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ネクライトーキーが語る、鬱屈した感情を昇華したポップサウンド「悪口書いてる人の方が味方かも」

リアルサウンド

18/12/5(水) 12:00

 あどけなさの残るキュートな歌声とポップで疾走感あふれるメロディ、そしてそれとは裏腹の鬱屈したネガティブな歌詞が絶妙なコントラストを生む、中毒性たっぷりのサウンドが大きな話題を呼んでいる男女4人組バンド、ネクライトーキー。彼らの初の全国流通盤『ONE!』が12月5日にリリースされる。

 結成1年半にしてすでに確固たる世界観を築き上げ、3rdデモシングル「オシャレ大作戦」のMVは公開わずか4カ月で再生数150万回突破(11月26日時点で約183万回再生)、各地のサーキットイベントでは常に入場規制が起きるなど、新人とは思えぬ快進撃を続けている彼ら。実は、メインコンポーザーの朝日(ギター)は、バンド・コンテンポラリーな生活やボカロP・石風呂としての活動も長く、そこで培ったソングライティング能力や確かな演奏力が、このバンドの基礎体力になっていることは間違いない。そして、そこにもっさのフレッシュなボーカルが乗ることによって、唯一無二のケミストリーを引き起こしているのだ。

 「ネクラ」と「クライ」を掛け合わせた不思議なバンド名を掲げているが、実際の彼らはどんな性格なのだろう。バンドの空気感や関係性を探るため、メンバー全員に集まってもらった。(黒田隆憲)

■メンバーの音楽的ルーツは?

ーーネクライトーキーのメインコンポーザーは朝日さんだそうですが、元々はどんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?

朝日:僕の原体験は多分ゲームだと思います。子供の頃に初めてやったのが『星のカービィ』で、石川淳さんがメインテーマを手がけていたんです。それがとてもコミカルでテンポも良いのに、なぜか泣けるんですよ。渋いフレーズがいくつもあるし。それって僕がネクライトーキーでやっている音楽性にも、すごく影響を与えていると思うんですよね。

ーーギターを始めたのは?

朝日:中学生の頃でした。「ギターをやりたい」と言ったら父親がくれたんです。父親といっても、ずっと離れて暮らしていたので顔もよく覚えてないし興味もなかった人なんですけど、どうやら母親が連絡したらしくギターだけ送ってきたんですよ。しかも、自分が使っていた「お下がり」のギター。で、「せっかく貰ったし」と思って弾いてみたら、すごく楽しくなって。2週間もしないうちに、自分で曲を作り始めていたんです。そもそも、なぜギターをやりたいと思ったのか、よく覚えてないんですけど、でも両親ともギターをやっていたみたいで母親から「蛙の子は蛙だね」って言われたのは覚えています(笑)。

ーー『星のカービィ』以降は、どんな音楽が好きだったんですか?

朝日:母に教えてもらったニール・ヤングやYes、The Doobie Brothersなどを聴いていました。母はThe Doobie Brothersの大ファンで、来日した時にホテルを突き止めて出待ちしてたらしいんですよ(笑)。それでサインも貰ったと言ってました。でも、そんな話も僕がギターを始めてから教えてくれたんですよね。

ーーボカロPとしての活動を始めたのはいつ頃?

朝日:「コンテンポラリーな生活」というバンドを藤田と始めた後なので、二十歳過ぎたくらいかな。暇さえあれば曲を作っていたので、それを完成形まで持っていけて、なおかつネットにすぐ上げて反応が貰えるのが楽しくて。ちなみに、僕にVOCALOIDの存在を教えてくれた友達は、今ネクライトーキーの映像をやってくれてる高校時代からの友人なんです。

ーーそんな朝日さんと、一番付き合いが長いのは藤田さんなんですよね?

