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Maison book girl、初のベスト盤『Fiction』を機に辿る歩み「良いと思うものを作り続けていれば好きな人の心に刺さると信じて」

リアルサウンド

20/6/24(水) 12:00

 Maison book girl、通称ブクガが、2014年の結成以来初めてのベスト盤『Fiction』をリリースする。再録された一部の楽曲のほか、新曲の「Fiction」、ポエトリーリーディングの新曲「non Fiction」を含む全18トラック。2020年の初夏に聴く『Fiction』は、どこかアフターコロナの世界と共鳴するものがある。それは「僕」「私」と「君」との距離が離れてしまう事態が現在進行形で起きているからだ。ブクガの矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミは、ブクガの過去と現在にどう向き合っているのか。緊急事態宣言解除後、久しぶりに人と話したという彼女たちに話を聞いた。(宗像明将)

(関連:Maison book girl、『海と宇宙の子供たち』で新境地 4人の歌声がもたらすポップな響きが最大の魅力に

■パフォーマンス面での成長を重ねた年月

ーーブクガは、変拍子や現代音楽の要素、内面を描く世界観については多く語られてきたと思うんです。メンバーから見て、まだあまり語られていないと感じる部分はあるでしょうか?

コショージ:やっぱりライブですね。舞台制作にも力を入れて面白いことをやっているので、たくさんの人に見に来てほしいと思っています。

矢川:具体的な言葉では説明できない演出などをしていて。たとえばいろんな映像を使って音に合わせたり、曲じゃないところでも私たちが動きをつけていたり。ライブに来ていない人にはそういう部分はあまり伝わっていないかもしれない。

和田:AmazonさんやYouTubeさん、いろいろなところでライブ映像を見られるようにしてもらっているんですけど、ブクガのライブって、そこにいないとわからない空気感みたいなものがあるんです。だからこそ映像を見て気になった方にはやはりライブに来ていただきたいという思いがありますね。

ーーブクガは当初、プロデューサーのサクライケンタさんの内面の投影だった部分もあったと思います。その表現の仕方に変化はありましたか?

和田:歌う曲の難易度はちょっとずつ上がっていて。それはきっとサクライさんが私たちのライブでのパフォーマンスを見て「次はこれくらいはいけるかな?」と都度判断しているのかなと思っています。

ーーサクライさんに対して、「こういう曲を歌いたい」と伝えることはあるんですか?

コショージ:たまにありますね。ふざけて言ったことはもちろん却下されますけど、本気で言ったことは要素として取り入れてくれたりします。「どういうのがいい?」と直接聞かれたりすることもあります。

矢川:歌い方やライブでの見せ方はメンバーに委ねられています。レコーディングのときも、サクライさんから「いつもの癖のある感じで歌ってほしい」という注文があったりして。そういう部分では私たちも作品づくりに参加していると感じますね。

ーー具体的に「こう歌ってほしい」というオーダーはないんですか?

矢川:「広い感じで」とか「もっと上の感じで」とか、抽象的な指示が多いです。その言葉のイメージを自分たちで想像しながら歌に反映しています。

ーーブクガのアイドルシーンでの立ち位置が変わったと感じる部分はありますか?

和田:最初の頃は「アイドルを見に来たお客さんに届けるには、どうしたらいいんだろう?」と悩んだときもあったんですけど、最近は「すべきことをやっていればいい」と思えるようになりました。アイドルが好きで、かつ他の音楽も好きという方々に刺さればいい。ただ自分が良いと思うものを作り続けていれば、好きな人の心に刺さると信じて活動しています。

コショージ:自分自身はそのアイドルシーンの渦の中にいるからよくわからないんですよ。でも、5年活動していると一緒のイベントに出ていたような人たちが、気づいたら違うステージに進んでいたりすることもあって。

ーー自分たちがどう、というわけでは特にない?

