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ミニシアターとわたし 第5回 園子温「名古屋シネマテークで“暮らした”日々」

ナタリー

20/5/18(月) 12:15

新型コロナウイルスの感染拡大により休業を余儀なくされ、今、全国の映画館が苦境に立たされている。その現状にもどかしさを感じている映画ファンは多いはず。映画ナタリーでは、著名人にミニシアターでの思い出や、そこで出会った作品についてつづってもらう連載コラムを展開。今は足を運ぶことが叶わずとも、お気に入りの映画館を思い浮かべながら読んでほしい。

第5回では園子温に愛知・名古屋シネマテークで過ごした日々を回想してもらった。

名古屋シネマテークで“暮らした”日々

私は愛知県豊川市という小さな田舎町で生まれ育った。小さい頃は映画を観たというより、TVで洋画を観まくった。ゴダールもトリュフォーもヒッチコックもチャップリンもジョン・フォードもデニス・ホッパーもTVで出会った。映画館に行きたくても、お金がなかったのだ。だからミニシアターと出会ったのは17歳くらいで、名古屋までわざわざ新幹線に乗っていけるだけのお金が手に入るようになってからだ…。アルバイトをしては、名古屋のミニシアターに通い続けた。そこで観た映画は、私の基礎体力になっているはずだ。

若いころに自分にとって最高の映画と幸運にも出会えるかどうかで人の人生はまったく変わってしまう。私の場合は、名古屋のミニシアターで観た黒澤明特集(ほとんどの黒澤作品をここで観てしまった)などがそれだろう。しかし、私の人生にもっとも影響を与えたミニシアターは、そこで観た映画ではなく、そこで「暮らした」日々である。

名古屋シネマテークという、名古屋今池にある小さな映画館をウィキペディアで調べると、「園子温は昼間に名古屋シネマテークで映画を観ては、夜は今池界隈で飲んだくれ、その後はシネマテークのスタッフの部屋に泊まり込むという日々を送っていたことがある」と書かれている。名古屋シネマテークで観た映画は、ほぼ忘れてしまったかもしれないが、ここの支配人だった平野さんとスタッフの大橋君と毎晩、朝まで飲んでは、映画館の上の部屋(シネマテークはマンションの中にあった)で泊まった。一か月、二か月もそこに居候として(なんせ、当時やることがなかった)昼間は名古屋中の映画館をハシゴして、夜はひたすらシネマテークの大橋君たちと飲むという生活をしていたこともある。

支配人の平野勇治氏は去年、突然亡くなった。ミニシアターの小さな室内に、わが青春は置いたまま、いつのまにか忘れ去られていった。いいことも悪いこともこのミニシアターの中でカオスのように沸き起こっていたのを時々、思い出している。

園子温

1961年12月18日生まれ、愛知県出身。1987年、「男の花道」でPFFグランプリを受賞。2009年公開の「愛のむきだし」で第59回ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞・国際批評家連盟賞を受賞したほか、「冷たい熱帯魚」「恋の罪」「ヒミズ」「地獄でなぜ悪い」などで各国の映画賞に輝いた。Amazonの「東京ヴァンパイアホテル」、Netflixの「愛なき森で叫べ」など、配信作品も監督している。ニコラス・ケイジを主演に迎えたハリウッドデビュー作「Prisoners of the Ghostland(原題)」が、2020年にアメリカで公開。

文 / 園子温 イラスト / 川原瑞丸

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