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声優 浅沼晋太郎がいま求められる理由ーー変化自在な歌声、役作りへのこだわりなどから考察

リアルサウンド

20/8/21(金) 6:00

 『ACTORS』シリーズ、『あんさんぶるスターズ!』、『A3!』、『ヒプノシスマイク』、『Disney 声の王子様 Voice Stars』ーー声優×音楽ジャンルにおける人気コンテンツの多くにキャスティングされている浅沼晋太郎。なぜ彼はこれほどまでに求められるのだろうか。改めてその軌跡を振り返る。

演じるキャラクターによって自在に変化する歌声

 まずは先に挙げた作品のなかから、浅沼晋太郎が担当するキャラクターが歌ういくつかの楽曲を紹介しよう。

 『ACTORS』シリーズの飯盛駆による「ワールド・ランプシェード」(2020年)は、疾走感のあるメロディに浅沼のまっすぐ伸びる温かな声が印象的なナンバーだ。根は真面目なところや飄々とした自由さ、ときおり見せる力強さを鮮やかに表現した歌声は、2014年から同役として演じ歌い続けてきた浅沼だからこそ成せる業なのだろう。

飯盛 駆(CV:浅沼 晋太郎)「ワールド・ランプシェード」

 『あんさんぶるスターズ!』の月永レオによる「Birthday of Music!」(2018年)は、レオの可愛さと音楽に対する深い愛情が詰まった一曲。年齢よりも幼い印象を与えるレオの歌声と、作品のなかでふと現れる大人びた一面のギャップに魅せられるファンも多い。少女のような外見、不登校だった過去、自他ともに認める作曲の才能など、多くを抱えるレオの複雑なパーソナリティーを丁寧に表現する浅沼の芝居に注目だ。

月永レオ(CV.浅沼晋太郎)「Birthday of Music!」

 『A3!』での茅ヶ崎至は、“オトナの雰囲気を持ったエリート会社員”と公式プロフィールにもあるように、飯盛駆や月永レオよりも少し年齢が高いキャラクターだ。それゆえ、至として歌う際の浅沼は駆やレオよりもぐっと大人っぽい声質となり、その色気にあてられることもしばしばーーなのだが、じつは至は重度のゲーマー。「Gamer’s High」(2017年)では昼の顔からは想像がつかない、ゲーマーとしての本音がこぼれ落ちる歌詞につい笑ってしまう。

茅ヶ崎至(CV:浅沼晋太郎)「Gamer’s High」

 そして、なんといっても『ヒプノシスマイク』の碧棺左馬刻だろう。ヨコハマ・ディビジョンに拠点を置くヤクザの若頭であり、Mr.Hc(ミスターハードコア)のMC NAMEを持つ左馬刻を演じ歌うときの浅沼は、まさにハードコア。ドスがきいた低音域のラップは浅沼の新たな魅力を存分に引き出しつつも、ただオラついて歌うだけではない。「Gangsta’s Paradise」(2020年)でもわかるように、彼の歌声には左馬刻の内面にある優しさがにじみ出る瞬間がきちんとあるのだ。改めて、キャラクターによって自在に変化する彼の底知れない表現力に驚かされる。

MAD TRIGGER CREW(碧棺左馬刻)「Gangsta’s Paradise」

“声優・浅沼晋太郎”のフィルターを滅した役作り

 変幻自在の声を持つ浅沼晋太郎だが、彼は望んで声優になったわけではない。大学卒業後に演劇に触れて以降、舞台を中心に活動していた浅沼は、2006年、「棚から大きいぼた餅が落ちてきたみたいな感じ」でTVアニメ『ゼーガペイン』の主人公、ソゴル・キョウ役に抜擢される。当然、声優としての教育を受けてきていないため、マイクワークすらわからない。周りのキャストたちの足を引っ張らないよう、必死に食らいついていくだけで精一杯だった彼は、「声優の仕事はこの『ゼーガペイン』1本だけだろう」と思っていた。

 ところが、予想に反して声優の仕事は続いた。映像や舞台での芝居とはまったく異なる声の芝居に苦戦し、何度も辞めたいと思ったという浅沼だが、2010年に出会った『四畳半神話大系』の主人公「私」を演じたことで変化が生まれる。「私」は物語の語り手として、膨大な量のセリフをひたすらしゃべりまくるキャラクターだ。息継ぎすらままならない状況のなか、「私」を演じきった浅沼に周囲から称賛の声があがった。ましてや、キャラクターデザインに中村佑介、監督に湯浅政明を配する『四畳半神話大系』は超話題作である。多くの人が目にする作品で主人公を演じる浅沼晋太郎の名前が知れ渡ったことは、本人にとって大きな転機となる。

 以降も浅沼は多くの作品に出演し続けてきたが、「落ちてきたぼた餅を頭に乗っけたまま、声優として居させてもらっているような引け目がある」と語る(『声優男子。2018 Summer』より)。そんな彼だからこそーーというのもあるのだろうか、浅沼の根底には「アニメは視聴者のものだから、“声優・浅沼晋太郎”というフィルターがかかっていてはいけない」という強い思いがある。見ている人に、物語を純粋に楽しんでもらいたい。そこには役を超えた“声優・浅沼晋太郎のエッセンス”は必要ない。これが、彼が自我を通すことなくキャラクターごとに声を変える理由である。

多岐にわたる活動もすべては「人を楽しませるため」

 声優のほかにも脚本家、演出家、俳優、コピーライターといった肩書きを持つ浅沼晋太郎。2007年より参加しているエンターテインメント・ユニット「bpm」をはじめ、鈴村健一が総合プロデューサーをつとめる声優による即興劇『AD-LIVE』や、幕張イベントホール座長公演『水樹奈々大いに唄う』でも脚本・演出を担当するなど、活動は多岐にわたる。今年1月には、44歳にして初の写真集『POPCORN』を発表した。ここにも浅沼のアイデアや演出が施され、センスと遊び心満載の内容にファンからの反響も大きい。

 そんなマルチな才能を持つ浅沼だが、その原動力となるのは「人が楽しんでいる姿」だという。人が楽しむうえで、自分のこだわりは必要ないと考える彼は、脚本を書く際も、演出する際も、テーマやメッセージを込めることはない。どんなときでも人を楽しませるために、徹底的に自己を滅する。その結果として、変幻自在の声を持つ声優・浅沼晋太郎が生まれたのだろう。そしてたしかに、私たちは彼が演じる役を大いに楽しみ、作品の世界へとどっぷりハマっていくのだ。

 ちなみに、浅沼晋太郎の変幻自在ぶりを体感したければ、先述した『ヒプノシスマイク』の碧棺左馬刻と『刀剣乱舞-ONLINE-』の鳴狐を比べてみると良い。きっと度肝を抜かれることだろう。

■とみたまい
フリーライター。主に声優、アニメ、特撮などのジャンルにおいて、インタビュー取材を
中心に活動中。
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