藤田:そうです。私は中学生の頃にポルノグラフィティを好きになって、中でも元メンバーでベーシストだったTamaさんが書く曲が好きだったんですね。それで「ベースって何?」という感じで興味を持って、自分でも弾くようになってました。

 で、高校に入ってすぐ朝日さんとコンポラ(コンテンポラリーな生活)をやり始めたんですけど、その頃はレッチリ(Red Hot Chili Peppers)とかKASABIANとか好きでしたね。あと、ミドリが大好きでギター&ボーカルでコピバンもやっていたり(笑)、高校卒業後は音楽の専門学校に入って、ジャズとかちょろちょろっと聴くようになったりして。でも、一番夢中になったのは、対バンもしたことがあるジョゼというバンド。この前解散してしまったんですけど、めちゃくちゃ追いかけてましたね。

朝日:今、被ってるその帽子も……。

藤田:そう、ジョゼのグッズです(笑)。他には、それでも世界が続くならや、The Cheseraseraが好きです。ジャンルや音楽スタイルで好きになるというよりは、世界観や歌声に惹かれることが多いですね。

ーータケイさんはコンポラのサポートドラムをやっていたんですよね?

カズマ・タケイ:はい。僕は姉の影響で音楽を聴くようになり、ブルーハーツ(THE BLUE HEARTS)に衝撃を受けたのがドラムに興味を持つきっかけでした。本格的に始めたのは、高校の吹奏楽部に入ってから。先輩がすごく変わった人で、新入部員たちに「これ、いいよ」と言って勧めてきたのがZAZEN BOYSの1stアルバム『ZAZEN BOYS』だったんですよ(笑)。最初は拒絶反応を起こしたんですけど、リズムがものすごく面白くて気がついたらハマっていましたね。

ーーもっささんが音楽に目覚めたきっかけは?

もっさ:私の両親は沖縄出身なんですけど、小さい頃はお父さんの影響で沖縄民謡やBEGIN、夏川りみさんなどを聴いていました。家には三線やアコギがあったので、それで遊んだりもしていましたね。高校生の頃は完全な「ネット民」で(笑)、ニコニコ動画にどっぷりハマってたんです。当時はボカロがメチャメチャ流行ってたんですけど、それを片っ端から聴いていました。

ーーそこで朝日さんがやってた「石風呂」に出会うわけですね。

もっさ:そうです。「石風呂」だけボカロっぽくないというか、「変な人がいるな」と思って気になってました。ちょうど自分がバンドに興味を持つようになった時期だったんですよ。特にチャットモンチーにメチャメチャ衝撃を受けて、「私もギターを弾かねば」と(笑)。

ーー「石風呂」の曲をカバーして、ネットに上げてみようと思ったのは?

もっさ:歌うのは小さい頃から好きだったんですけど、「自分の歌ってどうなんだろう?」というのを、誰かに客観的に聴いて欲しかったんだと思います。ネットだったら贔屓や遠慮もなく、第三者的に評価してもらえるかなと思って、それで好きな曲をカバーさせてもらった中に「石風呂」の曲もあったんです。

ーーそれを聴いた朝日さんが、連絡をして来たのが最初の出会いだったと。

朝日:そうなんです。女性ボーカルのバンドをやりたくて、ずっとメンバーを探していて。ただバンドをやるとなったら、人生の時間の大半を注ぎ込むようになるわけじゃないですか。その判断をさせるのは、高校生には酷だなと思ったので。でも、その5年後に再会するんですよね。

■トリッキーなバンド名になった理由

ーーしかも、コンポラのライブを観に来ていたもっささんを、朝日さんが見つけて誘い込んだんですよね。とても運命的です。当時の構想としては、「石風呂」の女性ボーカル版みたいなバンドを作ろうと思ってたのですか?

朝日:最初はそうでした。初期は「石風呂」の曲もやっていたし、ベースも藤田じゃなくて、違うベーシストが入る予定だったんですよ。

ーーそれが藤田さんになったのは、どんな経緯で?

朝日:なんか……暇そうだったから。

(全員笑)

朝日:当時、コンポラの活動もあまりやってなくて、そしたらみるみる元気が無くなってて。僕は音楽でメンバーを食わせていきたいと思っていたので「だったら一緒にやるか」と。実を言うと、コンポラに俺を誘ったのは藤田だったんですよ。それで始まったバンドだったので、だったら今度は俺から藤田を誘おうかなと。なので、このバンドはタケちゃん、もっさ、そして藤田という順にメンバーが決まったんです。

ーー朝日さんが「音楽でメンバーを食わせていきたい」と思った時は、バンドとしてある程度の見通しが立っていたのですか?

