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『鬼滅の刃』大ヒットだけじゃない! 2020年、出版業界を揺るがした5大ニュース

リアルサウンド

20/12/12(土) 8:00

 世間的には2020年の出版業界と言えば『鬼滅の刃』一色だが、業界内的にはほかにも大きな出来事がいくつもあった。特に「本をいかに届けるか?」をめぐる問題が重なった年だった――今年を振り返っていこう。

新型コロナウイルス感染症流行で全国の書店が営業自粛

 4月7日に緊急事態宣言が発令され、16日には対象地域を全国に拡大、5月25日に全国で解除されるまでの期間、書店も営業自粛(休業、時間短縮)となることが少なくなかった。

 これまで地震や台風など自然災害に伴い一部地域で休業・時短営業となることはあったが、全国的に、というのはおそらく初めてのことだろう。

 アルメディアの調査によれば、2020年5月1日時点の書店数は1万1024店(前年比422店の減少)。このうち売場面積を持つ店舗は9762店と実質的には書店は1万店を下回った。おそらくこのあと、多くの飲食店同様、コロナ禍が決定的な一撃となった書店も少なくなかっただろう(正確な変動は来年発表以降の統計を見なければ不明だが)。

新型コロナウイルス感染症流行でネット書店の物流が停滞

 緊急事態宣言下でリアル書店で本に接することが難しくなり、版元的にも読者的にもネット書店に頼らざるをえなくなったところで、なんとオンライン書店でも出版物流が停滞。Amazonなどについては「医療品や生活必需品の輸送を最優先するため」と報じられた。

 リアル書店の存在を考慮して直取引にあまり力を入れてこなかった出版社も、リアル・ネット両書店が厳しい状況に陥ると、積極的に取り組むようになった。

 この混乱は緊急事態宣言が解除されると徐々に収まっていったが、出版関係者に出版物流やネット書店に対する不信と不安を高める機会になってしまった。

 一方、リアルの物流とは関係のない電子書籍はよく動いた。

 また、各社が主に外出自粛と休校を強いられている子どものために学習まんがなどを開放したことも印象的な出来事だった。

Amazonの返本(返品)がひどいと話題に

 緊急事態宣言下では、出版社がAmazonに委託する(直でAmazonの倉庫に発送する)「e託」サービスで本の発注数・販売予測数が急減して複数の版元からクレームが発生したが、その後、8月から9月にかけてAmazonからの書籍の返品の質の悪さや量の多さに関する報告が出版社から多数あがり、10月には業界団体・日本出版者協会が抗議・要望を出した。

 抗議文によれば「具体的には、返品する書籍を段ボールに梱包する際、平置きすべきところを縦に差すことで傷んでいる、また空いた空間に緩衝材を入れるなどの措置を取っていないため、段ボール箱がつぶれて商品が損傷している、といった商品そのものの扱い方と破損に対する報告が複数あります。そのほか返品伝票が破れていたり、印字が薄くて読めないといった報告もありました。返品の量に関しては、8月になって急に大量に返品が増えた、という報告が複数ありました」とのことだ。

 e託は名前の通り委託、つまり出版社からするとAmazonに預けている商品(だからこそAmazon側が返本可能)であり、決済が終わっていない段階では会計上、出版社側の在庫である。つまり、Amazonの在庫ではない出版社の商品を、Amazon側で破損したのに平気で返してよこしているという、非常に悪質な出来事である。

 ネット書店から始まったAmazonだが、もはや本は数ある商材のひとつにすぎず、ほかの利益率や単価が高い商品と比べれば軽んじられるようになってしまったと言わざるをえない。

 この返本問題は、6月にアマゾンジャパンのメディア事業本部長が退職し、書籍事業部の後任がKindleのマネージャーとの兼任になったという人事が影響しているのではと一部では見られている。

 なお、こうした抗議が関係しているのかは不明だが、e託は今年春頃までは新規受付をしていたが、その後、停止している(2020.12.7現在)。

「出版物の総額表示義務化」(消費税込み表示義務化)問題

 これまで税別表示が許可されてきた書籍販売に関して2021年4月から実施予定の出版物総額表示義務化について多数の出版社から不満が噴出。

 これまで本は「本体価格+税」表記となっているが、これを税込み価格に統一せよ、というわけだ。

 しかし出版界は1989年の消費税導入時にカバーがすべて差し替えになったという悪夢(莫大なコストがかかり、回収できる見込みの薄い本は絶版になった)を経験していることもあり、これに猛反発。

 この法律自体は、飲食店やスーパー、家電などで店によって税抜表示と税込表示が分かられていて買う側にとってわかりづらいから税込みで統一しようという消費者利益を考慮して作られたものだが、本で「本体価格+税」と書いてあることで不利益を被る読者がどれほどいるのか、という話である。

 食品などとは異なり、本は(ものにもよるが)長い目で売っていくことを前提にした商品であり、今後も消費税が変わるたびにカバーを刷り直す(または新規にシールを貼って対応)しなければならないとなると経営的に成り立たない出版物・出版社が続出しかねない。

 これも出版物流をめぐる問題として今年注目されたものだ。

トーハン、日販が物流協業を開始――出版物流大変革が急務と公言

 取次大手のトーハンと日販が11月から雑誌返品業務の協業を実施し、順次協業の範囲を広げていくと見られている。

 出版業界紙ではトーハン、日販の経営陣から「出版物流の変革が急務」とくりかえし語られ、具体的に「2年以内」というリミットの示唆まで飛び出すようになっている。

 もともと戦後日本の出版物流は、定期刊行物かつ大量に売れる雑誌を中心にし、また、文化物であるという前提から配送コストは例外的に低く抑えられてきたが、90年代後半以降、書籍をはるかに上回る速度で雑誌市場がシュリンクし、かつてと同じビジネスモデル・料金体系では出版物流が成り立たなくなってきた。

 そこにトラックドライバーのブラック労働改善の動きやそもそもの人手不足もあいまって、配送コストをラディカルに上げ、配送頻度を減らさないと、配達を請け負う業者がいなくなってしまう、という危機的な状況にある。

 ではその配送コストを誰が負担するのか。書店はそもそも利益率がきわめて低い業態であり、不可能だ。つまり、版元が負わざるを得ない。版元はどこからそのお金を捻出するか。本の価格に転嫁するしかない。

 したがって、これまでも紙の価格高騰などに伴い本の値段は上がってきたが、向こう2、3年でさらに(場合によっては劇的に)上がる――出版業界を持続可能なものにしていくためには上昇させざるをえないことが予想される。

 そもそも日本の本の価格は欧米に比べれば印刷物としての質のわりに圧倒的に安かったが、その時代も終わりを遂げるのかもしれない(もっとそもそもを言えばゆるやかにインフレしていくのが経済としては望むべき姿であり、本の値段が上がることがよくないわけではなく、賃金が上がらない状態で本の値段だけ上がっていくからかつてよりも割高に感じて買い控えが起こってしまうという負のスパイラルが問題なわけで、根本的に解決するには経済をなんとかしないと、という話なのだが……)。

 ふだん本を買ったり読んだりするときには、本の中身のことしか考えない人も少なくないだろう。しかし、届けるしくみがあるからこそ、本の中身に触れることができる。

 破格の部数を刷った『鬼滅の刃』最終巻が発売日に無事に書店に届いたのは印刷所、取次、ドライバー、品出しする書店員等々とたくさんの人の商売を成立させるしくみがあったおかげだ。日本全国の書店で人気の本が発売日にほぼ同時に買える状態を、今後も続けていけるかどうか。正念場である。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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