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ライブ・アルバムへの思いを語る 植山けい(チェンバロ)

ぴあ

植山けい

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コロナ禍の最中、2021年6月11日に東京オペラシティ近江楽堂で行われた植山けい(チェンバロ)のリサイタルは、音楽のある生活の意味や潤いを、改めて認識させてくれる素敵な時間だったことが思いだされる。

このリサイタルのライブ・アルバムが早くも登場したことは僥倖だ。当日演奏されたプログラムの中から、デュフリ、スカルラッティ、J.S.バッハの作品をコンパクトにセレクトした内容は、フランス・コルマール、ウンターリンデン博物館に所蔵されているJ.ルッカ―ス製の名器と同じモデルによる美しい響きと相まって、チェンバロの素晴らしさを改めて認識させてくれる。アルバム発売に際し、植山けい本人からのメッセージが届いたので紹介しておきたい。

●アルバムに寄せて

このライブアルバムは偶然が作り出した産物と言っても良いかも知れません。当初2020年6月に公演予定だったところが、コロナ渦となり1年延期。世界中が揺らぐ事態となる中で、今まで当たり前に開催されていたコンサートがなくなり、聴衆との接点がなくなってしまいました。まさに失ってから理解するありがたみです。音楽家の役目とはなにか、今しかできないことは何かを考える中で、バッハやデュフリ、スカルラッティと対話する日々が続きました。
かつてヨーロッパの人口の1/3が亡くなったという黒死病(ペスト)の大流行によって、17世紀の著名な作曲家であるフォンタナが亡くなっていたことを知り、音楽修辞法において、へ短調は「死」を象徴する調性の曲としてバロック時代に使われることが多かったことも知りました。また、”Memento mori(死を憶え)”というフランダース絵画にも多く描かれている骸骨や花、砂時計、虫は、「人生は儚く、私たちは刻々と死に向かっていることを忘れるな」という格言と結びついていたということも知りました。当時の人々が体験した家族や知人の身近な死と、それに伴う絶望感と死生観は理解できないもの。そう思っていた状況を今の時代に体験するとは夢にも思い描いていなかったのです。そんな中でのコンサートだったからこそ、形に残しておきたいと思ったのです。

●作品についての覚書

バッハの『半音階的幻想曲』からは、痛烈な死生観を感じます。絶望と希望が右往左往する即興的なパッセージと自答自問するようなレチタテイーボ。半音階による不安げなフーガは最終的には希望に満ちた響きへと誘われます。この曲をバッハはどんな思いで作曲したのでしょう。ドイツ人の音楽学者ピーター・シュレーニング(Peter Schlening)の仮説によると、この曲はバッハの最初の妻であるアンナ・バルバラが亡くなった直後に作曲された可能性があるといいます。
ナポリ出身のスカルラッティは、半生を過ごしたスペインの象徴とも言えるフラメンコのリズムや不協和音を巧みに使ってK.141に強烈なインパクトを与えました。その躍動感がラテンの血を彷彿とさせます。それに対し、同じニ短調K. 213は単旋律の静寂と究極の美を作り出しています。
フランスのクラブサン(フランス語でチェンバロの意味)のために数多くの名曲を残したデュフリは、甘美なメロデイと華やかな装飾音を散りばめることによって、ヴェルサイユ宮殿やパリの王侯貴族達が愛したであろうエレガンスを描き出しています。(植山けい)

「植山けいチェンバロリサイタル 2021 ライブ録音」

*同アルバムは、銀座・山野楽器、植山けいホームページにて購入可能。www.kayueyama.com
*オンライン、ハイレゾ配信中 itune,amazon,spotify,e-onkyoなど。

●植山けい/プロフィール

ロンドン生まれ、東京育ち。2004年パオロ・ベルナルデイチェンバロコンクール第2位(イタリア)。第19回国際古楽コンクール<山梨>チェンバロ部門第3位(日本)。
2010年プロメテウス21(フランス)によるバッハのチェンバロ協奏曲及び、ブランデンブルク協奏曲全曲演奏ツアーにソリストとして出演。その時の演奏が、フランス国内でラジオ・テレビ放映され、好評を博す。また、オランダやアメリカで開催したコンサートでの演奏を地元メディアに取り上げられ、高く評価された。サル・プレイエル(フランス)、シャペル・ロワイヤル(ヴェルサイユ宮殿、フランス)、ブリュッセル王立楽器博物館(ベルギー)などでも演奏会を行う。
2012年、バッハのゴルトベルク変奏曲をスイス・ノイシャテル博物館所蔵ヨハネス・ルッカース1632/1745で録音し、フランスデイアパゾン誌新人賞、レコード芸術で特選盤並びに朝日新聞推薦盤に選出した。また、デュポールのチェロソナタ集をラファエル・ピドゥー(チェロ)と世界初録音した。
2018年NHK交響楽団と野平一郎氏新作発表公演に参加。ケンブリッジ古楽協会の招聘によりロンドンとケンブリッジ大学にてソロリサイタルを行いイギリスデビュー。同年J. S.バッハ:6つのパルティータをフランス・ヴィラルソー城所有C.クロール1776で録音し、キングインターナショナルよりリリース。レコード芸術で準特選盤に選ばれ、東京新聞、東京FMで紹介された。
桐朋学園大学ピアノ科、アムステルダム音楽院チェンバロ科(オランダ)、ロンジー音楽院チェンバロ修士課程(アメリカ)、ブリュッセル王立音楽院フォルテピアノ科修士課程終了(ベルギー)。
これまでチェンバロをピーター・サイクス、メノ・ファン・デルフト、クリストフ・ルセ、ユゲット・ドレイフュスに、ピアノを小島準子、ヴィクター・ローゼンバウム、ダンタイソンに、フォルテピアノをピート・クイケン、ボヤン・ボティニチャロフの各氏に師事。
現在欧米と東京を中心にチェンバロ奏者として活躍中。同志社女子大学、京都市立芸術大学非常勤講師を経て、現在、桐朋学園大学嘱託演奏員。Kay Music Academy主宰。

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