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辰巳JUNKが語る、セレブの言動に見る米エンタメ界のダイナミズム 「本業だけじゃない手腕も必要とされる」

リアルサウンド

20/4/26(日) 10:00

 レディー・ガガからドナルド・トランプ、ビリー・アイリッシュ、近藤麻理恵まで人物ベースで紹介しながら2010年代のアメリカのポップカルチャーの流れを追った辰巳JUNK『アメリカン・セレブレティーズ』が、2020年4月30日にスモール出版より刊行される。

 タイトルだけ見るとセレブのゴシップをおもしろおかしく扱った軽い本かと思うかもしれない。だがこの本では、アイデンティティ政治やフェミニズム、気候変動、アカデミー賞やグラミー賞の賞レースの背後でうごめく資金や票取りの駆け引きといった社会的・政治的イシューが取り扱われていく。軽薄でスキャンダラスな部分と、身近だがハードなテーマが渾然一体となったアメリカのエンターテインメント・ビジネスのスターたちについて書いた辰巳JUNK氏は、いったいどんなバックグラウンドの書き手なのか? セレブを追うことのおもしろさはどこにあるのか?(飯田一史)

ゴシップとフィクションの重なり

――あとがきによると辰巳さんは幼少期からアカデミー賞が大好きだったとのことですが、どんな子ども時代を過ごして今に至るのでしょうか?

辰巳JUNK:私は平成生まれで、本に出てくる人物で言うとビリー・アイリッシュよりは年上なんですが、マリリン・モンローやオードリー・ヘップバーンが出てくる昔のハリウッド黄金期のモノクロ映画がかかっている家に育ちまして。あのころのハリウッドは表現コードが厳しいので子どもにはいいのかもしれないですけど(笑)、日本のバラエティとかはあまり観られなかったんです。

 そうやっていろいろ昔の映画を観ていくうちに、凋落したかつての大女優が住んでいる豪邸に若い男が世話役みたいに入ってくるんだけど最終的には殺されるという映画『サンセット大通り』に出会いました。この作品は、デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』に影響を与えていたり、ミュージカル化されていたりするんですけど……主演が昔人気だった女優だったりして、キャスティングが現実とリンクしているんですね。そういう現実とフィクションが同期することに衝撃を受けたのが今につながるひとつのきっかけかなと。

 それから大きかったのは、中高生のときに観た白人至上主義のネオナチの兄弟を主人公にした『アメリカン・ヒストリーX』ですね。MTVとマドンナに象徴されるリベラルなセレブリティへの批判的なセリフが出てくるのですが、フィクションのなかに現実のネタが反映されていることがすごいなと思って、セレブやポピュラーカルチャーの文脈を気にするようになりました。

――ゴシップとフィクションが重なるおもしろさ、ポップカルチャーのなかに政治的・社会的な文脈が挿入されることへの関心ということですよね。そこは『アメリカン・セレブリティーズ』を読むと一貫した関心なんだなと感じます。

辰巳:基本的には飽きっぽいんですけど、アメリカのセレブのゴシップは飽きずにライフワークのように見ていて(笑)。私はもともと人の気持ちや空気が読めないことを気にしていたんですけど、SNSを観ると毎日何かしら騒ぎになって、炎上しているじゃないですか。その反応を見ていくといろんな人の気持ちの存在を知ることができるなあと。

 それからたとえばラッパーのカーディ・BはもともとSNSでおもしろいことをやっている人としてウケて、ストリッパーのぶっちゃけ話をやってウケて、リアリティショーをやってまたウケて……という感じで、本人は「カーディ・Bはソーシャルメディアによってつくられた存在だ」と言っていたんですけど、私も小学生のときからネットをやってきた人間なので「自分もそうだな」と。

――「炎上の反応を通じて人の気持ちを知る」というのはおもしろいですね。

辰巳:Twitterのリプ欄でセレブ擁護派のファンとアンチがバトルしているのを見るだけでも、いろんな意見があることがわかりますからね。

「セレブリティー」のダイナミズム

――辰巳さんはアメリカのセレブのどんなところに惹かれているんでしょうか?

