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“読めない岩ちゃん”と再び対峙? 『名も無き世界のエンドロール』のコンゲームを楽しむ

リアルサウンド

21/1/30(土) 12:00

 三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、EXILEのメンバーであり、俳優としても活躍する岩田剛典と、話題作への出演が絶えない新田真剣佑。

 既存の俳優のスケールにとどまらないふたりが初めて顔を合わせた映画『名も無き世界のエンドロール』が、1月29日に劇場公開を迎えた。さらには、映画のラストから半年後を描くスピンオフドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール ~Half a year later~』も、同日からdTVで独占配信。本稿では、両作品それぞれの魅力とつながりを、ネタバレなしでご紹介する。

 2012年に「小説すばる新人賞」を受賞した同名小説(著:行成薫)を、『キサラギ』『ストロベリーナイト』『累‐かさね‐』で知られる佐藤祐市監督が映画化した本作。小学生のときからの無二の親友、キダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)。成長した彼らは、闇社会の交渉人と会社経営者に成り上がり、政治家令嬢でトップモデルのリサ(中村アン)へのプロポーズを計画する。しかしその裏では、彼らが長年練りに練った、真の計画も同時に進んでおり……。

 「ラスト20分の真実。この世界の終わりに、あなたは心奪われる――。」のキャッチコピー通り、クライマックスにこれまでの伏線がつながり、驚きの真実が明かされる構造になっている本作。その部分に最大の“花火”を持ってくるべく、序盤から中盤にかけては過去と現在が目まぐるしく交錯するトリッキーな構成と、観る者に違和感を抱かせるようなシーンをわざと点在させており、集中力を高めてヒントを見逃さないようにするのが、大きな楽しみのひとつ。

 小説や映画の作劇方法のひとつに「信頼できない語り手」というものがある。我々は基本的に「語り手は真実を語るもの」という前提を持ってしまいがちだが、そんなルールは本来敷かれていない。語り手や主人公が「何を隠しているのか」を探っていく、いわば「観客が能動的に参加する」のが近代的なサスペンスやミステリーの面白さのひとつでもあるように、映画『名も無き世界のエンドロール』も、キダとマコトの“本当の目的”は何か、常に頭を働かせて観ることを求められる。いわば、主人公たちとの知恵比べ(コンゲーム)が発生するのだ。

 たとえば、序盤の違和感は、自動車の整備工として働いていたキダとマコトの不可解な行動。マコトは、高級車の修理にやってきたリサに一目惚れしたのか、じっと見つめ、初対面にもかかわらず食事に誘う。にべもなく断られてしまうと、「何とか彼女と付き合いたい」「彼女にふさわしい男になりたい」と直後に職場を辞め、姿を消してしまうのだ。キダは彼の行方を追う過程で、裏社会の交渉人と知り合い、自分もその世界で働き始める。そうしてマコトと再会するのだが……。

 さらに、本作は小学生から20歳ころまでのキダとマコト、幼なじみのヨッチ(山田杏奈)の思い出がフラッシュバックする構造になっていて、いわゆる「順行」の物語になっていない。現在と過去を行き来するため、観客の脳内にはキダとマコトのデータが蓄積されていく一方で、彼らへの疑念はますます強まっていく。途中の出来事が意図的に抜かれており、散らばった過去を一本の線でつなごうとするのが容易ではないのだ。さらに、いま観ている情報自体も、ミスリードを誘っている可能性も捨てきれない。岩田の主演作『去年の冬、きみと別れ』も観客を惑わす仕掛けが随所に施してあったが、彼のファンは本作で再び、“読めない岩ちゃん“と対峙することになるわけだ。

 また、本作は人気ジャンル「バディもの」の要素も担っている。一蓮托生の思いでふたりが闇を歩いていくストーリーは、ブロマンス的な要素も匂い立たせ、最近でも、玉木宏と高橋一生が顔を合わせたドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)や、岡田将生と志尊淳が共演した『さんかく窓の外側は夜』などがあった。これらのバディものは、役者同士の組み合わせがカギだ。その点本作では、岩田と新田の化学反応が非常に効いており、さらに彼らの“変化”が、作品のドラマ面を底上げしている。

