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LiLiCoのこの映画、埋もらせちゃダメ!

自分が本当に求めてるものは何かを見つめてもらいたい『ノマドランド』

月2回連載

第64回

埋もれないかな~とは思いつつも、あえてのプッシュです!

いよいよ映画賞レースのシーズンに突入し、公開規模はそれほどでなくても見逃してもらってはダメな作品がたくさん出てきました。まずは、今年のアカデミー賞の最有力候補のひとつ『ノマドランド』から。『スリー・ビルボード』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが、家を持たずに遊牧民のように各地を転々とする「ノマド」と呼ばれる人を演じた作品です。

一企業のために存在する街が、リーマンショックの影響から街ごと消失しようとしていたとき、そこで暮らしていたファーンは家を失います。そこで彼女はキャンピングカーに全てを積み込み、車上生活をスタート。Amazonの配送センターや国立公園の案内員などの季節労働がある場所を転々とするノマドとして生きることを選びます。

『ノマドランド』

すると、そういった人は彼女だけでなく、ノマドのコミュニティがあることも分かり、ノマドとして生きること自体への誇りを持ち始めるのですが……。

オスカーへの前哨戦といわれる、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞、トロント国際映画祭で観客賞を受賞した作品。これは埋もれないかな~とは思いつつも、アカデミー賞関連作品って日本での成績は芳しくないことも多いので、あえてのプッシュです。

フランシス・マクドーマンド、また車に乗ってますが、彼女はこの役にピッタリ。褒め言葉ですよ! もちろん。

『ノマドランド』

アメリカはもとより、世界を経済危機に陥れたリーマンショックの影響は、みなさんも知るところだと思いますが、当時のアメリカではもっと深刻だったことが、この映画でも痛いほどよく分かります。だって、ノマドがこんなにいるなんて!と驚くはずですよ。

『ノマドランド』

車の中で暮らさなければいけなくなる人々の生活を見て、あなたは何を思うでしょうか。私の場合、みんなよりきっと深くこの作品に共感しているかもしれません。なにせ実際に乗用車で5年間、マネージャーと暮らした経験がありますからね。リクライニングだけで寝る辛さ、食べるものもなく、明日本当に目が覚めるのか?なんて何度思ったことか。

『ノマドランド』

でもね、私がこの作品を観て一番感動したのはスワンキーという女性の言葉。エンドロールで分かりますが、本当にノマドとして暮らす女性です。余命を告げられ、自分の人生を振り返ったときに出てきたのは、全て動物の思い出と言う彼女。ヘラジカの家族も見たし……とか。だから幸せでしたって言うんですよ。

大方の人はお金持ちになりたい、売れたい、社長になりたい、玉の輿に憧れることの多いもんです。その真逆をいく彼女の言葉は、考え方を変えるほどの力がありました。ぜひともこの作品を観て、自分が本当に求めているものは何かを見つめてもらいたいです。

映画を通して再認識した、誰にだって個性と才能があるということ

さてもう1作品は4月2日公開の『僕が跳びはねる理由』です。原作は世界30カ国以上で出版された東田直樹さんの『僕が跳びはねる理由』。それをドキュメンタリー映画化したものです。

自閉症の子供5人とその家族の証言をとり、自閉症を抱える当事者から見える世界、彼らが感じている世界を明らかにしていく、という構成です。原作を英語翻訳したデイヴィッド・ミッチェルさんもまた、自閉症の息子を育てていて、原作と出会ったことで自ら英訳を買って出た、といういきさつがあります。

『僕が跳びはねる理由』

子供たちが文字盤で心の内を見せてくれるんですが、縛られた感覚がほぐれた瞬間に見ていた私も笑顔になりました。文字盤ができる前は、自閉症の方はどう思い、どんなストレスを抱えていたんでしょう。

とても素直で強いメッセージだし、それを知る親の気持ちはかけがえのないものです。だって、親は10秒でもいいから自分の子供が見える世界が見てみたいって思っていますから。誰しもが、誰かと繋がりたいもの。それが大切なんです。

『僕が跳びはねる理由』

自閉症とは違いますが、私の弟はかなり重い喘息とアレルギーを持っていて、それをスウェーデンでは“見えない障害”と呼びます。なんらかの個性を持って生まれた子供の親って、自分のせいにしてしまうもので、母が産まなければ良かったと何度も言ってることも耳にしていました。

それは間違っている、と私は子供ながら思っていたんですよね。この作品を観て、ふとあの頃を思い出しました。だって誰にだって個性と才能があるんですから。映画を通して勉強になりました。

『僕が跳びはねる理由』

※次回は4月9日(金)に更新予定です!

取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己
(C) 2021 20th Century Studios. All right
(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulca

プロフィール

LiLiCo
1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。

夫である純烈の小田井涼平との夫婦生活から、スウェーデンで挙げた結婚式の模様、式のために2カ月で9kgに成功したダイエット術、スウェーデン育ちならではのライフスタイルまで、LiLiCoのすべてを詰め込んだ最新著書『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』が、2019年9月に講談社より発売された。

『遅咲きも晩婚もHappyに変えて 北欧マインドの暮らし』

講談社 1400円(税別)
発売中

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