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演出家・中村一徳が語る宝塚『ファントム』の魅力

ぴあ

18/11/7(水) 12:00

中村一徳

ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』は、舞台化された作品がいくつか存在する。中でも、最初にミュージカル化したケン・ヒル版、センセーショナルな音楽で知られるアンドリュー・ロイド=ウェバー版に並んで知られているのが、アーサー・コピット(脚本)とモーリー・イェストン(音楽)が手がけた『ファントム』だ。

宝塚歌劇団では2004年に初演。エモーショナルでドラマチックな楽曲はもちろん、怪人=ファントムの孤独と憂愁が宝塚の男役にピタリとはまり、たちまち大ヒットとなった。その後も2006年、2011年と再演を重ねてきたが、今回、7年ぶり4度目の上演が決定した。

宝塚では初演から潤色と演出を手掛け、本作をヒットコンテンツに押し上げた中村一徳は、だが意外にも「4度目の上演は、夢にも思っていなかった」と語る。

「これまで3人のトップスターが、それぞれの個性を発揮して素晴らしいファントムを演じてくれました。こちらとしても毎回、精一杯やったという感覚なんです。4度目という幸せな機会をいただいて、今回はどういう『ファントム』にするか。それが課題です」と中村は言う。ポイントはふたつ。今回ファントムを演じるのが雪組トップスターの望海風斗だということ。そして舞台セットや振付のブラッシュアップだ。

「望海は舞台での情熱的な表情が印象的ですが、芝居などでふと見せる、純粋であるがゆえに、つつくと壊れそうな繊細さというのも魅力のひとつ。今の望海なら等身大の、これまでとはまた違ったファントム像を作ってくれるんじゃないでしょうか」と中村。

「コピット&イェストン版は、繊細で美しい旋律の中に、あえて芝居の余白を残した楽曲なんです。だから、役者が思い切り魂を吹き込まないと物語が成立しない。その代わり、しっかりと吹き込まれたときには、演じ手の個性が輝く舞台が立ち現れる。難しいとは思うけれど、役者にとっては大きなやりがいのある作品だと思います」

一方、舞台セットの変更については、「これまではファントムが住むオペラ座の地下の暗闇から沈んだ青のイメージで作っていたんですが、今回は、華やかな劇場の下で光が当たっていない場所という風に考えようかと。ベージュの彫刻が欠けていたり、大理石のグレーの壁が朽ち果てているような、廃墟のイメージですね」と言う中村。

さらに振付に関しても、新しい味付けを施す予定だ。「この作品は、ファントムだけじゃなくて、ある場面ではヒロインのクリスティーヌが、ある場面ではオペラ座の前支配人のキャリエールがというように、登場人物それぞれが物語を引っ張っているんです。だからメインキャストはもちろん、オペラ座の団員やファントムの従者たち一人ひとりまで、もっと個性を浮き上がらせれば、ファントムの苦悩や葛藤がさらに浮き彫りになるのではないかと。周りの役の高揚感がどれだけ見えるかによって、望海ファントムのありようも変わってくると思います」。

さて、宝塚歌劇団では、演出家は「先生」、劇団員は「生徒」と呼ばれる。それは創立時からの伝統で、両者はプロであると同時に、演出家は役者を導き育てるという役割も担う。「稽古場では“待つ”ことからですね」と中村。「役づくりの本筋からあまりにもかけ離れてしまったら止めますが、ベストなのは、まず生徒自身が、観る人を納得させるエネルギーを出そうとすること。それを歌やセリフと共に放つことが出来たら、役として充分に成立する。舞台に立つスタートラインはまずそこで、その大切さを教えることが、こちらの役割であると思っています」。

宝塚歌劇雪組 三井住友VISAカード ミュージカル『ファントム』は、11月9日(金)から12月14日(金)まで兵庫・宝塚大劇場、1月2日(水)から2月10日(日)まで東京宝塚劇場にて上演。東京公演のチケットは11月25日(日)に一般発売を開始する。

取材・文: 佐藤さくら 撮影:岩村美佳

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