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柳下毅一郎×杉江松恋、北欧ミステリー『ボーダー 二つの世界』を語る 柳下「衝撃的な映画でした」

リアルサウンド

19/10/2(水) 14:55

 映画『ボーダー 二つの世界』の書店員・ミステリ愛好家試写会が9月30日に都内で開催され、上映後にライター・文芸評論家の杉江松恋、映画評論家・翻訳家の柳下毅一郎が登壇してトークショーが行われた。

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 本作は、イラン系デンマーク人の新鋭アリ・アッバシ監督と、“スウェーデンのスティーヴン・キング”と称され『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者としても知られるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが自身の原作をもとに監督と共同で脚本を手がけたミステリー。第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ受賞に加え、第54回スウェーデン・アカデミー賞では作品賞ほか最多6部門を受賞、本年度アカデミー賞スウェーデン代表作品にも選出され、メイクアップ&ヘアスタイリング賞でオスカーノミネートを果たした。

 映画を初めて見た時の感想として、柳下は「観た後ものすごく呆然としてしまって、“これはどういう映画なんだ……?”という感じの衝撃的な映画でした。面白いんだけど“どこからこんな映画ができたんや?”ともびっくりさせられました」と話し、杉江は「ぼくはマスコミ用プレスのコラム執筆のためにかなり前に観たんですが、何も事前に説明をしてもらえなくて(笑)。本当に真っ白の状態で観て、映画の後半になるまで自分の倫理観を試すために観てるんだろうかという感じがありました」と語った。

 続けて、柳下は「後半になると安心するんですよね。この映画の設定が明らかになっていくと、“そういうことなのか”と。それまでは主人公のティーナが差別されている存在のようにも見えるし“これは大丈夫なんだろうか”と……。でも、それはひとつの“世界”なんだと分かって、安心できるんです」と補足する。杉江は、さらに「映画が始まって5分ぐらいの最初の税関の場面で、かなり対処に困る場面があるんです。方向はともかく、穏やかならぬところに行こうとしてるのか……ということが分かってくる」と、映画を観ながら様々な形で自身の感情を刺激していったことを振り返る。 

 ティーナとヴォーレを演じている俳優は、顔に厚いシリコンマスクによる特殊メイクの上で演じているが、柳下は「ティーナを演じている主演のエヴァ・メランデルは、素で見ると本当に美人なんです。彼女に施されている特殊メイクは、眉とか伸びた鼻筋といった彼女本来の顔立ちを強調して、うまいことグロテスクになるように作ってます。彼女はスウェーデンでは有名な女優らしいので、普段の顔を知ってると“えっ?”というショックがスウェーデンの方には大きいんじゃないかと思います。後で彼女の画像をググってみてください」と、役のために20kgほども増量をしたことも含め、キャラクターの造形についても言及。

 原作で描かれるエピソードにも話が及び、杉江は「原作では、ティーナが高校生の時に同級生から告白めいたものをされるんですが、“君みたいな素晴らしい心の持ち主が、かわいい顔の持ち主だったらどんなにいいか”ってとんでもなく酷いことを言われるんです。人は外見上のイメージで人を判断することを、原作ではあからさまに描いている。我々が他人の顔を見た時に人がどんなことを思うかというのを含めて、リンドクヴィストはおそらく計算の上書いてるんですよね」と指摘し、その上で「映画は原作に書かれているエピソードからかなり強化されてますね」とコメント。柳下は「原作で描かれている以上にイヤな話になって描かれている。ティーナのヴォーレに対するアンビバレントな想いというのも原作以上に強く描かれていたりして、より強烈になってますね」と、原作と映画との違いについて語っていく。

 最後に、柳下は「映画のサブタイトルである“二つの世界”は、実は僕はちょっとミスリーディングではないかと思っていて、ミスリーディングでありながらも“いいなぁ”と思わせてくれる。この“世界”というのはメタファーとしての世界ですが、最近のホラー映画の傾向としてあるのが、キリスト社会において“異教”的なものが侵入してくる恐怖を描くというもの。世界観の違う存在が襲ってきてそれによって自分の世界観が揺るがされるという意味での、怪物ホラーとは違う一種のホラー。そういう最近のホラーとしてのトレンドも取り入れています」と、ホラー映画としての側面について言及しつつコメント。

 杉江は、「中篇小説から映画の尺にするにあたり、原作からかなり補強されています。その補強の仕方がツボを押さえていてとても上手いんです」と、アッバシ監督が中心となって作られている脚本の手腕を絶賛した。さらに、「原作は、ティーナが自分の足元をどんどん削られていくようになっていくようになっているのが本当に面白い。映画は、芸としての多彩さを楽しめると思います」と語った。

 そのほか、リンドクヴィストの作家性、北欧に伝わる伝承の話、『ボクのエリ 200歳の少女』と『モールス』との比較など数々のテーマに渡り、トークが繰り広げられた。 (文=リアルサウンド編集部)

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