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及川光博は“日常と非日常”を成立させる俳優だ 『#リモラブ』で体現する大人の恋模様

リアルサウンド

20/12/16(水) 8:00

 主役としてバリバリ前に出るわけではないが、この1年で3作のヒットドラマに出演し、替えがきかない存在感を示すプレイヤーがいる。

 及川光博だ。

 現在O.A.中の『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)では、人事部・朝鳴部長として“昭和ラテン”なアラフィフを好演。また、今年1番の話題作となった『半沢直樹』(TBS系)では、2013年に続いて半沢と同期入社の渡真利忍を演じている。さらに、1年前に放送された『グランメゾン東京』(TBS系)では、木村拓哉演じる天才シェフを支える料理人・相沢瓶人として華麗な手さばきを魅せた。

 ここでは俳優・及川光博について考えてみたい。

 俳優としての及川を振り返る際、避けて通れないのが『相棒』(テレビ朝日系)だろう。及川は2009年から2012年まで警視庁特命係・杉下右京(水谷豊)の二代目相棒として神戸尊を演じ、その名を幅広い世代に知らしめた。特命係を去ってからも、折々の事件で右京と協力関係を築いている“元相棒”は神戸1人である。

 『相棒』レギュラー卒業の翌年、2013年版『半沢直樹』に渡真利忍役で出演。半沢(堺雅人)の同期であり、人脈と銀行内外の情報とを手中に収める渡真利は、ことあるごとに半沢を陰からサポートし、彼の窮地を救う親友だ。

 『相棒』の神戸と『半沢直樹』渡真利の共通項は「振り回され型」のキャラクターであること。『相棒』でいえば、初代の相棒、亀山薫(寺脇康文)や三代目の甲斐享(成宮寛貴)は右京と正反対の直情型×行動派。それに対し、及川が演じた神戸は、元々スパイとして特命係に送り込まれたこともあり、自ら率先して事件に飛び込むことは少なかった。右京の“勘”に対して「面倒なことに首を突っ込まなくていいのに」という空気を醸すことも多々あったと記憶している。

 また『半沢直樹』の渡真利も、同期の半沢や近藤(滝藤賢一)のために情報を集め、彼らにそれを提供する役どころ。自分が渦中に身を投じることはなく、コトが起きた時にふと現れ、少々かき回されながらも陰から事態の収束に協力する立場であった。

 自身が40代に入る2009年から2013年にかけて、及川が神戸と渡真利という「振り回され型」のキャラクターを高視聴率ドラマで演じ、いずれも好評を得たことが、今の彼の俳優としての立場を決定づけたと考える。なぜなら、この年代で及川のような空気感を醸せる俳優は希少だからだ。

 主演とは違う位置に立ち、コンスタントにドラマ出演を続ける40~50代の俳優で、もっとも目立つのはいわゆる小劇場出身の人材。彼らは個性的で演技力もあり、アドリブにも強い。例を挙げると古田新太、阿部サダヲ、大倉孝二、橋本じゅん、八嶋智人といった非常に濃い面々だ。そんなクセが強めの俳優陣の中で、及川の生活感のなさや、51歳には見えないビジュアルは逆に目立つし、銀行や警察、病院、製紙会社と、どの場面でもスーツや白衣を着こなし、スっとその場に溶け込めるキャラクターは貴重。どんなシチュエーションにも自然にマッチし、なおかつ存在感をしっかり現す……及川光博のドラマでの佇まいは透明な水のようである。

 また、これだけ整ったビジュアルを保ちながら、彼がこれまでドラマでは恋愛面での役割をほぼ担ってこなかったことも面白い。『グランメゾン東京』で及川が演じた相沢は、フランス人の妻と離婚したシングルファザーという設定だったが、その想いは元妻ではなく、手放すことになるかもしれない娘に向かっていたし、『半沢直樹』の渡真利も既婚者らしいが、プライベートは明かされていない(余談だが、9月に放送された『生放送!!半沢直樹の恩返し』で、及川自身が「じつは渡真利は半沢にしか見えない妖精かも」と語っていたのがツボだった)。

 そんな及川が『#リモラブ』では「ゆりっぺ」こと精神科医の富近(江口のりこ)と大人の恋を育む朝鳴を演じている。昭和ギャグを飛ばしながら、飄々と仕事をこなす朝鳴と、恋愛は歓迎するが、結婚に夢を持っていないと語る富近との関係は、美々(波瑠)と青林(松下洸平)や、八木原(高橋優斗)と栞(福地桃子)のそれと比べると、感情の起伏が少なく非常に穏やかで自然体だ。恋愛が人生の100%ではなく生活の一部であり、できる範囲で進めていこうというテンションに共感する視聴者も多いのではないか。

 屋台のラーメン屋で並んで座り、メンマのやり取りをする行為と、誕生日に赤いバラの花束を持って現れるサプライズ。日常と非日常、ハレとケ。その両方をリアルに成立させられるのが俳優・及川光博の真骨頂だとも思う。また、これまで「振り回され型」のキャラクターを得意としてきた彼が、本ドラマでは大人の恋愛モードを担い、時に“攻め”の立場にまわるのも興味深い。

 アーティストとしてライブのステージで魅せる姿とはまったく違うキャラクターを澄んだ水のように演じるミッチー……いや、及川光博が、今後、どんな役柄にトライするのか楽しみにしつつ、個人的にはとんでもない悪役を演じ切る姿を見てみたいとも思うのである。あの優しげな雰囲気で悪人を演じたら、それはそれは怖いよ。

※高橋優斗の「高」はハシゴダカが正式表記。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
『#リモラブ 〜普通の恋は邪道〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:波瑠、松下洸平、間宮祥太朗、川栄李奈、高橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)、福地桃子、渡辺大、江口のりこ、及川光博
脚本:水橋文美江
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/remolove/
公式Twitter:@remolove_NTV
公式Instagram:@remolove_NTV

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