辰巳:ポップスターの場合が特にそうなんですけど、本業だけじゃない手腕も必要とされるところですね。大御所コメディアンのジョーン・リバースが成功したときに「売れたら『ジョーン・リバース』がひとつの産業になるのよ」と言われたそうなんですが、ミュージシャンでも成功するとみんな音楽以外に化粧品やグッズを出したり、映画に出たりと総合商社みたいになって、そのディレクション能力が求められるのがおもしろいなと。この本ではセレブカルチャーを主題にしたので本業の作品以外の話も書きました。

――そこはこの本の大きな特徴ですよね。ポップミュージック論や映画論、俳優論ではなくて「セレブリティー」としての活動総体を捉えることで、ジャンルに閉じた話だけだと見えてこないアメリカのエンターテインメント・ビジネスの奥行きが見えてきます。

辰巳:さっき炎上の話をしましたけど、炎上して評判を損ねて終わりではなくて「どうやって炎上をビジネスに転換するか」を考えてやっている人もいるんですよね。カニエ・ウェストが典型で、結果的にはバッシングの勢いを利用して自分の音楽やブランドの商品をめちゃくちゃ売り伸ばしたり。それから、スターには成功したあとの困難もあって、基本的に同じことをやっても売れるわけじゃない。そういう、どうやってリスクテイクして人気を獲得・持続していくかというダイナミズムもおもしろいところですね。

――今までこのジャンルについてたくさん書かれてきたと思いますが、改めて本にまとめてみる過程でどんな発見がありましたか?

辰巳:長いあいだトップスターであり続ける人は、時流を読むのも上手だし、それと同時に根本的なソウルは変わらないんだな、と。そこに一貫性があるからこそ信頼が生まれる。たとえばレディー・ガガは2016年の大統領選挙のときから「敵対政党を支持する人も愛しましょう」と説いていたんですけど、2020年に出した新曲『Stupid Love』では初期のキテレツなコスチュームに回帰していて「宇宙空間で起こった争いを戦士ガガが止めて愛を説く」というニチアサ的な特撮ノリの作品になっているんですね。

――(笑)。

辰巳:なぜ宇宙かと考えると……この作品では、宇宙空間にさまざまな人種やセクシャリティの人たちが登場しているそうなんですけど、「私たちが想像できる属性以上にたくさんの多様な個性がある」という意味を込めているらしいんです。そこで争いが起こっている。つまり、今の現実社会の複雑すぎる分断に対して、ガガはSF的手法を用いてダイナミックに融和を説きたかったのかな、と。だから本人の作家性の核の部分は以前から変わっていないんですけど、スケールアップして、より多くの人を包摂するかたちで進化させているんです。

――なるほど。今の辰巳さんの説明が象徴的ですが、『アメリカン・セレブリティーズ』の本文の基本的なトーンはアイデンティティ政治やフェミニズムを扱ったりと、まじめです。一方で初出の人物に付けられている注釈では、ジョー・バイデンの項で「オバマの相棒として知られ、2人を主役にしたブロマンス探偵小説が刊行されている」と書いていたりとTwitterでの辰巳さんの発言のようなくだけた記述がわりと見られます。アメリカのセレブカルチャー自体にそういう二重性があるということですね。

辰巳:ふざけたようなこと、くだらないゴシップに見えることも意外とパブリックイメージへの信頼や社会的なイシューにつながったりもすることもあると思うんですよね。たとえばバイデンとオバマのブロマンス的人気は、今の大統領選の指名争いでポジティブに作用しているんです。バイデンは「オバマの相棒」効果もあってアフリカン・アメリカンの票を掴めたからこそ、今回民主党で指名争いに打ち勝ち実質的な大統領候補になれたところがあります。

アメリカのノンフィクションやルポの影響

――ちなみに辰巳さんが書き手として影響を受けた人はいますか?

