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矢野顕子が語る、変化する日常で音楽を奏でる喜び 「私たちは明日をも知れない存在」

リアルサウンド

18/11/29(木) 18:00

 矢野顕子の新作『ふたりぼっちで行こう』は、Reed and Caroline、吉井和哉、YUKI、奥田民生、松崎ナオ(鹿の一族)、大貫妙子、平井堅、上妻宏光、U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS、平井堅、前川清、細美武士との共作曲によるコラボレーションアルバムとなった。Little Featが参加したデビュー作『JAPANESE GIRL』(1976年)以来、世代とジャンルを超えたアーティストとセッションを繰り広げてきた矢野。「ふたりぼっちで行こう」というタイトル通り、ひとりひとりのアーティストと真摯に向き合い、互いの才能と閃きをぶつけ合いながら制作された本作には、彼女の音楽的なスタンスが端的に示されていると言えるだろう。(森朋之)

「この人と歌いたい」と思うかどうか 

ーーニューアルバム『ふたりぼっちで行こう』がリリースされました。キャリアを通して様々なコラボレーションを行ってきた矢野さんですが、今回、改めてコラボをテーマにしたアルバムを制作したのはどうしてですか?

矢野顕子(以下、矢野):理由はないですね。スタッフから「こういう企画はどうですか?」と提案されて、「はい」と答えたということです。

ーー奥田民生さん、大貫妙子さんなど以前から何度もセッションしている方から、吉井和哉さん、Reed and Carolineなど初めて一緒に音楽を作る方もいて。コラボ相手を決めるポイントは?

矢野:“誰と何をやるか”が大事なのは当然ですが、私が「この人と歌いたい」と思うかどうか、じゃないですか?

ーー収録曲についても聞かせてください。1曲目の「When We’re In Space」(矢野顕子&Reed and Caroline)はタイトル通り、スペイシーな雰囲気のエレクトロポップ。矢野さんの宇宙への関心の強さは有名ですが、それが音楽に影響を与えることはありますか?

矢野:直接にはないと思います。私自身のものの考え方には影響があるでしょうね。つまり「自分がこの地球にいるのはなぜだろう?」ですとか、「この先、地球はどうなるだろう?」とか、生き方全般に。“そういう考え方の人間が作る音楽”という意味では、結果的には影響されているのかもしれません。

ーーNHK Eテレの『SWITCHインタビュー 達人(たち)』で宇宙飛行士の油井亀美也さんと対談したときも、すごく楽しそうでしたよね。どうしてそこまで宇宙に惹かれるんですか?

矢野:いまのところ、宇宙について調べることがいちばん楽しいんですよ。そういう情報に接していると「これは一体、なぜだろう?」と知りたいことが次から次に出てくるんです。なので、時間を区切るのが難しいですね。やらなくちゃいけないこともあるので(笑)。

ーー「パール」(矢野顕子&吉井和哉)もこのアルバムの聴きどころのひとつだと思います。吉井さんとはこれまでにも交流があったんですか?

矢野:なかったです。この曲はずっと前から知っていて、自分でアレンジしてコンサートで演奏したこともあるのですが、一度も上手くいったことがなくて。曲に対する研究が足らなかったんでしょうね、そのときは。今回、吉井さんと一緒にやることになって、さらに真剣に曲と向き合って、「どう表現するか?」ということを考えて。この曲は、どうしようもない八方ふさがりの気持ちを大きな空間に映し出しているんですね。ふたりで歌うことで、この曲の広がりをしっかり出せたと思うし、とても良かったんじゃないでしょうか。男性と歌う場合はキーを合わせるのが難しいところなんですが、「パール」はオリジナルのキーと同じなんです。私も歌えるキーだったし、いろいろうまくいったということですね。

ーー「横顔」(矢野顕子&大貫妙子)は、大貫妙子さんとのデュエット。アルバム『SUPER FOLK SONG』でもカバーされていますし、ライブでも何度も披露されている曲ですね。

矢野:はい。CMで使っていただくことになったので、アルバムにも収録することになりました。大貫さんと一緒に歌うのはとてもおもしろいんですよね、毎回。10代のときから知っていますが、お互いに人生への理解が深まったことで、“いまの私たち”が出せたんじゃないかなと。

ーーおふたりの関係性も時期によって変わる?

矢野:それはそうですよ。小学校のときと同じ遊びをしているわけではないので(笑)。根底にあるものは同じであっても、年齢によって変わってきますよね。

ーー若いときから交流のあるミュージシャンがいまも元気に活動していることは、やはり心強いですか?