朝日:いや、コンポラの時は全然立ってなかったし、今も立っているわけじゃないですね。でも、見通しが立つからバンドを始めるとか、将来が約束されてるからメンバーを誘うとかじゃなくて、「俺がそうするから」っていう気持ちが大事というか。勝算とか全然ないですけど、それくらいの意思がなきゃ無理だろうなって思ってますね。

ーー頼もしいです。メンバーの皆さんも、そんな朝日さんを信頼しているからこそ、一緒にやっているわけですよね?

朝日:……そうなの?(笑)。

タケイ:でも実は、影のリーダーは僕なんですよ。

もっさ:それは絶対そう! じゃなきゃ(バンド活動が)回ってないです(笑)。

タケイ:基本、朝日はポンコツなんです。「メール返すね」って言って半年返さないし。

藤田:ほんっとにそう!(笑)。

タケイ:バンドを結成し、どういうビジョンでやっていくかは朝日が考えて、メンバー全員で共有するところまでは出来るんですよ。でも、そこからいざバンドを動かすってなった時に、誰も出来る人がいない(笑)。別に僕はリーダー気質があるわけじゃないけど、僕しかやれる人がいないんですよ。

ーー藤田さんとか、しっかりしてそうに見えますけど……。

藤田:いや、全然ダメです。許容範囲がものすごく狭くて、やることが多くなると端から抜けていくという。

タケイ:テーブルがちっちゃいんだよね。乗せられるものが限られてる(笑)。

朝日:実は藤田が一番アーティスト気質なんじゃないかな。

タケイ;もっさはムードメーカーですね。彼女がいると場が和むし。

ーーネクライトーキーという、変わったバンド名はどうやって付けたのですか?

朝日:「次集まる時にバンド名決めようぜ」という話になり、それぞれが考えてきた案を持ち寄ることにしたんですね。そしたら候補の名前が10個くらい上がったんですけど……。

もっさ:考えてきたの、私だけだったんです!!

(全員笑)

藤田:「わー、もっさ沢山考えてきたねー」って。

タケイ:「じゃあ、この中から決めちゃおう」みたいな(笑)。

もっさ:完全に騙されました……。

ーー(笑)。どんな意味が込められているんですか?

もっさ:元々、「トーキー・メモリーズ」っていうバンド名にしたいって言われてて、それを防ぐためにみんなで考えようって話だったんですよ(笑)。

藤田:あまりにダサ過ぎるからね(笑)。

朝日:俺が考えると大抵ダサくなる。その前の候補は「ゴーゴー・メモリーズ」だよ?

もっさ:そうならなくて良かったです(笑)。でも「トーキー」っていうのは残しておこうかなと思って。あと、曲の雰囲気から「ネクラ」「クライ」という言葉を入れて、そしたら「ライト」という言葉も全部入ったんですね。私的には語感がちょっと微妙かなと思ったんですけど、みんな早く決めたいのか「これでいいよ、これこれ!」みたいな感じで決まっちゃいました(笑)。

ーー実際、自分たちのことを「ネクラ」だと思いますか?

藤田:どうだろう……。でも、恐ろしくネガティブだと思いますね。仕事とかしてても、人と関わろうとか一切しないし(笑)。プライベートと仕事は絶対一緒にしない。

タケイ:僕は、根は単純でポジティブなんですけど、知らず知らずの間に分厚い壁を作っているらしいです(笑)。

朝日:俺、小学生の頃はめちゃめちゃ明るかったんだけどな。中学校のねじ曲がったスクールカーストのせいでネクラになってしまった。「こいつら全員殺したい」って思ってたからね。

(全員笑)

朝日:でも、実際に手を下したら前科がついちゃうから、あいつらに復讐するためには誰よりも稼いでやろうと思ってますね。それででっかい家を建てて、犬を5、6匹飼うのが目標。それも小型犬じゃなくて、トイじゃない方のプードルとか、ピットブルとか。

藤田:「稼ぐ」の定義(笑)。

■ネクライでしか出せない“オリジナリティ”

