてはどうでしょう。後ろにアクセントを置いてグルーブの後ろに乗っていくんじゃなくて、前のほうに重心があるようなフロウになっている。これは?

KREVA:最近リズムの後ろに乗っていくのって、あまりおもしろくないな、と思って。ジャストか、それより速いくらいのところで乗っていくのがおもしろいと思ってやっているところはありますね。昔だったらどれだけ後ろに乗っていけるかというのを楽しむ音楽だと思ったんだけれど。そこもルールが変わってきているというか、モードが変わってきている気がする。

ーーリスナーとしても、どこかそういうトレンドがあるのを感じます。体感的なもので、なかなか言葉にできないんですけれど。

KREVA:そうだね。昔は、前に乗ってるのが下手だとされてたんですよ。でも技術で前に乗ってるやつらが出てきたんで。後ろに乗るというのがすなわちリズムのポケットを理解しているということだったんだけど、前でつんのめっていくというのもポケットだなって。俺は前に乗っていくのはそんなに好きじゃないからジャストなタイミングでアプローチしてるけれど。

ーーそういうフロウを選択したのは直感でした? 技術でした?

KREVA:直感かな。とにかく作って形にしたかったから。ものすごい速さで、特に「健康」は常に半笑いだった気がする(笑)。

ーー「俺の好きは狭い」はどういうところからできたんでしょうか。

KREVA:これは、いろんなフェスとか番組に出させてもらって思ったことですね。音楽フェス、音楽番組って言うけれど、その幅たるやとんでもないじゃないですか。いかに気持ちを合わせて轟音を奏でるかってヤツもいれば、振り付けが命の人もいるし、可愛さが命の人もいる。これが全部音楽だとしたら、俺は音楽はそんなに好きじゃないなって思っちゃったんですよ。俺の好きは狭いんだなって思って。そういう会話の中で「俺の好きは狭いから」って何回も出てきたから、それをそのまま歌にしました。

ーー「百人一瞬」はどうですか?

KREVA:子供が百人一首を覚えなきゃいけなくて。それでとにかく「百人一瞬」って言いたいと思ってトラックを作った。それだけですね。最初はちょっと百人一首に寄せてみたんですよ。竹笛みたいな音を鳴らして、俳句を詠んでるみたいな雰囲気にして。そしたら台無しになった(笑)。さすがにそれは辞めましたね。

ーー基本的にどの曲もリリック自体は長いけど、一つのことしか言ってないですよね。最初の一行で要約できる。

KREVA:そうそう(笑)。

ーーあと、今回の曲は誰も他に入っていないですよね。トラックメイクもラップも、完全に一人でやっている。

KREVA:これはいい経験になりましたね。最近はトレンドでもないし、やる人もいないし、まあいいかなって思って。

ーー今のポップミュージックのトレンドは曲制作もコライトが多いし、いろんなところでフィーチャリングをしているような潮流がありますよね。

KREVA:それとは真逆だよね。あと、普段はバンドでやってるし、キックもやってるというのもあるかな。こっちは一人でやる形にしたかったというのはありますね。

KREVA『存在感』Music Video+Trailer

若手のいいビートメイカーが育ってほしい

ーーKREVAという人は、基本的に孤高な人ではないと思うんです。慕っている下の世代も多いし、『908 FESTIVAL』みたいにジャンルを超えた領域から集まるフェスもやっている。つながりはいろんなところにある。そういう人が、トラックもアイデアもプロダクションも一人でやるというのって、どういう象徴なんだと思います?

KREVA:そうだなあ、来年、2019年がソロ15周年なんですよ。そこはやっぱり、いろんなことをやって盛り上げたいと思うんです。それはギフトみたいなものだから。で、その前に一人でやっておきたかったというのはあったのかな。一回、しっかり点を打ちたいというか。本当はみんなで「いいね、いいね」ってやっていったほうが楽しそうかなって思ったけど。ただ、瞬発力で形にするおもしろさとか、強さみたいなものを感じることができたから。一つのいい武器ができたと思いますね。

ーーソロデビューからいろんなことをやってきたわけじゃないですか。まだやってないこと、攻めたりないことってあります?

KREVA:あります、あります。たとえば全曲自分じゃない誰かが作ったビートでやりたいというのはありますね。トラックを誰かに全部任せるのってやったことないし。しっかりプロデュースしてもらうこともないし。誰かと一緒に作るっていうのもない。

ーー一緒にやるとするならば、誰が思いつきますか?

