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立川直樹のエンタテインメント探偵

名ドラマー、ジミー・コブの死。久々に聴いた歴史的アルバム『カインド・オブ・ブルー』の素晴しさに陶然となった

隔週水曜

第52回

20/6/17(水)

カインド・オブ・ブルー/マイルス・デイビス(ソニー・ミュージックレーベルズ)

6月に入ってコロナウイルス感染拡大防止のため臨時休館していた首都圏の美術館・博物館が緊急事態宣言の解除を受けてようやく再開し始めた。映画館も試写室もオープンになったが、座席が半分というのは大変だし、美術館・博物館なども日時指定予約が必要だったり、入場制限があるというのは、フラッと出かける感じがなくて少しさみしい。

だから、朝日新聞の〈建モノがたり〉を見て出かけた港区の聖坂にある建築家、岡啓輔さんの自邸“蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)”の奇怪な景観を目にした時は本当にうれしくなった。新聞記事によれば「モノをつくる悦びを示したかった。それを、多くの人の目に触れる都心でやることに意味があった」と考える岡さんは自力で地下を堀り、足場や鉄筋を組み、地層のように積み重なった建物を15年前から造り続けているが、完成予定は2023年とのこと。

同じ〈建モノがたり〉で紹介されていた青山にあるウェブメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する「ほぼ日」のイベントスペース“TOBICHI”も木造2階建てアパートを京都の三角屋が「ワクワクを発信する元気な建物を目指して」改造したものだが、散歩がてらに出かけ、帰りには近くの岡本太郎記念館に寄るのもいいかも知れない。

あとはやはり新聞記事やテレビが引き金になって本やレコードと出会うのも自由なエンタテインメントの楽しみだと思う。5月27日に新聞に載っていたジミー・コブ91歳の死亡記事の中にもあったジャズの歴史的アルバム『カインド・オブ・ブルー』が翌28日の“名盤座”で取り上げられていて、久々に針を下ろしてその素晴しさに陶然となり、改めて“名盤”というものの存在価値を感じさせられた時間。ジャズ界の帝王マイルス・デイヴィスがジョン・コルトレーン(テナーサックス)、キャノンボール・アダレイ(アルトサックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)とドラムスのジミー・コブという凄いメンバーで2日間で吹き込んだ奇跡のセッションは「史上最も売れたジャズレコード」となったが、編集委員の藤谷浩二さんの「奏者が全員鬼籍に入り、作品は伝説の衣をまとって後世へ受け継がれてゆく」という締めの文章にもぐっときた。

『ページをめくるとジャズが聞こえる』(シンコーミュージック刊)、『シネマ&フード 映画を食卓に連れて帰ろう』(KADOKAWA刊)など

『ページをめくるとジャズが聞こえる 村井康司《ジャズと文学》の評論集』村井康司著(シンコーミュージック刊)

そしてジャズと言えば5月29日から公開されるはずだった『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』が延期になってしまったのは残念だが、「ジャズを読む快楽、ジャズを聴く愉悦」という帯の宣伝文句通りの内容でグイグイ読ませてくれる『ページをめくるとジャズが聞こえる』(シンコーミュージック刊)という本は文章のテンポ感と引用の仕方もうまくて最高に楽しめた。著者は村井康司。『《ジャズと文学》の評論集』 というタイトル後半には偽りなしで、『カインド・オブ・ブルー』をアナログ盤で聴く僕には縁のない世界だが、“462曲分のSpotifyプレイリストが聴けるQRコード付き”なのでジャズに入門しようと考えている人には絶好の1冊ともいえる。

『シネマ&フード 映画を食卓に連れて帰ろう』料理:CUEL 写真:小泉佳春(KADOKAWA刊)

でも、ジャズに限らず、ロックでもラテンものでも、映画でもきちんとした思いと、それなりのテクニックを使って作られたものは永遠に残り、語り継がれていく。1986年から30年間渋谷で本当に質のいい、おもしろい映画を上映し続けていた伝説のミニシアター・シネマライズの、パンフレットの最後にあった料理ページをまとめて出来上がった美しい本『シネマ&フード 映画を食卓に連れて帰ろう』(KADOKAWA刊)も、映画が時代を動かすムーブメントがあったことを今更ながらに実感させてくれる。ページを開いていくごとに甦ってくる記憶……。今回のコロナウイルス感染拡大の中で、低調になっていたレンタルDVDの需要が上向きになったというが、それもよくわかる。この2週間の間にもテレビでは随分おもしろい映画が観られたし、今年1月28日にロサンジェルスで行われたプリンスのトリビュート・ライヴ『グラミー・トリビュート・ライブ ~プリンス “Let's Go Crazy”』もけっこう楽しめた。

あとは『ザ・偉人伝』で扱われていた江利チエミと笠置シヅ子の凄さ。プリンスもトリビュート・ライヴの後に30分ほどくっついていた本人のビデオクリップ集のパワーとオーラに唸らされたが、この2人は掛け値なしで、レコードや映像作品が欲しくなった。No.1の音楽番組『SONG TO SOUL』でやった『明日に架ける橋』の製作秘話についても書きたかったが、これは次回に回すことにしよう。

作品紹介

『カインド・オブ・ブルー』

発売日:2007年10月24日
発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ

『ページをめくるとジャズが聞こえる 村井康司《ジャズと文学》の評論集』

発売日:2020年3月21日
著者:村井康司
シンコーミュージック刊

『シネマ&フード 映画を食卓に連れて帰ろう』

発売日:2020年3月26日
料理:CUEL
写真:小泉佳春
KADOKAWA刊

『グラミー・トリビュート・ライブ ~プリンス “Let's Go Crazy”』

放送日:2020年5月31日
WOWOWプライム

『ザ・偉人伝 江利チエミ、笠置シヅ子、淡谷のり子 ~人生を変えた歌~』

放送日:2020年5月31日
BS朝日

『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜 #91「明日に架ける橋」サイモン&ガーファンクル』

放送日:2020年6月2日
BS-TBS

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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