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酷評相次ぐQuibi、動画配信サービス業界のゲームチェンジャーとなるか? 実際に作品を観てみた

リアルサウンド

20/5/13(水) 8:00

 コロナ禍で外出自粛が続く中、NetflixやAmazon Prime Videoなどの動画配信サービスの需要が高まる中、アメリカでは4月6日に新たな動画配信サービスが誕生している。「Quibi」だ。スマートフォンに特化した動画配信サービスとして、1800億円のもの資金を集めローンチされた「Quibi」の初動の反応から、新たなゲームチェンジャーとなるか読み解いていきたい。

参考:Quibiの映像はこちらから

・「Quibi」とはどんなサービス?
 「Quibi」はドリームワークス・アニメーションの前CEOであるジェフェリー・カッツェンバーグが創業。eBayやヒューレット・パッカード・エンタープライズのCEOを歴任したメグ・ホイットマンがCEOを務めており、配信サービスの戦国時代と呼ばれる中、他社と差別化された、スマートフォンに特化した機能にローンチ前から大きな注目を集めていた。

 iPhoneまたはAndoroidのスマートフォンがあれば利用できるQuibi。Media Innovationによれば、配信初週で100万ダウンロードを突破している(参考:動画配信サービスの「Quibi」、1週間で100万ダウンロード突破 | Media Innovation)。ローンチまでに登録していれば90日無料という特典もあったからだろう。プロモーション動画には、リース・ウィザースプーン、アントワーン・フークア、ピーター・ファレリー、ギレルモ・デル・トロなど錚々たる面々が登場し、いつでもどこでもスマートフォンで楽しめる4分~10分の質の高いコンテンツを売りにしている。(広告付きであれば)$4.99という動画配信サービスとしては最安の価格も魅力的だ。現在配信作品は25作品程度に留まるが、年内に200以上に増える予定だ。動画配信サービスに対してネガティブだったスティーヴン・スピルバーグも参入するから驚きである。

・実際にQuibi作品を観てみた
 日本にはまだ上陸していないためQuibiを利用することはできない。ただ、朝日放送HDがQuibiに投資したと日経クロステックにて報じられている(参考:朝日放送グループHDがファンドを通じ米国の動画配信事業者に出資 | 日経クロステック(xTECH))ことから、もしかしたら日本上陸も近いかもしれない。現状、アプリの操作性などを含めて体感することは出来ないが、YouTubeのQuibi公式チャンネルでいくつかの作品について視聴可能なので早速観てみることにした。

 まず目を引くのは、リアム・ヘムズワース主演のリメイク作品『Most Dangerous Game(原題)』だ。Quibi最大の売りの一つである「横向きモード」と「縦向きモード」の両方がYouTubeでは視聴可能になっている点が非常にユニーク。ひとまず横向きモードで視聴を開始。約7分間でクリストフ・ヴァルツの元にカウンセリングに訪れたリアム・ヘムズワースの会話劇が続く。ヘムズワースに怪しい依頼をするヴァルツは、安定のヴァルツだなと思っていたら7分経ってしまった。あっという間だ。ストーリーの序章の序の字もまだなのでは?と感じる。『Most Dangerous Game』は15チャプターあるので、トータルで105分。導入として非常に面白そうだっただけに「7分間で分ける必要はあるのか……?」と少し感じてしまった。

 一方、縦向きモードはどうだろうか。これが非常に好みが分かれるところだ。YouTubeでも縦向きモードは体感できるが、はっきり言って画面内の情報量が限られすぎている印象が否めない。撮影側も縦向きで観ても、演出が伝わるように撮影しなければならなかったのではないかと思う。そのため、細かい演出はおそらく画面中央にすべて表示しなければならないのではないだろうか。実際のQuibiのプロモーション動画を観る限り、スマートフォンの向きを変えるだけでスムーズに縦向きと横向きを変更できる機能が売りだが、ドラマに関しては映像や役者の演技が素晴らしいだけに縦向きの必要性があまり感じられない。

