Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

和田彩花の「アートに夢中!」

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり

毎月連載

第45回

現在、アーティゾン美術館(東京・京橋)で開催中の『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり』(10月25日まで)。ブリジストン美術館を前身とし、2020年1月に館名を新たに開館した同館のコンセプト「創造の体感」を体現する「ジャム・セッション」は、アーティストと学芸員が協働して、石橋財団コレクションの特定の作品からインスパイアされた新作や、コレクションとアーティストの作品のセッションによって生み出される展覧会。そのシリーズ第一回目となる今回は、現代美術家の鴻池朋子を迎える。絵画、彫刻といった従来の美術手法から拡張し、旅という時間と移動、歌や語りという音声言語、玩具や手芸などという身近な生活の行為や手立てをメディアとして、狩猟採集という人間の文化の「原型」を再考。芸術の根源的な問い直しを続けてきた鴻池。そんな作家の展覧会を、和田さんはどう見たのか。

都市型ではない現代美術

鴻池さんの作品はこれまでに『THE ドラえもん展 TOKYO 2017』(森アーツセンターギャラリー)で見たことがあったんですが、個展は初めて。圧倒されました。

私は現代美術が大好きですが、これまでは、この連載でもご紹介したChim↑Pomの東京の街から制作された作品のように、都市型の作品ばかりを見ていたんだと気づきました。もちろん現代美術にはいろいろな形があり、例えば地方の芸術祭などでは、その土地に合わせて作品が制作されたりするものもありますが、でも鴻池さんほど徹底して生活から離れて、旅をして、自然と向き合って制作している方は少ないのではないでしょうか。そこがとても魅力的だなって思いました。

本物!? 毛皮が吊り下がったけもの道

《森の小径 インスタレーション》 2020
Photo by Nacasa & Partners

今回初めて鴻池さんがどういう制作活動をしているか、ということを知ったので、衝撃の連続だったんです。

例えば、各展示室の間には、熊や狼の毛皮、木、ビニール、糸などの素材がぶら下がっていて、森の中のけもの道のような、小径のようなものが意図的に作られています。その中でも毛皮が大量に吊るされている空間には驚かされました。それに吊るされた毛皮は壁に貼られた毛皮と違い、丸みを帯びて、鋭い爪もそのままで、本物が吊るされているかのようにも見えたんです。私はそういうのにまったく親しみがなかったので、ちょっとした恐怖感というか、背筋がゾクゾクとしてしまって、はじめは通るのを躊躇してしまいました。

でもどうして鴻池さんがこういう作品を制作したかというと、それは鴻池さんの制作スタイルにものすごく密接しているということがわかりました。鴻池さんは制作にあたり、必ずその場所や美術館を構成してきたさまざまな要素と、「対話」によるセッションを重ねるそうなんです。

そういう「対話」の中で、狩猟する人や皮を加工する人たちと出会っていき、そこから作品が生まれたんだそうです。しかも鴻池さんは皮を撫でるのが大好きだそう。私も毛皮を撫でたことはあるけど、それはあくまでも洋服などに加工されたもので、そのままの形のものに愛着を持つっていう感覚はありませんでした。でもこの展示では、ただ見るだけではない、その場の匂いなども含めて身体全体で体感することができるんですよね。そうすると、そういう鴻池さん自身が持つある種のフェチシズムというか、思いを共有してもらえるなと思いました。

あなたはどう考える?

《オオカミ皮絵キャンバス》 2016 牛革、水彩、カンヴァス

あと皮といえば、牛皮にオオカミの毛皮を描いたこの作品が好きだなって思いました。毛皮のインスタレーションと取り扱っている題材は同じだけど、表現媒体が違うと見え方も感じ方も違ってくるのがすごく面白いなって。しかも実物と、鴻池さんの目を通して描かれたものを比べて見ることができるのもいいですよね。

ただ、牛皮という素材に描かれているせいか、絵画とはまた違うという印象も持ちました。

左:《オオカミ皮絵キャンバス》 2016 牛革、水彩、カンヴァス  中央:《隠れマウンテン シャイニング/S》 2011 鏡、木、スタイロフォーム、アルミ、パール他 右:ギュスターヴ・クールベ 《雪の中を駆ける鹿》 1856-57 頃 油彩、カンヴァス 石橋財団アーティゾン美術館蔵

今回はアーティゾン美術館のコレクションと作家の作品のセッションも大きな見どころなのですが、この《オオカミ皮絵キャンバス》の横には、ギュスターヴ・クールベの《雪の中を駆ける鹿》(1856-57年頃、石橋財団アーティゾン美術館蔵)が展示されていました。でも一瞬クールベであることに気づかないというか、馴染んでいるというか、見覚えあるけどなんだろう? って思ってしまいました(笑)。