矢野:それはすごくあります。お互いに健康で、音楽を作っている仲間がいることは本当に感謝ですし、「いてくれてありがとう」という気持ちです。年々、少なくなっていきますからね。あと10年くらい経ったら、もっと少なくなっているでしょうし。

ーー「ただいまの歌 〜ふたりぼっちで行こうver.〜」(矢野顕子&U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS)も素晴らしいです。U-zhaanさんとは以前にもコラボ—ションしていますが、彼の演奏家としての魅力はどんなところにあると思いますか?

矢野:タブラの技術はすでに確立していると思います。それよりも今回は、サウンド全体を作り、プロデュースする能力の高さに驚かされました。アレンジをすべてお任せしたのですが、タブラをひとつひとつ録音してトラックを作ってくれたんですよ。それを聴いてピアノと歌を録ったのですが、すぐにできましたね。

ーー環ROYさん、鎮座DOPENESSさんのラップと矢野さんの歌のバランスも興味深かったです。以前のインタビューで「自分の音楽にはメロディが大事なので、ヒップホップには興味が持てない」とおっしゃっていましたが、そのスタンスは変わったのでしょうか?

矢野:そうではなくて、このふたりが特別なんだと思います。私の音楽には、ラップをする必然性がないんですよね、基本的には。たとえば詩を読む、ボカリーズで言葉を音のように扱うことは昔からやっていますが、私が知る限り、“聴きたい”と思うラップはあまりないです。「誰かの自慢話や愚痴をどうして聴かなくちゃいけないの?」と思うし、もっとヒドい内容の曲もありますから。ただ、アメリカのCommonという人は好きですね。歌詞の内容が一大ファミリーストーリーだったりして、泣けるんですよ。

ーーやはり歌の内容が大事。

矢野:はい。それはリスナーのみなさんも同じでしょ? 環ROYさん、鎮座DOPENESSさんは「俺様は〜」みたいなことはぜんぜん歌っていないし、いつも「そうそう、こういう歌を聴きたい」ということを歌ってくれるんですよね。

いまは、リスナーのことを考えることのほうが多い 

ーー「あなたとわたし」(矢野顕子&前川清)も印象的でした。前川さんの歌、素晴らしいですね。

矢野:私もそう思います。素晴らしいですよね。

ーー矢野さんは前川さんの1stアルバム『KIYOSHI』(1982年)に楽曲提供していますが、その後も交流はあったんですか?

矢野:いえいえ、そんなことはないです。ほとんどお会いする機会もなかったのですが、「あなたとわたし」を『ラジオ深夜便』(NHKラジオ第1)で使っていただけることになって、久しぶりにご一緒して。彼の歌の素晴らしさを上手く出すためにはどうしたらいいか、ということを考えましたね。お互いに歌のプロなので、相手に合わせて歌うわけですけども、前川さんもすごく考えて歌ってくださって。素晴らしい技術だなと思いましたね。

ーーアルバムの最後には、細美武士さんとのデュエット「やさぐれLOVE♥」を収録。ライブではELLEGARDENの楽曲をカバーしたこともありましたが、彼らのことを知ったきっかけはなんだったんですか?

矢野:当時はいろいろな音楽をチェックしてたんですよね。日本に来るたびにスペースシャワーTVを観たり、努めて聴くようにしていて。ELLEGARDENはそのときに知ったバンドのひとつで、最初はてっきりアメリカのバンドだと思ったんです。その後、日本のバンドだとわかって、CDも全部買って。そのなかに(矢野がカバーした)「右手」があったということですね。「やさぐれLOVE♥」は私と細美さんで一行ずつ、交互に歌詞を書いたんですよ。

ーーいまも新しいアーティストをチェックしているんですか?

矢野:ときどきはしますが、「もういいかな」という気持ちもあります。ちょっと疲れてきたといいますか、「素晴らしいな」と思うアーティストには滅多に出会えないですから。才能のある方はいらっしゃるんでしょうけど、なかなかね。

ーー他にやらなくちゃいけないこともありますからね。

矢野:そうそう。NASAの文献を読んだりね(笑)。

ーー矢野さんは一貫して、ご自分の表現欲求に従って創作を続けているイメージがありますが、リスナーに対してはどんな思いを持っていますか?

矢野:いまはね、リスナーのことを考えることのほうが多いです。特にきっかけがあったわけではないですが、年齢を重ねたこともあるでしょうし、長年やってきて、「お客さんがコンサートに来てくれるから、自分はここにいられる」ということがわかってきたんじゃないでしょうか、ようやく。

ーーそういう意識の変化が、演奏や楽曲に影響を与えることも?