コショージ:そうですね。最初の頃と今とで違うところは、ブクガはフェスや対バンの出演よりも、ツアーやワンマンをするようになっているところなので、「よく会っていた人たちと会わなくなったな」と思うことはあります。

矢川:もともとsora tob sakanaさんとか、ヤなことそっとミュートさんとか、私たちと近いタイミングでデビューして、同じように「楽曲派」と言われるようなかっこいい曲を披露しているアイドルさんがまわりにいたので、アイドルシーンの中で私たちだけポツンとしていたとは思っていなかったですね。それぞれのグループの色を突き詰めていった結果、私たちは今、ワンマンライブにも力を入れるようになったのかな。

ーーsora tob sakanaは解散が決まりましたね。

井上:同じ頃のデビューとか関係なく好きだったので……ショックです。

ーー井上さん自身は変化を感じますか?

井上:5年やってきたってだけあって、アイドル好きな人にも名前が知られるぐらいにはなっているかな? とは思います。

■ブクガと関わる人すべてが大切にする“1対1”の関係性

ーー今回のベスト盤には「my cut」は収録されていませんが、2020年4月に公開された「my cut -Parallel ver.-」のMVのように全力でアイドルらしいアイドルをしていたとしたら、できていたと思いますか?

コショージ:たぶんできなくはなかったと思います。ただ5年続いてるかはわからないけど……。でもやれていたとは思います。

矢川:最初はああいうアイドルらしいアイドルに憧れていたけど……(笑)。もうすっかりブクガに染まって、素の自分がこっちに変わったというか。あの撮影のときも上手に笑えなかったので(笑)。

和田:表情筋が鍛えられてないから(笑)。

ーーやっていたらできていたかもしれない?

矢川:(小声で)かもしれない。

和田:私は、ブクガの前にアキバで働いたりしていたので、もともとそういう要素も好きではあって。今となっては「ブクガのほうが向いてるかな」とは思うんですけど。

コショージ:一番ノってたよね。

和田:昔の血が騒いじゃった(笑)。

井上:私も、最初からそういうコンセプトだったらできていたのかもしれない。かわいいアイドルさんが好きだし。でも、自分がやるんだったら、ブクガみたいなもののほうが好きかな。

ーーブクガって、立ち位置的にも音楽的にも特異なところにいると思うんですよ。なぜずっとメジャーで続けていられるのか、考えることはありますか?

コショージ:それは本当にレーベルの方たちの愛だと思いますね。お客さんもそうですけど、人と人との関係性は1対100とかじゃなくてあくまで1対1だと思うんですよ。私たちを支えてくださっている人たちは、ひとりにものすごく刺さることを大切にしてくださっているんです。1000人いて1人でも「すごく好き」という人がいたら、それで成立させてもらえるというか。ブクガにはそういうパワーがあると思っています。

矢川:コショージが言ったように、前レーベルの担当の方も、今の担当の方も、好きだから応援しようという気持ちで「一緒にやりたい」と言ってくれているんです。

和田:ファンの方も、レーベルの方も、今好きだと言ってくれている人たちは、「ブクガを知れば刺さる層」が必ずいると信じてくれていると思うんですよね。自分がそうであるように。

ーー刺さるという感じは、たとえばコショージさんが好きな欅坂46のような感じですかね?

コショージ:うーん……。ちょっとそのイメージとは違うかもしれないですね。難しいですけど。何かに例えるとしたら何なんですかね……。食べ物とか?(笑)

井上:納豆?

矢川:パクチー。

コショージ:トムヤムクン。好きな人は好きみたいな。味覚が変わって、後から食べられるようになる人もいるし。

井上:妥当な例え。一番当てはまってる。

コショージ:あざす!

■新曲「Fiction」は、今の私たちだからこそ歌える曲

ーー今回のベスト盤では再録もしていますが、今、初期の自分たちの歌を聴くとどう感じますか?