 ドッキリを仕掛けるのが大好きな明るい性格のマコトと、友の幸せを一番に考える心優しいキダ。ふたりはなぜ、非合法な手段まで講じて成り上がろうとするのか? 彼らの身に、一体何が起こったというのか? 岩田と新田が序盤、中盤、終盤で演じ方をガラリと変えており、好青年の序盤、冷徹な中盤、本音を爆発させる終盤と、難役に全力でぶつかっている。ふたりの演技合戦にも、ぜひ注目いただきたい。

 そして、映画『名も無き世界のエンドロール』の後には、スピンオフドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール ~Half a year later~』が控えている。こちらは、冒頭で説明したとおり、映画のラストから半年後を描く物語となっており、キダが交渉人として引き受けた仕事が、どんどん大事になっていき……という内容。原作者である行成薫が原案を書き下ろしており、補完に関してはバッチリだ。

 こちらに関しては、キダを主軸に据えたハードボイルドな探偵もの的な要素が強められており、「幼なじみを組織から“足抜け”させたい」という依頼を受けたキダが、謎めいた女性ミチル(松井愛莉)と出会ったことで、自らの過去と現在、未来を見つめ直すさまが描かれる。

 映画版には衝撃的な結末が待ち受けており、かつ岩田と新田の好演により、キダとマコトが魅力的なキャラクターになっていることから、彼らの“その後”を観たいと思う方も多いことだろう。一種のご褒美的な内容であるものの、原作者が参加していることもあり、それだけで終わっていないのが『Re:名も無き世界のエンドロール ~Half a year later~』の大きな魅力だ。

 ミチルは、キダと初めて出会った際に「1日あれば世界は変わる」と語る。それは、キダの幼なじみのヨッチが大切にしていた言葉だった……。これは、奇妙な偶然なのか? それとも、彼女はキダも把握できていない“何か”を知っているのか? 映画を観た者だからこそわかる・気になるストーリー展開になっており、全3話を一気見してしまうのではないだろうか。

 ストーリー以外にも、キダの無精ひげ姿や、たった一人で犯罪組織に乗り込んでいくさまなど、より個人にフォーカスした活躍が描かれているのも、嬉しいところ。岩田は、今後シリーズ化を期待する声も多く寄せられるのではないかと思えるハマりぶりを見せている。

 そして、最大の魅力。それは、『名も無き世界のエンドロール』が、『Re:名も無き世界のエンドロール ~Half a year later~』で“本当のラスト”を迎えるということ。劇場版で描き切れなかったキダやマコトというキャラクターがより詳細に肉付けされており、特にキダにおいては自身の内面と向き合うというシーンも用意されているため、必見の内容といえる。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■公開情報
『名も無き世界のエンドロール』
全国公開中
出演:岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈、中村アン、石丸謙二郎、大友康平、柄本明
原作:行成薫『名も無き世界のエンドロール』(集英社文庫)
監督:佐藤祐市
主題歌:須田景凪「ゆるる」(WARNER MUSIC JAPAN / unBORDE)
制作プロダクション:RIKIプロジェクト、共同テレビジョン
配給:エイベックス・ピクチャーズ
(c)行成薫/集英社 (c)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会
公式サイト:https://www.namonaki.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/namonaki2021
公式Instagram:http://instagram.com/namonaki2021

■配信情報
『Re:名も無き世界のエンドロール~Half a year later~』
dTVにて独占配信中
出演:岩田剛典、新田真剣佑、松井愛莉、山田杏奈、石丸謙二郎、金子ノブアキ、柄本明
原作:行成薫『名も無き世界のエンドロール』(集英社文庫)
総監督:佐藤祐市
監督:菊川誠
脚本:相馬光
主題歌:須田景凪「ゆるる」(WARNER MUSIC JAPAN / unBORDE)
(c)行成薫/集英社 (c)映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会
公式サイト:https://namonaki.jp/dtv/

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