辰巳:映画『イントゥ・ザ・ワイルド』の原作者でもあるジョン・クラカワーによる『信仰が人を殺すとき』というルポに大きな影響を受けました。アメリカのモルモン教の原理主義者が殺人事件を起こすんですが、その犯行理由に信仰が絡んでいて、裁判では「はたして信仰とは?」ということが問われた。クラカワーは筆致が簡潔なノンフィクションを書くんですけど、同時に小説みたいで読みやすいし印象に残る。提示される事実だけでなく、情景を浮かばせるようなシーン描写も印象に残る作家ですね。私は思春期のころは文化批評よりもノンフィクションやルポにハマって読んでいたので、その影響があるのかなと。

――たとえばほかには?

辰巳:「ソーシャルキャピタル」概念で有名な政治学者のロバート・パットナムが書いた『われらの子ども: 米国における機会格差の拡大』という経済本。アメリカで格差が広がっていることを膨大な取材とデータを駆使して描いていくんですが、取材した若い子の人生を掘り下げたり、アメリカンドリームの概念や同国における平等の概念を解説したりと、これもとっつきづらいものを物語的に書いていて、読みやすい本です。私の本でもブリトニー・スピアーズの章でミレニアル世代の経済格差や実質的な可処分所得の減少、教育ローンののしかかりについて触れています。

――この本を読んでアメリカのセレブ、ポップカルチャーをおもしろいなと思った人は、どんなメディアやアカウントをフォローすればいいでしょうか。

辰巳:英語のアカウントになっちゃいますけど、セレブ的なジャンルだと「Pop Crave」。これは音楽を中心にセレブのニュースをどんどん発信していくアマチュア発祥、Twitter主体のメディアです。ここはかなり勢力を拡大していまして、あらゆるSNSやポッドキャスト、Spotifyのプレイリストまで展開し、オウンドメディアではセレブのインタビュー記事も作っていて、スターが「Pop Crave」を引用してSNS投稿を書くくらいに影響力があります。

 芸能ニュースやゴシップについて知らせるアマチュアの英語アカウントにはジョークや嫌味が入りがちなものも多かったのですが、「Pop Crave」はTweetされる情報が早くて超簡潔。本文はシンプルなんですけど、Twitterだとリプライ欄が見られるので、テイラー・スウィフトとジャスティン・ビーバーのファンが売上対決をしたりといったファンダム同士の争い、英語圏のファンカルチャーも覗けます。

――「炎上に対する反応から人の気持ちを知る」的なSNSの使い方ですね。

辰巳:アメリカのマスメディアに関しては、有名どころは個性豊かでおもしろいので好みに合わせてフォローするといいと思うんですよね。The New York Timesみたいな大御所メディアはカルチャー、アートの記事だけ知らせるSNSアカウントもあるので。たとえば最近だとアメリカでも『あつまれ どうぶつの森』が流行っているので記事が出まくっていて、リベラル系の「The Atlantic」は『どうぶつの森』の経済システムに力を入れて解説しています。『どうぶつの森』ではスローライフを送るにあたりプレイヤーが借金苦にされるんですけど「ここでは資本主義と牧歌主義が一体化している。アメリカではそれらを対立させがちだからこういうものは珍しい。日本やイギリスと比べるとアメリカにはそもそも牧歌主義が薄い」と。「The Cut」は「フクロウのキャラが運営している博物館ってどうなの?」と博物館研究者に取材して「リアルな博物館と比べるとキャプションが充実してなさすぎる」といった発言を引き出して記事にしていて、ポップカルチャーがいろいろな知識の窓口になっています。

――次の本の題材やテーマはありますか?

辰巳:どうでしょう。今回の本はここ5年くらい書いてきたことの集大成みたいなところがあって、今は書き終えて燃え尽きているので……一旦、色々インプットしたいですね(笑)。ただ『ゲーム・オブ・スローンズ』や『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』をはじめ、好きなテレビドラマについて少ししか触れられなかったので、それはちょっと書きたいですね。

――ゆっくりでかまいませんので、次の本も楽しみにしています!

■書籍情報
『アメリカン・セレブレティーズ』
著者:辰巳JUNK
発売日:4月30日
価格:1,700円+税
発行:スモール出版

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