和田:初期は初期で好きです。小学生のときに合唱をやっていたことがあるんですけど、みんな成長期だから声がどんどん変わるんですよ。子供のときの声ってそのときにしか絶対出せないから、それはそれで価値のあることだと私は思っていて。初期の音源を聴いていると、それと同じような感覚がありますね。あと、初期のボイトレの方針で、4人の声色を組み合わせて1曲が成り立つようにしてきたので「4人でひとつの曲を作り上げる」ということに意義を見出していたな、ということを思い出したりしました。

井上:昔の曲とはいえ、いまだに歌っている曲なので、そんなに客観的に見られないというか。前の歌い方を聴くとその歌い方になっちゃうんですよ、癖らしくて。だからあんまり聴きたくない。「戻っちゃう」と思って……(笑)。

コショージ:昔のほうが4人の歌い方に個性がない感じはします。それは意図的なものでもあったと思う。でも今はそれぞれの個性を出してパートをわけているので、そこが大きく違うかな。

矢川:「その当時の精一杯はここだったんだな」と。再録してみて、その頃よりは歌えている自分に気付けたりして楽しかったです。

ーー歌やパフォーマンスに関して、一番意識的に変えてきた部分はどこだと思いますか?

矢川:私は「歌をがんばろう」と思ってやってきました。前は4人の幼い声をきれいに束ねることによって生まれる「無機質な感じ」がいいと言われていた部分もあるんですけど、その表現だけじゃ持たないということはスタッフの方に言われたり、自分たちでライブをする中でも感じていて。それぞれが感情的に歌えるように心がけるようになっていったのがやっぱり大きいですね。

コショージ:一番意識的に変えたのはライブかもしれないです。昔はけっこう煽る曲や、コールが入る曲が多かったんですけど、たとえばそれを「今日のライブではそういうのが一切ないライブにしてみよう」とか。それによって歌とダンスに集中することができたり、お客さんのノリも変わってきたりしましたね。

和田:私はやっぱり歌ですかね。初期の頃は、自分の声はサクライさんの楽器の一部だと思っていたんです。だけど、アルバムの『yume』(2018年)くらいのときに「この曲はいつもと雰囲気をめっちゃ変えたいから」というディレクションがあって「自分の意志でいろんなことをやっちゃっていいんだな」とだんだん思うようになりました。それを楽しめるようになったのが変わったところですかね。

井上:年月を重ねていくにつれて、自分にできることが増えていて。「ここは力を抜いてやろう」とか、そういう歌い分けができるようになったのは、変わったところだと思いますね。変えようと思って変えたというよりは、できることが増えたから自然にそうなったのかなって。

ーー初期は「無気質な感じだった」という話がありましたけど、新曲「Fiction」の表現からは生々しさを感じます。

和田:曲は歌によってどのような表情にもなるというか。「私たちの歌で左右できる余地のある曲が増えたな」と改めて感じました。

コショージ:AメロやBメロのような音が少ないところは声が聴こえやすいし、個々がボイトレで歌い分けをした成果がよりわかりやすいんじゃないかな。

ーーコショージさんは最後の「non Fiction」でポエトリーリーディングを書き下していますけど、サクライさんが作った「Fiction」に対して書いたものですか?

コショージ:いや、これは同時にスタートしました。書く前に、お互い「こういう感じの曲にしよう」というイメージは話しましたけど、同時進行です。

ーーポエトリーリーディングで書くテーマや自分の感覚が、初期と変わってきたところはありますか?

コショージ:今回で12作目なんですけど、初期の頃は、特に考えなくても自分の内から出せたんですよ。でも、だんだん考えないと浮かばなくなったり、「前にこういうことしたから、被っちゃうし」とか考えちゃったり。だから今回は考えるのをやめようと思って、ある意味で制作方法は原点に戻ったのかもしれないですね。

ーーじゃあわりとこれは自然に出てきた?

コショージ:そうですね。私的にはこれが正解だった感じがします。逆に今までがどんどん自分で難しくしていたと思います。

ーー矢川さんは今回「Fiction」を渡されてどう感じました?

矢川:なんでそう思ったのかはわからないんですけど、レコーディングのときにすごく悲しいというか、せつないというか……そんな気持ちになってしまって。泣きそうになるのをこらえながらがんばって歌った曲です。メロディなのか、音の感じなのかはわからないけれど、なぜか私の涙腺にきて……。

ーー今までそういうことはあったんですか?

