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くるりとミツメによる“記念碑的”対バン 両者が日本のインディーロックに与えた影響とは?

リアルサウンド

19/10/23(水) 7:00

 本日2019年10月23日、くるりとミツメの対バンが恵比寿LIQUIDROOMにて行われる。このニュースが発表になったのは8月のことだったが、「なんていい対バンなんだ!」と筆者も思わず小さくガッツポーズをしてしまった。そんな思いを抱いたのは筆者だけではないようで、チケットは争奪戦の末にソールドアウト。筆者の友人からもなかなかチケットが取れずに苦労したと聞いた。つまり、それほどまでに注目の組み合わせの企画なのだということだ。ただ、両者の共通項を言語化しようと思うとなかなかはっきりとは表現しづらい部分もあるかもしれない。本稿ではそんな両者を、日本のロックバンド、特にインディーロックへの影響という視点から考えてみたい。

(関連:くるり「ソングライン」&ミツメ「エスパー」のMV視聴はこちら

 1996年結成のくるりに対して、ミツメの結成は2009年。ほぼ干支一回り分ほどキャリアの違う両者だが、筆者も含めミツメの同世代に近い現在30歳前後のリスナーやアーティストに最も影響を与えたバンドを挙げるなら、やはりくるりの名前を外すわけにはいかない。ミツメやその同世代がハイティーンから20歳前後にかけての時期に、とりわけ存在感を発揮していたのが他でもないくるりなのだ(もちろん今でもだが)。とは言え、その“くるりの存在感”というのは独特なものでもあった。TVの音楽番組にガンガン出ていくようなタイプではなかったし、音楽性自体も攻撃的で聴き手を煽るようなものではなかった。ただ、くるりと同時期デビューのバンド、例えばSUPERCARやNUMBER GIRLなどに比べると、たとえ音楽好きでなかったとしても「誰でも知っている」バンドという立ち位置にあったということは、筆者自身も当時肌で感じていたところ。もっとも前者2組は早くに解散しているというのも大きいだろうが、いずれにせよそんな独特なポジションにいたという事実が、くるりの存在の稀有さを表している。そもそも、くるりはれっきとしたメジャーレーベル所属のバンドである。ただ彼らの在り方は、個人での自主制作の環境が充実してきたという要素も相まって2010年前後以降に飛躍的に増えたインディーシーンで活躍するDIYのバンドたちにこそ、自分たちらしいのびのびとした表現を探求するという点において多大な影響とインスピレーションを与えたように思う。

 never young beach、Yogee New Waves、シャムキャッツ、そしてミツメなどがその筆頭だろう。前者2組は現在はメジャーにフィールドを移しているとは言え、くるりと同じビクターエンターテインメント所属(never young beachはレーベルメイトでもある)。そして後者2組は特定のレーベルに所属せず、自分たちだけの手で作品を世の中に送り出している。その中でも音楽性という切り口でくるりに最も近いと言えるのが、ミツメだ。彼らを一言で表現するならば、プロフィールにある「そのときの気分でいろいろなことにチャレンジしている」バンド、というのがまさに言い得て妙である。ストレートなバンドアレンジの1stアルバム『mitsume』(2011年)からスタートしたミツメだが、2nd『eye』(2012年)ではダビーな音響処理やシンセサウンドを前面に出したアレンジに変貌。続く『ささやき』(2014年)では「停滞夜」「いらだち」のようなファンキーなグルーヴにまで守備範囲を広げ、『A Long Day』(2016年)ではバンドのアンサブルにフォーカスしたプレーンな10曲が揃えられた。アルバムごとに常に流動的な姿を見せるこうしたミツメの楽曲の在り方は、ちょうどくるりの変遷にも重なる。

 2ndアルバム『図鑑』(2000年)までのロックバンドとしてのストレートさから、続く『TEAM ROCK』(2001年)、『THE WORLD IS MINE』(2002年)でのエレクトロニック志向への変化はミツメの足跡に似ているし、今改めて名曲「ワンダーフォーゲル」を聴いてみるとミツメの「Fly me to the mars」を逆に想起させられもした。『アンテナ』(2004年)以降も、クラシックやプログレ風のアレンジ、民謡風のメロディや民族楽器の取り込み、ヒップホップへの接近……等々、変幻自在に変化していくくるりの音楽性。そんな彼らの在り方は、“ロックバンド”という枠組みを常に解体・再構築しているかのようであり、なにより、一つのかたちに囚われないことで自らタコツボに陥ってしまうことを回避していくための、後輩バンドたちーー特に先ほど挙げたような「自分たちの好きなようにやっている」インディー(もしくは出身の)バンドのーーつまりはミツメにとっての、コンパスにもなっているように感じるのだ。

 ただただアレンジを闇雲に変えていてはバンドとしての統一感を欠く懸念も否めないわけだが、くるりもミツメもこれまで決してそんな破綻を起こしておらず、そこが興味深い共通点でもある。それはおそらく、彼らの「らしさ」が、芯に持っているソングライティングのピュアさから生み出されているものだからだろう。くるりはビートルズを一番の影響源に挙げる(参考)だけあり、実験性と歌モノとしての普遍性を常にバランス良くアウトプットに反映しているのが見事であり、一方のミツメはボーカル・川辺素のピュアな歌を活かすようにアンサンブルに余白を残したり、アンビエントで奇妙なシンセサウンドで空間を際立たせるのが抜群に上手い。両者の直近作である『ソングライン』(くるり/2018年)と『Ghosts』(ミツメ/2019年)はそれぞれその極地のアルバムとも言えるだろう。

 ミツメは今年結成10周年。若手から中堅に差し掛かる彼らの存在もまた、後進のアーティストに少しずつ影響を与えているように感じられる。例えば、MONO NO AWAREなどはどうだろう。アレンジの振り幅こそくるりやミツメよりは狭いとはいえ、日本的なポップさが持ち味の歌メロ、コロコロと転がり変化していく展開や各パートが饒舌に絡み合うようなアレンジに、既定のバンドアンサンブルに囚われない発想力を感じさせるあたりは、彼らと通じるところがある。加えて最初期から当たり前のようにさらりとシンセサウンドも取り入れているあたりはまさに“ミツメ以降”のバンドらしいと言っていいだろう。

 そんな歌心と自由に飛躍する発想力を持ったアレンジの両立を、インディーシーンのバンドが衒いなくできる道筋を作ったくるり。そしてその土壌を肥沃なものにしたミツメ。いい意味で“ポップな変人”たちである彼らの邂逅は、まさに今、日本のインディーロックバンドがどうあるべきかを示す記念碑的な意味を持つことだろう。チケットを手に入れることができた人はぜひ、彼らの作ってきた道に想いを馳せながら、来たる共演を堪能してほしい。(井草七海)

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