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『東京BABYLON』はなぜ伝説的な作品となった? “厨二心”をくすぐる作品世界の魅力

リアルサウンド

20/11/7(土) 9:00

「あなたは『東京』が、きらいですか?」

 なんとも印象的なフレーズから始まる『東京BABYLON』は、ヒットメーカーとして知られる漫画家集団CLAMPのキャリア初期を彩る代表作だ。1990年から1993年にかけて新書館の雑誌『サウス』と『ウィングス』に連載された本作は、80年代末東京の空気感が刻まれた作風や、衝撃的なラストが相まって、今もなお伝説的な人気を誇る。

 そんな『東京BABYLON』が先ごろ、「東京BABYLON 2021」としてアニメ化されることが発表され、大反響を巻き起こした。アニメ化発表とともに、制作を手がけるGoHandsによる第1弾PVも公開され、その作品世界をいち早く垣間見ることができる。

 繊細かつ美麗なPVは期待感を大いに高めてくれたが、一方では「2021年の東京を舞台にした」とうたったコンセプトの通り、登場人物が令和を感じさせるビジュアルに様変わりしているのも印象的だった。

 新しいキャラクタービジュアルの“肩幅の減少”が話題を呼んだように、原作の『東京BABYLON』には肩パッドたっぷりのファッションが登場し、バブル景気に沸く日本社会の時代性が色濃く投影されている。作中に漂う世紀末感や、当時の社会問題とリンクとしたオカルト事件の数々、そしてオタク心をくすぐる作品のディテールは熱狂的なファンを生み出した。しかしながら発表時からすでに30年の時が流れ、我々を取り巻く状況は様変わりしている。

 舞台が2021年に変更された事に多少の寂しさを感じるものの、原作をそのままアニメ化しても、今の時代にそぐわない描写が目立つだろう。今回の記事では、『東京BABYLON』に描かれたあの頃の東京や、今もなお心を捉えてやまない物語を振り返りつつ、来るべきアニメに向けて想いを馳せていきたい。

 新書館から全7巻で刊行された『東京BABYLON』に登場するレギュラーキャラクターは、わずか3人。主人公の皇昴流とその姉・北都、そしてキーパーソンの桜塚星史郎という極めてミニマムな人物配置のなかで物語が展開する。

 古来より日本を霊的に守ってきた皇家。陰陽師一族の13代目当主を務める皇昴流は、歴代当主のなかでも1、2を争う強い能力の持ち主であり、高校生ながらさまざまな仕事を請け負っている。だがその素顔は動物を愛し悲しむ人々を見過ごせない、心優しく繊細な少年だった。

 昴流の双子の姉・北都は、陰陽師としての能力はほとんど持ちあわせておらず、明るく活発な性格で弟をサポートしている。そんな北都が披露する奇抜かつスタイリッシュなファッションの数々は、『東京BABYLON』の世界を彩る象徴的な要素である(昴流が着る服のコーディネートもすべて北都が手がけている設定だ)。

 そして桜塚星史郎は、新宿歌舞伎町に動物病院を開業する獣医。穏やかな好青年である星史郎は、日本を陰から支える残忍な暗殺集団「桜塚護」の者であり、昴流と行動を共にして術を使い彼の仕事を手助けする。本来であれば皇家と桜塚護は敵対関係にあるが、包容力にあふれた星史郎は優しく振る舞い、昴流に対して好意もみせ続けるのだった。

 一見派手な言動を振りまくが、人の気持ちには敏感な北都。とある秘密を抱え、姉の前でも決して手袋を外さない昴流、そして謎めいた星史郎の真意とは……。昴流は大都会東京を舞台に数々のオカルト事件を解決し、その過程のなかで3人が織りなす人間模様が複雑に絡み合うというのが、本作のあらすじだ。

 『東京BABYLON』の幕開けを飾る「T・Y・O」を今読むと、現代の価値観では問題含みな発言や、バブル期特有の浮足立った空気感に、時の流れを突きつけられるだろう。だが不夜城都市・東京にきらめく東京タワーの姿と、「この地球でたったひとつ 滅びへの道を『楽しんで』歩んでいる都市だからですよ」という印象的な星史郎の台詞が呼び起こす高揚感は、今もなお鮮やかだ。

 コメディタッチの第1話を経て、第2話から物語は重いテーマを打ち出した除霊ものに突入する。『東京BABYLON』は社会派作品として知られ、作中で自殺やレイプ、ダイヤルQ2、いじめや新興宗教、老人の介護問題や臓器移植、幼児虐待など、シリアスかつ多岐にわたる問題が取り上げられていった。世相を反映した事件の数々は、東京に生きる人々の孤独や悲しみを浮かびあがらせ、この世に想いを残した霊が怪奇現象を巻き起こす。昴流はそんな彼らの心を救おうと、自らも傷つき葛藤しながら、大都会の闇に立ち向かっていくのだ。

 昴流が解決する霊的事件の顛末は、残酷な現実を突きつけ、決して後味のよいものばかりではない。バナナのエピソードとして有名な「OLD」は、悲劇でありながらもわずかな希望が残る展開が、涙を誘わずにはいられない。また夢破れた少女を描く「BABEL」は、東京タワーというモチーフを巧みに活用した、『東京BABYLON』らしさに溢れたエピソードだ。きれいで華やかで汚い大都会の姿と、人間の夢と孤独に迫ったストーリーは、切ないカタルシスをもたらす。

 そして『東京BABYLON』といえば、あまりにも有名な結末にも触れずにはいられない。計算尽くされた構成のなかでも、とりわけ衝撃的なクライマックスの「END」と、追い打ちをかける最終話「START」の流れは、読者をどん底へ叩き落す。本作を未読の読者は、ぜひコミックスでこの絶望感を味わってほしい。

 『東京BABYLON』を手に取ると、過ぎ去った時代への郷愁が沸きあがり、オタク心を刺激する懐かしのディテールは今もなお心をざわめかせる。細部を令和にチューニングし直しても、作中に漂う世紀末の気配や、“厨二心”をくすぐる設定が引き継がれることを願いつつ、本作に人生を狂わされた一読者としてアニメ化に期待を寄せたい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
『東京BABYLON』
著者:CLAMP
出版社:KADOKAWA
アニメ公式サイト

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