矢野:そうならないのが、矢野顕子ですよね(笑)。でも、コンサートでは、みなさんが喜んでくださる曲を入れるようにしています。本来なら、もっと前にそうしなくちゃいけなかったんですけど。会場に来てくれる方々に何を提供したいか、どんな曲を聴いてもらいたいかというのは、今の私にとってすごく大きいですね。

ーー今年の『さとがえるコンサート』も楽しみです。矢野さんはライブのたびに「来年はどうなるかわかりません」と言うじゃないですか。あれは本心ですか……?

矢野:もちろん本心ですよ。今年やれたからといって、来年はどうなるかわからない……だって、明日トラックに轢かれちゃうかもしれないでしょ。いろんな要素がありますからね。もちろん「来年もやれたらいいな」という希望は持っていますけども。

ーーあの言葉を聞くたびに、「また来年も矢野さんのライブに来れるようにがんばろう」と思うんですよね。努力だけではどうにもならないこともあるでしょうけど……。

矢野:そういう意味では、みんなが同じ土台に立っているんだと思いますよ。いろいろな社会状況の変化もあるし、自然災害とかね。そう考えると、「いまの状態がずっと続いていく」とは言えないじゃない? 実際、私たちは明日をも知れない存在だし、それが基本なんだと思います。だからこそ、コンサートをやれたときは「本当に良かったな」と思うし、わざわざ私のコンサートを選んでくれる人がいるというのも、当たり前のことじゃないんだなって。そのとき、その場所で好きな音楽を聴けるということは、本当に深いことだなと私は思いますね。

(取材・文=森朋之/写真=三橋優美子)

矢野顕子『ふたりぼっちで行こう』(初回限定盤)

■リリース情報
『ふたりぼっちで行こう』
発売:2018年11月28日(水)
初回限定盤(CD+DVD+BOOK):¥6,000(税抜) 
通常盤(CD):¥3,000(税抜)
<収録曲>
M1.「When We’re In Space」 矢野顕子&Reed and Caroline
M2.「パール」 矢野顕子&吉井和哉
M3.「バナナが好き」 矢野顕子&YUKI
M4.「父」 矢野顕子&奥田民生
M5.「大人はE」 矢野顕子&鹿の一族
M6.「横顔」 矢野顕子&大貫妙子
M7.「Rose Garden」 矢野顕子&上妻宏光
M8.「ただいまの歌 〜ふたりぼっちで行こうver.〜」 矢野顕子&U-zhaan x 環ROY x 鎮座DOPENESS
M9.「Smile」 矢野顕子&平井堅
M10.「あなたとわたし」 矢野顕子&前川清
M11.「やさぐれLOVE♥」 矢野顕子&細美武士

<初回限定盤のみ>
[特典DVD]
・『ふたりぼっちで行こう』 Making Movie
 すべてのアーティストとのレコーディング現場の模様とコラボレーションに纏わるインタビューを収めたメイキング映像作品(約40分)
・「バナナが好き」 Music Video
矢野顕子&YUKI 先行シングル「バナナが好き」のアニメーション・ミュージックビデオ
[特典BOOK] 全52ページ
コラボレーションの経緯や矢野との関係性、そして各曲の背景までを紐解く解説本
・オリジナル特典
下記対象商品のいずれかを対象店で予約・購入者に、先着で以下特典をプレゼント。
<対象商品>
11月28日(水)発売NEW ALBUM 『ふたりぼっちで行こう』
【初回限定盤】CD+DVD+BOOK ¥6,000+税
【通常盤】CD ¥3,000+税
<特典>
『ふたりぼっちで行こう』特製クリアファイル
<対象店>
・タワーレコード 全国各店 / タワーレコード オンライン
・Amazon.co.jp
※Amazon.co.jp では、特典つき商品のカートがアップ。
特典を要望の方は特典つき商品を購入下さい。
※特典は無くなり次第終了。
※対象店は随時追加となる可能性あり。
※取扱いの無い店舗等あり。詳しくは店舗へ問い合わせのこと。

特設サイト

■ライブ情報
『さとがえるコンサート 2018』
12月2日(日)<ゲスト:松崎ナオ>
【埼玉】三郷市文化会館 大ホール 
12月4日(火)<ゲスト:大貫妙子>
【大阪】サンケイホールブリーゼ 
12月5日(水)<ゲスト:YUKI>
【愛知】名古屋市芸術創造センター
12月9日(日)<ゲスト:奥田民生、細美武士>
【東京】NHKホール
12月11日(火)<ゲスト:松崎ナオ>
【宮城】仙台電力ホール  

<出演>
矢野顕子
佐橋佳幸・小原礼・林立夫

■関連リンク
矢野顕子 オフィシャルサイト

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