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主人公は工場で働くドン・キホーテ?猟奇殺人描く中国映画「迫り来る嵐」トークショー

ナタリー

18/12/20(木) 13:04

「迫り来る嵐」特別試写会の様子。左から矢田部吉彦、松崎健夫。

中国映画「迫り来る嵐」の特別試写会が12月19日に東京都内で開催。映画評論家の松崎健夫、東京国際映画祭プログラミングディレクターとして知られる矢田部吉彦がトークイベントに出席した。

1997年、中国の小さな町を舞台に、連続猟奇殺人事件の捜査に取り憑かれた男の運命と愛の行方を描いた本作。主人公は国営製鋼所で警備員をしながら、刑事気取りで捜査に首を突っ込むユィ・グオウェイだ。矢田部が作品選定を担当した2017年の第30回東京国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミアを実施。新人ドン・ユエの長編デビュー作でありながら、最優秀男優賞と最優秀芸術貢献賞に輝いている。矢田部は「あの巨大工場を映画に取り込んだセンスに尽きると思います。工場が時代に取り残された恐竜に見えました。そして主人公がその中で時代に抗い戦っているドン・キホーテに思えたんです」と感想をコメント。

今や興行収入の面でアメリカを抜くほどの勢いを持つ中国映画界。矢田部は「中国映画の数もすごく増えた。しかし映画祭で上映されるようなアート系の映画はまだまだ少ない」と説明しながら、“中国ノワール”と呼ぶべきジャンルの存在を指摘する。2014年の第64回ベルリン国際映画祭で金熊賞と銀熊賞に輝いた「薄氷の殺人」を引き合いに、「(中国には)1つのノワールの系譜があるのかもしれないと思った」と第30回東京国際映画祭に招待した理由を明かした。

同映画祭で本作を鑑賞していた松崎は、ドン・ユエが影響を受けた作品としてアルフレッド・ヒッチコック「めまい」、フランシス・フォード・コッポラ「カンバセーション…盗聴…」を挙げていたことを述懐。さらに多くのシーンで雨が降り続ける点を「セブン」、主人公が恋人を囮にしてまで捜査する点を「ミッドナイトクロス」、主な舞台となる国営工場に人々が大挙する様子を「工場の出口」に例え、その類似に言及する。そのほか鏡や視線を使った演出、雨や雪といった天候を利用した画作りへのこだわりに着目していた。

さらに松崎はここ数年の映画の傾向として「過去を振り返る形で、今の自分たちを見つめ直す」作品が多いとコメント。「迫り来る嵐」も香港返還が行われた1997年、北京オリンピックが開催された2008年が時代背景になっている。同意する矢田部はドン・ユエが「人間として自己形成をしていく過程で中国に大変革が起きていた。当時は何が起きていたのかわからず、それを理解するためにも振り返りたかった」と語っていたことを紹介した。

また矢田部は第31回東京国際映画祭で上映された中国映画「詩人」を例に挙げ、同作も1980年代中頃から90年代を舞台に、社会の流れに翻弄される人々を描き出していたと説明する。松崎が「今ではなく過去を描くことが、1つのエクスキューズなのでは」と中国映画界の検閲制度に触れる一幕も。2014年に北京インディペンデント映画祭が中国当局によって開催中止に追い込まれるなど、未だ検閲は厳しい現状にある。矢田部は「実態が見えないんです。国内公開、国外輸出、海外の映画祭用など検閲の種類もいくつかあり、少しづつ変化もしている」と続けた。

「迫り来る嵐」は1月5日より東京・新宿武蔵野館ほか全国にて順次ロードショー。

(c)2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited

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