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ゴズリングとファスベンダーの間で揺れる人類のさだめ 『ソング・トゥ・ソング』が描く大人の恋愛

リアルサウンド

20/12/25(金) 17:30

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、マイケル・ファスベンダーを見るたびに邪な考えが浮かんでしまうアナイスが『ソング・トゥ・ソング』をプッシュします。

『ソング・トゥ・ソング』

 クリスマスですね。2020年は24日も25日も平日で、あまりクリスマス気分が味わえません。今週最終回を迎えたドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)では、ヒロインの樹木(森七菜)ちゃんがイヴ派、恋人の浅羽(中村倫也)が当日派という点で論争を繰り広げていました。確かに彼女の年齢の時、24日の夜にこだわっていたかもしれない。そういう点では、26日の土曜日まで待てるようになった自分は少し大人になったのかな、なんて思ったり思わなかったり。

 “大人の恋”を考えるうえで、ぴったりの映画が『ソング・トゥ・ソング』。歌を歌うことを夢見ながら何者にもなりきれず、痛みを通して生を感じるフリーターのフェイ(ルーニー・マーラ)。そんな彼女に温もりと肉体を超えた魂の関わりを教える、売れないソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)。フェイに痛みと快楽を与えるが、心が空洞の成功した大物プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)。そして彼が見つけた、夢を諦めたウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)。この4人の恋心や肉欲、渇望、焦燥感が交差するラブストーリーです。監督・脚本を手がけるのは、ひりつく愛を描く天才テレンス・マリック。

 それぞれの登場人物の独白によって紡がれていくストーリー。その感情と考えが、あまりにもリアル過ぎます。心を通わせることを知らないから、何かをどう感じたらいいのかわからないから、“痛み”という痛覚を通して何かを感じようとする。激しい性行為でしか、満足ができない。そんなフェイが、肉体的に満足させてくれていたクックにはない、魂や優しさを持つ男BVに出会う。そこで初めて、愛を実感するわけです。しかし、体の相性はクックの方が良い。それに、自分の持て余す虚無感を共有できる相手でもある。さあ、難しい問題です。ただでさえ、この映画を通して「ライアン・ゴズリングとマイケル・ファスベンダーがそれぞれ違うアプローチをしながら自分に迫ってくる」ことの破壊力を痛感するのですから。どちらかを、選べと。選べません。

 さて、愛をくれて自分を幸せにしてくれる相手がどちらなのか。その答えが明確であるにも関わらず、ともに闇の中で感覚を失える相手を選んでしまうことは、仕方ないけどあることかもしれません。若い時に一通り恋愛は失敗してきたと思いきや、大人になっても間違いを選び取ってしまうことこそが恋愛であると、美しい映像と共に本作は教えてくれる。それでも、それぞれが自分の心を救ってくれそうな相手と一緒にいようとして、思いも寄らない方向に向かっていくのが、これもまた恋愛のリアルさだなと思うわけです。

 ビターな脚本の中で生き生きとする、豪華俳優陣も素晴らしいのが本作。ライアン・ゴズリングは『ラ・ラ・ランド』で味をしめたのか、本作でもキーボードを弾きながら歌います。いいです、彼は何をしていてもイケメンです。彼と恋仲になるルーニー・マーラはやはり、痛々しいほど多くのものを感じて疲れ切った表情が素晴らしい。ホアキン・フェニックスと息子さんと、どうぞお幸せに。マイケル・ファスベンダーの本作での色気と虚無感、無機質さは『SHAME -シェイム-』を思い起こさせます。『エイリアン:コヴェナント』で縦笛を吹いていたシュールな彼も好きです。そして何より凄いと思ったのが、ナタリー・ポートマン。来年40歳になるなんて半ば信じられないほど、若いファッションを違和感なく着こなしています。カフェで働いている時のミニ丈トップスから除く、ぼこっと盛り上がった腹筋の縦筋が見事なものです。

 音楽の街・オースティンを舞台にした作品ということもあり、音楽フェスシーンも多め。さりげなく沢山の俳優や著名なアーティストが画面に登場する楽しみがありつつ、やはり心に響く独白と、破滅的なラブストーリーが魅力的な一本です。

■公開情報
『ソング・トゥ・ソング』
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
監督・脚本:テレンス・マリック
製作総指揮:ケン・カオ
出演:ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、ベレニス・マルロー、ヴァル・キルマー、リッキ・リー、イギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、フローレンス・ウェルチ
撮影:エマニュエル・ルベツキ
美術:ジャック・フィスク
衣装:ジャクリーン・ウェストー
音楽:ローレン・マリー・ミクス
編集:ハンク・コーウィン
配給:AMGエンタテインメント
2017年/アメリカ/128分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/PG12/原題:Song to Song
(c)2017 Buckeye Pictures, LLC
公式サイト:songtosong.jp
公式Twitter:@SONGTOSONG_JP

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