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斎藤工×窪田正孝の“変化球コンビ”が復活! 『火村英生の推理 2019』従来のバディものとの違い

リアルサウンド

19/9/29(日) 6:00

 「この犯罪は美しくない」

 9月29日夜10時30分から放送される『臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019』(日本テレビ系)では、斎藤工と窪田正孝が難事件の解決に挑む。

参考:斎藤工 × 窪田正孝=犬猫バディの萌えポイント 『火村英生の推理』が描く“ちぐはぐな絆”に迫る

 2016年1月期に放送された『臨床犯罪学者 火村英生の推理』(日本テレビ系)。斎藤工扮する臨床犯罪学者・火村英生と窪田正孝演じる推理作家・有栖川有栖が犯人と駆け引きを繰り広げる本作は、続編を希望するハガキが約1万通届くなど大きな反響を呼び起こした。待ちに待った『臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019』では、3年半ぶりに火村とアリスのコンビが復活する。ここでは、2人のキャラクターを軸に本作の魅力を読み解いてみたい。

 『火村英生の推理』の原作は、小説家・有栖川有栖による一連のシリーズ作品。犯罪学者・火村と、作者の分身である推理作家・アリスの組み合わせは、ホームズとワトソンを彷彿とさせる。また、作者が作品に登場する手法は、アメリカの作家エラリー・クイーンが用いたものとして知られる。ほかにも、名作からの引用やオマージュがそこかしこに散りばめられているのだが、一見すると使い古されたようなギミックを、現代的な視点で再解釈しているのが『火村英生の推理』の新しいところだ。

 例えば、いわゆる“バディ”ものは刑事ドラマや探偵ものでは珍しくないが、火村とアリスのコンビは若干変化球気味で、従来のバディものと異なる魅力を発散している。

 犯罪心理に関する洞察を駆使して事件を解決に導く火村の「臨床犯罪学者」という呼称は、アリスによるものだ。「人を殺したいと思ったことがある」と公言する火村には“美しい犯罪”を探し求めた過去があり、火村を近くから見守るアリスは「火村がいつか“あっち側”に行ってしまうのではないか」という不安を消し去ることができない。実際に、連続ドラマの最終話では、過激派集団「シャングリラ十字軍」のリーダー・諸星沙奈江(長谷川京子)との対決を通して、内なる殺人衝動と向き合う火村の姿が描かれた。

 犯罪者の内面を知る火村が、犯罪者を糾弾する側の人間であるという矛盾は、本作の一貫したテーマである。では、殺人衝動という悪魔を火村はどのように抑えつけているのだろうか? その秘密は、高校生連続殺人魔“アポロン”(小野寺晃良)との会話(第9話)で明かされる。「この世に美しい犯罪なんて存在しない。あるのは、醜く、残忍で無価値な犯罪だけだ」。それを証明するために、犯罪の真相を解明するのだと話す。独特の美意識から発する火村のスタンスは、固定化した善悪と正義の観念に揺さぶりをかける。

 危ういバランスの上に立つアンチヒーロー的な主人公に対して、飄々とした雰囲気で火村と行動を共にするアリスは、さしずめ物語世界のガイド役だ。内面に没入する火村が“陰”なら、アリスは“陽”であり、犯罪という閉じたフィールドを「こちら側」の現実に接続する役割を担っている。モノローグ(独白)的な思考の火村にとっては、推理作家で自身の考えを理解する唯一の人間がアリスであり、2人の対話が原動力となって、心理劇を本質とする謎解きのプロセスが進行していく。

 2人をめぐる人々にも注目だ。火村が暮らす下宿の大家・篠宮時絵(夏木マリ)とのやり取りは、ダークな色調に覆われたドラマで、そこだけ陽だまりのような親密さとぬくもりを感じさせる。京都の町並みを意識したセットや小道具、衣装へのこだわりも目を楽しませてくれる。

 欠落を抱えた主人公は、犯罪を憎むことで自身の過去と対決する。もしこの世に「美しい犯罪」が存在するなら、火村は周囲の制止を振り切って罪を犯すだろうか? アガサ・クリスティの古典ミステリーを模した連続殺人犯との駆け引きを描く『臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019』には、「なぜ人は犯罪に手を染めるのか」という犯罪捜査の核心を突く問いかけが存在しているのだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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