ーーでも、そういう鬱屈した感情が楽曲へと昇華されているのかもしれないですね。

朝日:そう思います。ていうか、音楽をやってるから俺はまだ「この程度」で済んでるのかもしれない。「表現する」ということをやってなかったら、キツイ人生だっただろうなと思いますね。ネットとかにメチャクチャ人の悪口を書いている人たちとか、ちょっと他人事じゃない気がしていて。自分も一歩間違ってたら、そうなっていたかも知れないし、むしろそういう人たちこそ俺の味方なんじゃないかとも思っていて。もちろん、ネクライトーキーを楽しんで聴いてくれるのは有難いんですけどね。

ーー以前のインタビューを読んだら、曲の作り方がユニークで。例えば、「タイフー」は“Arctic Monkeysの「Brianstorm」をフジファブリックがカバーしたら”とか、「許せ!服部」は、“Blurの「Girls And Boys」をユニコーンがカバーしたら”みたいな「見立て」をすることが多いみたいですね。

朝日:そうなんです。傲慢な言い方になるかも知れないですが、それでもちゃんと、自分のオリジナリティが出せる自信があるんですよね。しかもバンドって面白いもので、転がり始めると自分の手に負えなくなっていくというか。他のメンバーの要素もどんどん入ってきて、今はもうネクライトーキーにしか出来ない曲を作っていると思っています。

ーーもっささんも、今回2曲作っていますよね。

もっさ:ネクライトーキーに入る前は、女の子3人でバンドを組んでいて、そこでも曲は作っていたんです。ただ、「ゆうな」とか全然ネクライトーキーっぽくなくて、大丈夫なのかなと思ってました。元々、このバンドのために作ったわけじゃなくて、すごくプライベートな内容やし……。

ーーでも、それがアルバムのアクセントにもなっていますよね。これは、お父さんのことを歌っているのですか?

もっさ:(恥ずかしそうに)そうです。絶対、本人に聞かせたくないんだけどな……。

朝日:いや、絶対聴くでしょ。一人娘が始めたバンドだよ?(笑)。

ーー今作『ONE!』で、特に思い入れのある曲は?

藤田:私は「がっかりされたくないな」という曲が大好きですね。実は、バンドを始めた当初からあったんですけど、デモ音源にもなっていなかったんですよ。で、今回やっとレコーディング出来るというのでメチャメチャ楽しみにしてました。レコーディングでもミックスでもマスタリングでも、曲順を決めるときでも口を出しまくったんですよ(笑)。おかげでとても良い仕上がりになったので、満足してますね。

朝日:そんなに愛されるなんて、幸せな曲ですよね(笑)。

ネクライトーキー MV「だけじゃないBABY」
タケイ:僕は「だけじゃないBABY」が大好きです。これはバンド結成当初からデモ音源が存在していて、当初は1stデモシングル「タイフー!」と両A面で出す話になったんですけど、そんな扱いは嫌だなと思って反対したんですよね。なんでそんなに好きなのか、うまく説明できないんですけど……。

ーー叩いていて気持ちいいとか、そういうことではなく?

タケイ:あ、それもありますね。他の曲は忙しいので、歌いながら叩けるのは大きいかも(笑)。

もっさ:私は「こんがらがった!」が一番印象に残ってます。「めっちゃいい曲にしたい」っていう朝日さんのこだわりで、メロがレコーディングのギリギリまで何度も変わったんですよ(笑)。最終的に決まったのは、歌録り当日の朝だったのかな。でも、頑張ったおかげでメチャいい曲になって、ホンマに良かったなって思います。

藤田:確か、もっさが録音ブースに入ってからもAメロ変わったよね?

朝日:出だしの1音だけ変えた(笑)。

藤田:そしたら、もっさがなかなか受け入れなくてね(笑)。一度録ってみて、聴いて確かめたところでようやく納得した。

ーーでも、なんだか不思議ですよね。朝日さんの楽曲に憧れていた「元ネット民」のもっささんが(笑)、今こうして同じメンバーとして一緒に曲を作っているなんて。

もっさ:ほんとですよ。未だに信じられないところはあります(笑)。でも、こういう時代だから起こり得ることなんだなあとも思いますね。

朝日:バンドメンバーも、よく受け入れてくれたなと思いますよ。実績も特にない、素性もよくわからない「元ネット民」を(笑)。

藤田:「まあ、朝日さんがそこまで推すなら……大丈夫なんでしょう!」という気持ちでしたね。

朝日:大丈夫でよかったよね。

(一同笑)

(取材・文=黒田隆憲)

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