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『シャーロック』原作要素を薄める挑戦に成功 “ディーン・フジオカ版”として会心のミステリーに

リアルサウンド

19/10/29(火) 6:10

 冒頭のシーンから「傘を取ってくるから」と語りかける女性の姿。それだけで「自宅へ雨傘を取りにはいったきり、この世から姿を消してしまった」という、『シャーロック・ホームズの事件簿』の『ソア橋』で語られるジェームズ・フィリモア氏のことを思い浮かべずにはいられない。10月28日に放送された『シャーロック』(フジテレビ系)第4話は、“語られざる事件”の中でも極めて魅力的で想像をかき立てられる事件を取り上げた、珠玉のミステリードラマとなったといえるだろう。

参考:ほか場面写真はこちらから

 初防衛戦の直前に、突然姿を消した世界チャンピオンの梶山(矢野聖人)。その試合を観戦しようとしていた獅子雄(ディーン・フジオカ)と若宮(岩田剛典)が控室に乗り込んでいくと、そこに江藤(佐々木蔵之介)が現れる。近くで殴られて階段から突き落とされた男の遺体が発見され、その事件現場付近で梶山の姿が目撃されたという。控え室に置かれたプレゼントの中にあったオレンジ色の女性物の傘に興味を示した獅子雄は、殺人事件の重要参考人となった梶山を探すために、梶山と同じジムに所属する中学生ボクサーの潤(小林喜日)に近付くことに。

 前述の「ジェームズ・フィリモア氏の失踪事件」が登場した『ソア橋』という事件は、世界一の金鉱王ギブスンの屋敷に住み込む家庭教師のグレイスが、ギブスンの妻・マリアを殺した罪で逮捕されるのだが、実はマリアが嫉妬心から殺人に見せかけて自殺したということが明らかになる物語だった。例によって“語られざる事件”を軸にして、それが登場する物語のエッセンスを散りばめる本ドラマ。今回のエピソードでは、ボクサーの梶山とかつての恋人で失踪した優子(小島藤子)、2人の息子で梶山のジムの後輩の潤、ジムのオーナーで優子の友人だった石橋(金子ノブアキ)、そして優子が死に至る事故を引き起こし石橋に殺された村川と、登場人物だけでも複雑極まりないストーリーが展開するように思えてしまう。

 しかしながら、そこにあったのはミステリードラマとしてはあまりにもシンプルな「嫉妬」という動機だけ。『ソア橋』よりも複雑な人間関係を設定しながら、あくまでも「嫉妬」という要素だけを引き出し、女性から女性に向けられた嫉妬から男性から男性に向けられた嫉妬へと脚色する。つまりは、これまで描かれた3つのエピソードと比較しても、かなり原作の要素を薄くし、その分このドラマの持つオリジナリティを高められるだけ高めた、まさに会心のエピソードへと生まれ変わったというわけだ。

 積極的に捜査に乗り出すようになった若宮によって、バディ感がますます強くなっていく獅子雄と若宮。すっかり恒例化した獅子雄のバイオリンタイムと若宮の“熱湯芸”。そして極め付きは終盤に石橋を追い詰めるシーン。後楽園ホールのリング上という舞台設定と、スポットライトを浴びて登場する梶山と潤というドラマチックなお膳立てが為され、最後の最後まで獅子雄は優子が「傘を取りに行く」と言った理由で悩み続ける。仰々しくありつつも、オールドファッションなミステリードラマのスタイルを漂わせる巧みな演出に、西谷弘の演出回かと思ってしまったが、クレジットで今回は野田悠介の演出回だと知って正直驚いた。第2話に続いての登板で、完全に“ディーン・シャーロック”のあるべき姿を完璧に掴んでいるようだ。 (文=久保田和馬)

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