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『結婚できない男』『時効警察』『おっさんずラブ』 続編ドラマの“カップル問題”を考える

リアルサウンド

19/10/8(火) 6:00

 この夏、10月クールドラマのラインナップが発表され始めた頃、筆者を含むF2層(35~49歳の女性)のドラマファンの間に衝撃が走った。2006年に放送されたラブコメディの名作『結婚できない男』の13年ぶりの続編『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)が始まる。それはめでたい。阿部寛が演じる偏屈でデリカシーもないがなぜか憎めない男・桑野信介にまた会えるのは大歓迎だ。ところが、恋の相手役は前作の夏川結衣ではなく、吉田羊や稲森いずみ、深川麻衣になるという。忘れもしない前作の最終回で、桑野は医師の夏美(夏川)に「僕はあなたのことを好きなんじゃないかな」と不器用すぎる告白をし、夏美は目に涙を浮かべてその言葉を受けた。その後、またすれちがいがあったものの、最後は夏美が桑野のマンションに行くというハッピーエンドで幕を閉じた。そのはずだった。それなのに、13年後を描く新作では夏美と結婚も交際もしていない……!? 

参考:阿部寛が、13年ぶりに帰ってくる 『結婚できない男』第1シリーズをおさらい

 公式サイトの人物紹介で桑野の欄には「夏美と付き合ったものの、愛想を尽かされて別れた」とある。そうだったのか~。残念な成り行きだけれど、桑野はかなりの変人だから、納得できる筋書きではある。前作で40歳だった桑野は53歳に。相変わらず独身でひとり暮らし。建築士の仕事は順調でマンションを所有し、特に生活に不自由はしていない。前作で「私が死んだら、あなたのことを真剣に心配してくれる人は誰もいなくなる(だから、結婚しろの意)」と言った母親(草笛光子)もちゃっかり健在だ。ただ、人生100年時代の到来によって「残り50年の人生をひとりで過ごすのか」と考えていく展開になるという。

 その桑野のそばに夏美がいないことに悲しい気分になってしまうのは、古参のファンのみなのか。ここでリンクするのは、秋ドラマで最後の発表となった『おっさんずラブ』シリーズ第2弾、『おっさんずラブ-in the sky-』(11月2日土曜スタート、テレビ朝日系)である。連続ドラマ版、映画版では不動産会社に勤める主人公・春田(田中圭)の恋の相手は後輩の牧(林遣都)だったが、新作では設定変更に。春田は同姓同名だが別人であり、勤務先は航空会社に変わるという。恋の相手になりそうな新キャストとしては、千葉雄大と戸次重幸が発表され、多くのファンに衝撃を与えた。『結婚できない男』が13年ぶりの再開でもショックだったのに、前作の続きを描いた劇場版が公開中のタイミングで違うロマンスが始まってしまうとは……。ポジティブに考えれば、前作の世界線で春田と牧はカップルであり続けているはずなのだが、生身の人間が同じ名前のキャラを演じる以上、なかなか別物とは割り切れない。

 ここで、改めて考えてみたい。「恋愛ドラマで結ばれたはずのカップルが続編では別れてしまっている問題」を。

 主に合コン形式恋愛が繰り広げられたトレンディドラマ以前を振り返ると、最初にそのショックを与えたのは1986年放送、『男女7人夏物語』(TBS系)だったように思う。大竹しのぶが演じるライターの桃子がアメリカでチャンスをつかもうとし、ようやく恋人になったばかりの良介(明石家さんま)は「待っていてやる」と彼女を送り出した。しかし、続編の『男女7人秋物語』(TBS系)で2人はあっさり別れていて、帰国した桃子には新しい彼氏がいるのだ。「そんなのアリ? 今まで2人を応援してきた私たちの気持ちはどうなるの」と当時、女子トークでも話題になったことを憶えている。結局、良介と桃子は周囲に多大な迷惑をかけながら元サヤに収まるのだが、続編で一度、どん底に落とされたという記憶は強烈だ。他にも『ナースのお仕事』(フジテレビ系)シリーズのヒロイン、いずみ(観月ありさ)がシーズンごとに違う研修医と付き合ったという例もあり、カップル解消パターンはなくはないのだが、やはりそのたびに少なくないファンががっかりしてきた。