KREVA:たとえばBACHLOGICに全曲を作ってもらうのも生きてるうちにはやりたいかな。あと、いろんなところで言ってきたんですけれど、いいトラックメイカーをピックアップしたいというのもある。若手のいいビートメイカーが育ってほしいなって思うしね。

ーーそうですね。特に今の10代でトラックメイカーになろうという人は沢山いると思います。

KREVA:そうそう。iPhoneに入ってるこの音でよくね? これでラップしちゃわね? っていう。どこにいても、自分たちの環境を自分たちが作ったビートで表現するというのはできそうだから。たとえばそういうのもやってみたいかな。たとえば前にJay-Zのアルバムにビートがピックアップされた10代の女の子がいたけど、彼女はAbleton Liveの使い方をYouTubeで見て覚えて、初めて作ったビートがピックアップされたって言っていて。それと同じように、機材の使い方の動画を見てインスパイアされることもあるし。だから自分も、もうちょっと手の内を明かしてもいいかなって思いますね。今作っている人たちに、こうやってビートを組んでるって。

ーーじゃあ、若手のトラックメイカーも是非このインタビューを参考にしてもらえればと思うんですけど、機材やソフトはどういうものを使ってるんでしょう?

KREVA:俺は最近はビートに関しては、Native Instruments Machineのプリセットの中から、時間があるときに格好いいのを選んでますね。フェイバリットマークみたいに星がつけられるんですよ。たとえば「このスネア、いいな」と思ったら星をつけておく。で、いざ曲を作りたいってなったときに、星がついている中から曲のフィーリングにあったスネアを選んでいく。常に選ぶ作業をしていて。ゼロから作るということは全くない。ただ、それでも納得いかないときは、昔から使っているMPC3000に一回サンプリングする。そういう作業をして自分の納得いく鳴りとかノリにしてやっています。

ーーその「いい音」っていうのは、感覚的なものですよね?

KREVA:感覚ですね。ただ、これはよく思うんだけど、「ヒップホップ・ビート」みたいな名前のいろんな音源が沢山売ってるんですよ。でも「ヒップホップ」っていう名前のやつに俺がヒップホップを感じる音が入ってないことが多いっていうのは言っておきたいかな。

ーーなるほど。それは興味深い。

KREVA:ヒップホップって、もともとソウルとか、ヒップホップじゃない音楽をサンプリングして組み合わせて作っている音楽なわけで。誰かが「これがヒップホップだ」と考えて作ったようなものは、俺から言わせるとあまり使い物にならない。薄味の音にしか感じないから。それと、正直、レコードの音を知っているというのは、すごく重要な気がする。

ーー古い日本の歌謡曲とかもヒップホップになりうる。

KREVA:むしろそのほうがヒップホップになると思うんだよね。RHYMESTERの宇多丸さんが言っていたんだけど、サンプリングのおもしろさって時間の流れが直線的じゃないところにあって。たとえば30年くらい前の音を切って持ってきて最新にしちゃうっていう。とはいえ、そこに来るまでの直線を理解しているかどうかで違うって感覚もあるかな。

ーー特に今は90年代が歴史になりつつある時代ですもんね。そこを切り取ってもいいし。

KREVA:まさに。ドレイクのアルバムもそうだったけど、今は90年代から00年代の曲がサンプリングソースになっている。時代が動いてる。そういう風に作っていくほうが面白いものを作れそうな気がするからね。

(取材・文=柴那典)

■リリース情報
『存在感』
発売:8月22日(水)
【初回限定盤(CD+DVD)】¥2,300(税抜)
【通常盤(CD)】¥1,500(税抜)
※初回限定盤はスペシャルパッケージ(デジパック仕様)
〈CD〉
1. INTRO
2. 存在感 
3. 俺の好きは狭い 
4. 健康 
5. 百人一瞬 
〈DVD〉
1. 存在感 (Music Video)
2. 存在感 (Making)

・配信情報
8月22日(水)より、iTunes Storeほか主要配信サイト、Apple Music、dヒッツほか定額制聴き放題サービスで配信予定

『存在感』特設サイト

■ライブ情報
『908 FESTIVAL 2018』
8月31日(金)日本武道館
出演アーティスト:KREVA / 三浦大知 / 絢香 / JQ from Nulbarich / 尾崎裕哉 /高畑充希
開場/開演:17:30 / 18:30
チケット代:8,300円(税込)
※U19キャッシュバック(19歳以下の来場者には当日500円返金)
908 FESTIVAL特設サイト

『クレバの日 スペシャルライブ 〜大阪編〜』
9月08日(土) Zepp Osaka Bayside
開場/開演:17:45 / 18:30
1Fスタンディング/スペシャルプレゼント付 ¥9,080(税込)
2F指定席/スペシャルプレゼント付 ¥9,580(税込)
一般公演チケット発売日:9月1日(土)
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00-18:00)
クレバの日〜大阪編〜特設サイト

オフィシャルサイト

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