矢川:そこまではなかったです。「いい曲だな」と思うことはたくさんありましたけど、喉が詰まる感じまでになったのは初めてでした。

井上:私も毎回新曲をもらうたびに「いい曲だな」と思うんですけど、今回は壮大さが今までとは違いますよね……。歌が前面に出ているところとか、4人の個性が立っているところとかも含めて、この5年、6年やってきた私たちだからこそ歌える曲なんじゃないかなと思います。

■やるべきことは、売れようとして変なことをしないこと

ーー新型コロナウイルスの影響で、ツアーも一部公演が延期になっていますが、この状況で今後どういう活動をしていきたいですか?

コショージ:『Fiction』発売日にライブ生配信をやるんです。お客さんが目の前にいない状態で、どうやったら楽しくて、面白いものを作れるかを今考えています。

ーー配信では観客の直接のリアクションが見られませんが、ブクガだったら自分たちの完結した世界観を見せるやり方もあるとは思うんです。作りこんだものを見せるのか、あるいはある程度は人に介入をさせる余地を作るのか、どちらのベクトルに行くと思いますか?

コショージ:たとえば声を出すようなリアクションではなく、私たちの思想には介入してほしいです。めちゃくちゃに介入して、感情とかを全部出せるようなものができたらいいな。そこに私たちも楽しさを覚えて、お客さんも楽しさを覚えてくれたらいいな。……もちろん、通常のライブができるようになるのが一番いいですけどね。

和田:ブクガのライブは、お客さんが声を出したり、モッシュしたりしなくても楽しめる。これは、これからのひとつの強みになると思いました。でも、配信だと最初に話したような空気感までを伝えることは難しいので「これからのパフォーマンスの磨き方の方針まで関わってくるのかな」と今はぼんやり考えています。

井上:前回のアルバム(『海と宇宙の子供たち』2019年)では、スタジオライブの映像特典を付けたんです。白ホリに映像を投影して、私たちが歌って踊るのを撮ったもので、それが私すごく好きで。それを生配信でもできたらいいなって思ったりしました。

ーーやはりお客さんはいたほうがいい部分もありますか?

井上:ライブの空気感は、同じ空間にいないと体験できないですし。ワンマンで「映画みたいだった」って言ってくれるお客さんがよくいるんです。それもやっぱり、たくさんのお客さんがいて、席に座っている、その空気感も込みだと思うので。やっぱりちゃんとできるのが一番いいと思います。

矢川:定点で見ても楽しめるものになっていると思うので、配信ライブを見てもらった上で、生で見たいと思わせるものにしたいです。最終的にちゃんと人がいる状態でライブができるように、そこに持っていくまでの配信かな。お客さんがそこにいて見てくれているだけで、私たちも気持ちが変わったりするので。

ーー最後の質問なんですけど、ブクガは「とにかく売れたい」と思ったりしますか?

コショージ:え? 思ってますけど?

ーーサクライさんとそういう話はします?

コショージ:あんまりしないかなぁ。でも、私たちのすべきことは、パフォーマンスレベルを上げたりだとか、めっちゃかわいいメイクを練習したりとか、そういうことで。あとは、力を貸してくれる方々のことを信じて、やるだけだと思うんですよね。自分も何か気づいたら言うし。

矢川:やる気は常に持っておく。

ーー100%まであるとして、今のやる気は何%ぐらいですか?

矢川・コショージ:(即答で)100です。

和田:やるべきことは、売れようとして変なことをしないこと。ブレるのが一番良くない。本当にやりたいことをやらないと、売れても意味がないと私は思っているので。そこだけは絶対に譲らない気持ちを絶やさないようにしています。

井上:もっとブクガをすべきです。

ーー井上さんの考える「ブクガをする」はどういうことですか?

井上:もっとたくさんの人に好きになってもらうには、やっぱり私たちが、それぞれ歌やダンスを突き詰めていくしかないかなって思いますね。

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