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立川直樹のエンタテインメント探偵

鬼才クリエイター三宅純、久石譲&デヴィッド・ラング、『カタストロフと美術のちから展』……エンタテインメントが幸福の迷宮へと誘う

毎月連載

第13回

ブルーノート東京 JUN MIYAKE 三宅純 Photo by Makoto Ebi

 自分でもあきれるくらいに忙しく飛び回って仕事をしていると思う。この報告書を読んだ人から「よくあんなにたくさんのものを見に行ってるよね」と言われるが、わからないでもない。しばらく前には広告業界の巨匠、杉山恒太郎の本『僕と広告』(グーテンベルクオーケストラ刊)に載せるという文のための取材で「忙しいのに夜、本当によく出かけてますよね」と言われ、「遊ばない方が疲れる」と答えたら、恒ちゃんから「最高だよ!」とお誉めの言葉を頂いた。

 11月24日の土曜日も、来年の9月に福岡で開催予定の[世界を変えた書物]展の下見、打合せのために日帰りをし(往復の移動の間に読めた“劇団☆新感線”のプロデューサー、細川展裕さんの書いた『演劇プロデューサーという仕事「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』(小学館刊)はかなりおもしろい本だった)、その夜にブルーノート東京で観ることができた三宅純の素晴しいライヴも好奇心というか、欲の深さがあってこそ味わえるもの。どこか変態的な動きと歌い方が80年代初頭のロンドンやニューヨークの夜を思い出させてくれた女性ヴォーカリストのリサ・パピノー、その名前通りのハーモニーを聞かせてくれたコスミック・ヴォイセズ、ブルーノ・カピナン、実に多彩なリズムを叩き出していたZ.L.ナシメント……といった外国勢とバカボン鈴木(ベース)、伊丹雅博(ギター、マンドリン他)、金子飛鳥ストリングスという日本勢の混成部隊を司祭のようにとりしきる三宅純(フリューゲルホルン、ピアノ)まで総勢16名の優れた技巧を持ったミュージシャンたちによって編み出されるマジカルな魅力を持った音楽。ピナ・バウシュの舞踊団の音楽でも名を馳せ、2016年のリオ・オリンピック開会式での『君が代』のアレンジのユニークさで一般にもその名を知られるようになった三宅純はパリを拠点に世界的活躍を続ける鬼才クリエイターであり、昨年11月に完結した『ロスト・メモリー・シアター』3部作は僕の愛聴盤だが、CDで聴くのとはまた違ったグルーヴ感が幸福な迷宮へと誘ってくれた。幸福な迷宮と言えば、その2日前によみうり大手町ホールで実現した久石譲とデヴィッド・ラングの夢の競演も申し分のないものだった。

ブルーノート東京 JUN MIYAKE 三宅純 Photo by Makoto Ebi

 パオロ・ソレンティーノ監督の映画『グランドフィナーレ』の映画音楽でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞にノミネートされたことでその存在が広く知られるようになった(それだけの値打ちのある素晴しい音楽だった)デヴィッド・ラングは“ザ・ニューヨーカー”誌が「『マッチ売りの少女の受難曲』のピューリッツァー賞音楽部門の受賞によって、かつてはポストミニマリストの前衛作家の1人だったが、アメリカの巨匠としての地位を確固たるものにした」と絶賛している作曲家だが、2人が最新作を持ち寄ってのコラボレーションは久石譲の的確な指揮と“ローリング・ストーン”誌が「チェロのロック・スター」と評したマヤ・バイザーをはじめとする熟達したテクニックを持ったミュージシャンたちが一体となることで、最高に濃密な音空間を体感させてくれたのである。

 その余韻が残る中で、会場で販売していた昨年の“MUSIC FUTURE”シリーズのライヴCDを帰宅してから聴いた時の満足感。オープニングのデヴィッド・ラングの『pierced』に僕は今完全にはまっている。そしてこのつながっていく感覚のおもしろさは、中国の現代美術家であり社会運動家としても活躍するアイ・ウェイウェイが監督した衝撃的なドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』の試写を観た後で、森美術館で1月20日まで開催されている『カタストロフと美術のちから展』を観に行った時にも感じたこと。アイ・ウェイウェイからジョルジュ・ルース、スウーン、宮島達男……からオノ・ヨーコまで国内外40人(組)のアーティストが参加し、様々なアプローチによる作品が展示されているが、世界の政治情況がシンクロしてくるのも興味深く、僕は脚本家の倉本聰さんが「4Kだと言いますが番組の中味が変わるんでしょうか。電器メーカーが稼ぐのではなく質を高めてほしい。……歌手やスポーツ選手まで学芸会のように出てくる。これはトレーニングを積んだ役者にとって屈辱的なこと。……」とテレビに向かって苦言を呈した言葉を思い出しながら、家ではオノ・ヨーコの最新CD『ウォーゾーン』へと手をのばしたのである。

『カタストロフと美術のちから展』
オノ・ヨーコ
《色を加えるペインティング(難民船)》
1960 / 2016年
ミクスト・メディア・インスタレーション
サイズ可変
展示風景:「オノ・ヨーコ:インスタレーション・アンド・パフォーマンス」マケドニア現代美術館(ギリシャ、テッサロニキ)2016年

作品紹介

『JUN MIYAKE 三宅純』

日程:2018年11月24日~25日
会場:ブルーノート東京

『カタストロフと美術のちから展』

会期:2018年10月6日~2019年1月20日
会場:森美術館

『演劇プロデューサーという仕事「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』

発売日:2018年10月25日
著者:細川展裕
小学館刊

『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』

発売日:2018年11月21日
価格:3000円(税抜)
Wonder Land/Exton

『ヒューマン・フロー 大地漂流』(2017年・独)

2019年1月12日公開
配給:キノフィルムズ/木下グループ
監督・製作:アイ・ウェイウェイ

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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