 『Most Dangerous Game』だけではなく、マイカ・モンローとデイン・デハーン出演の『The Stranger(原題)』、アナ・ケンドリック主演の『Dummy(原題)』も観たが、いずれも同じ感想だ。俳優やクリエーターとしては作品製作や出演のフィールドが広がるチャンスだが、作品が良いだけに、これをNetflixやAmazon Prime Videoで観たいという思いがよぎる。

・Quibiのライバルは本当にNetflixやAmazon Prime Videoなのか
 筆者の場合は家でスマートフォンでドラマを観るためにQuibi動画を観たからこそ、違和感を禁じ得なかったのかもしれない。IGNやBloombergのジャーナリストたちはこぞって、移動中や空き時間の暇つぶしに観るのには良いかもしれないが、誰かと一緒に観ることができない(物理的にはできるが画面が小さくて観にくい)、せっかくの良い映像が縦向きだとその良さを失うと報じており(参考:Quibi Shows Reviewed: What to Watch and Skip – IGN)、そもそもドラマをどういうタイミングで観るのかが大事になってくるサービスである。

 また、Bloombergでは、スマホ中毒のミレニアル世代にとって、縦向き画面はInstagramのように感じると感想を述べていた(参考:Quibi Review: Social Media, Not TV, Is Its Main Competition – Bloomberg)。筆者もミレニアル世代として同様に感じる。Quibiを実際に使ってはいないので、あくまでも縦向きで10分程度のドラマを観て感じるところだが、ライバルはNetflixやAmazon Prime Videoではないと感じる。ふとした瞬間に時間が空いた時に、なんとなくSNSを眺めるようなテンションでQuibiを観るということはあると思う。ただ、NetflixやAmazon Prime Videoはスマートフォンにも対応しているので、必ずしもQuibiでなければならない理由がない。また、眺めるようなテンションで観るにはドラマの内容が良い意味で面白そうで、ふとした暇つぶしに縦画面で観るにはもったいないとさえ感じる。いっそのこと同じような使い方であれば、SNSで流れてきたミームの動画を10分眺めていた方が、逆に罪悪感がない。さらに言えば、NetflixやAmazon Prime Videoに加入してなかったとしても、スマートフォンであればYouTubeという強敵がいる。

・コロナ禍で問われる真価
 コロナ禍において外出自粛が続く今、地下鉄やバスの待ち時間のような「ふとしたスマートフォンでの暇つぶし」が起きにくい現在、その他の海外メディアもこぞってQuibiについては辛口評価だ。いつでもどこでも観れるが、結果的に家にいることが多い今、あえてスマートフォンでドラマやリアリティ番組を観るということがない。よほど面白ければ別だが、常にQuibiを開いて観てしまうほどのコンテンツ力ではないと各社報じており、ガーディアン紙は★1つ評価で最低ランク評価(参考:Quibi review – shortform sub-Netflix shows aren’t long for this world | Television & radio | The Guardian)、Entertainment Weeklyは6作品中4作品は無視していいぐらいのレベルと酷評している(参考:Quibi reviews: 6 shows to check out, and 4 you can skip | EW.com)。まだ配信作品も少ないため、この時点で判断をすることは難しいと感じるが、厳しい船出であることは否めない。今後、200近くの作品が配信される中で、変わってくるのかもしれない。あくまでも個人的な考えだが、10分以内の短い尺で、且つスマートフォンでの差別化を図るなら、逆に1話完結にしてしまったほうが、隙間時間の利用としては効率が良いのではないかと感じる。

 また、酷評の中でも、各社共通してアプリの操作性については高評価であったことから、Netflixのようにゲーム感覚で楽しめるインタラクティブ作品を導入すれば評価もさらに変わるのかもしれない。スマートフォンを日常的に触るミレニアル世代以下がターゲットであることは、スマートフォン特化という点からも感じるので、ライバルは何も動画配信サービスだけではないのは明白だ。スマートフォンの隙間時間であればむしろ、YouTube、Twitter、Instagram、Tik Tokといったサービスやスマートフォンゲームなどがライバルになると思われる。ミレニアル世代以下にとっては、SNSやスマートフォンゲームはある種インフラレベルで浸透しているからこそ、ここに今後いかに食い込みQuibiに時間を割いてもらえるかが鍵になるだろう。年内の動向に引き続き注目したい。 (文=キャサリン)

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