モチーフ的なつながりはあるけど、対照的な絵ですよね。狩る側のオオカミと狩られる側の鹿。でもオオカミは毛皮になってしまっていて……。この作品がどうして並びで展示されたのか、いろんな意味があると思うんですが、そういうのを考えるのも面白いですよね。

今回は現代美術の中に3点、同館コレクションの西洋絵画が展示されていたんですが、普通に同年代の作品と一緒に並んでいるのとは違う、新しい見方や見え方を提示してくれるなと思いました。

それとこの2点の絵の前に、鏡で作られたミラーボールのような山が展示されているんですが、これも面白かったですね。だってこの姿って、まさしく自分が飛行機の中から見える山なんです。山って本当は山頂は綺麗な三角ではないし、山肌もゴツゴツしていたり、平面が集まって構成されているのに、どうしても三角でイメージしがちですよね。単純に自分の体験とリンクされて嬉しかったです(笑)。

巨大な作品から何を思う

《襖絵 インスタレーション》 2020
Photo by Nacasa & Partners

今回は巨大な作品が多く、しかも体感型。例えば今回の個展のために制作された新作の円形の大襖絵を中心に、それを囲むようにユニークなスロープが作られていました。そしてその周辺には、一見ボルタンスキーを思わせるような、森羅万象を紙で象った影絵燈篭や、作家の声によるオオカミや風、雪女などの人間以外の生き物の声が響いていました。

《ドリームハンティンググラウンド カービング壁画》 2018年 シナベニヤ、水彩
Photo by Nacasa & Partners

そしてもう一つの巨大な作品が、《ドリームハンティンググラウンド カービング壁画》。これは生き物たちの喰う姿が描かれている3.6×9.1mのカービング(板彫り絵画)で制作された作品です。そして右上には、ナメクジのようなゴマフアザラシの毛皮が貼り付けられています。いろんな手法がミックスされて、ただ見ているだけでも面白い作品です。

展示空間と作品の関係とは

《皮トンビ》瀬戸内国際芸術祭2019 展示風景
《皮トンビ》2019 アーティゾン美術館での展示風景

鴻池さんは例えば瀬戸内国際芸術祭2019で発表した《皮トンビ》のように、自然の中でのインスタレーションもあるんですが、今回は約1年間山に設置されたものを持ち込んで、大都市の美術館の展示空間の中で、経年変化した姿を見せてくれました。

だから一度、この作品のように大自然の中で展示されている姿を見たいなって強く思いました。ホワイトキューブの中で展示されるのとは絶対に違うし、見え方も感じ方も変わると思います。そういうふうに作品の展示場所の多様性、展示の仕方を提示してくれることによって、未知の鑑賞の仕方を私たちも知ることができるなと思わされました。

展覧会はもちろん、美術館も美的!

都市型、特に東京を土台にした作品は自分にも関連づけしやすいし、ある意味自分ごととしても考えやすいですよね。でも鴻池さんの場合は相手が自然だし、自分が行ったことのないような場所で作品を制作されてっていうのを見ていると、その世界観は自分の私生活とは程遠くて。でも程遠いからこそ、自分とはまったく接点がなかった世界が広がっているというか、自分が向けることができない視点を見せてくれるということにさらに面白さを感じさせられました。

それに作品を通して、作品に関わっているのはアーティストだけではない、ということに改めて気づかされました。それって当たり前のことなのに、そこまでなかなか思い至らないんですよね。例えば毛皮にしても、狩猟して、それを捌いて、加工する人がいるわけです。でもそれを知ることによって、原始的というか、モノの原点というか起点というか、そういうことにも触れられる上に、作家がそれをどう作品にするのか、というところまで知ることができる良い機会だなと思いました。

あと、本当に鴻池さんはいろんな手法や素材、技法を使って制作されていて、型にはまらないというか、こんなに一人の作家さんで目まぐるしく展示が変わっていくんだなって。

ただ、作品を目の前にして、心揺さぶられるというか、作品に没頭するという感じは実はなかったんです。でもそれは、作品を観賞しているのとはまた違って、鴻池さんの作り出した世界に迷い込んでしまったかのように感じたからかもしれません。そしてもしかしたら、あまりにもいままで自分が触れてきた美術とは違いすぎていたからかもしれません。

でもとても素敵で、魅力のある展覧会であったことは間違いありません。見方はもちろん人それぞれですので、ぜひ鴻池さんが作り出す世界に迷い込んでほしいですね。

そして何より、アーティゾン美術館が最高なんです! 快適で美的。そのコレクションはもちろんですが、見せ方、スタッフさんの対応まで素晴らしい美術館。ますます大好きになりました。しかも学生さんは無料って素晴らしいですよね。だから大学生の後輩とかに必ず行くようにオススメしています(笑)。私もこれからもっと通いたいです。

構成・文:糸瀬ふみ 撮影(和田彩花):源賀津己

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

アプリで読む