 前作ファンをがっかりさせないという点で見事だったのは、『時効警察はじめました』(10月11日金曜スタート、テレビ朝日系)である。先に放送された『時効警察・復活スペシャル』で、『結婚できない男』とほぼ同じく12年ぶりにシリーズ再開したのだが、主人公の霧山(オダギリジョー)とその助手・三日月(麻生久美子)はずっと会っていなかったという驚きの展開に。恋愛がメインではない脱力系コメディとはいえ、同僚以上恋人未満の2人の関係は気になるところだ。そこで、脚本・監督の三木聡がさすがにうまかったのは、三日月が空白の期間にいったん結婚したものの離婚したという設定にしたこと。スーパーキュートで恋愛に積極的な三日月に、12年もの間、何もないわけはない。そこにリアリティを持たせつつ、でも、現在は離婚したから霧山とくっつく展開もありという、うまい落とし所を着地させた。何よりオダギリ&麻生をはじめ、キャストが全員続投なので、これまでのファンから不満が出ることはなさそうだ。

 『時効警察』の好評ぶりを見ても、カップルや相棒を演じるキャストは続投がベスト。しかし、さまざまな事情でそれができないことも多い。制作者の立場に立ってみれば、キャストはそろわないが、視聴率のデータを見ると、続編はやはり強いので、相手役を代えてでも再開すれば、新シリーズを始めるよりは数字が取れる見込みがあると考えるのではないか。ましてや今期は10月改編で、テレビ局にとっては“最も失敗できないクール”であり、ドラマの主演には木村拓哉、阿部寛、田中圭というヒットの実績がある俳優を据えなければならない。

 しかし、そんな供給側の事情は見る側には関係がないので、われわれ視聴者は割り切れない。「どうしてそんなにカップル変更が嫌なのか?」と問われれば、答えはわりとシンプルなことで、昭和の昔から変わらない気がする。映画とちがい、テレビドラマは自宅で見るもの。女性たちは仕事先から帰ってきて夕ご飯を作って後片付けをし、ようやく夜10時ごろに家事がひと段落し、テレビの前に座る。そこで、しばし現実を忘れて恋愛ドラマを楽しむ。しかし、現実逃避するための娯楽とはいっても、まったく現実離れした設定だと、なかなか入り込めないので、歴代のヒットした恋愛ドラマには、必ず女性が共感できるヒロイン、または相手役がいた。

 『結婚できない男』の夏美の境遇には、真面目に勉強して医師という仕事に就いたのに、アラフォーで独身というだけで、男性から「(女として)錆びついている」「あんな料理じゃ結婚できない」と言われてしまうというリアリティがあった。また、『おっさんずラブ』の牧は男性だが、仕事で疲れていても好きな人のためにご飯やお弁当を作る姿には、自分たちの日常を投影できた。彼女や彼は女性にとって分身のようなキャラクターであり、同じしんどさを抱えているからこそ、彼女たちが愛されて幸せになれば、まるで自分が報われたようでうれしくなる。反対に、続編で主人公が別の相手と恋をすることになってしまうと、まるで自分が捨てられたような悲しい気持ちになるのかもしれない。

 その悲しみを上回る楽しさを提供できるかどうか。カップル変更した続編にはそれが問われる。筆者は脚本家の力量からして『まだ結婚できない男』にはその勝算が充分にあると思う。同じ展開の繰り返しではなく、桑野が一度、恋愛に失敗したという過去を経ているからこその深化した人間ドラマを期待したい。(小田慶子)

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