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『アリー/ スター誕生』、『ブラックパンサー』……『第91回アカデミー賞』歌曲賞の注目作は?

リアルサウンド

19/2/23(土) 8:00

 2月24日(日本時間25日)、『第91回アカデミー賞』の授賞式が開催される。最多10部門にノミネートされた『ROMA/ローマ』と『女王陛下のお気に入り』を筆頭に、8部門にノミネートされた『アリー/ スター誕生』、7部門にノミネートされた『ブラックパンサー』など、有力候補がひしめき合っていることはもちろん、『万引き家族』(外国語映画賞)と『未来のミライ』(長編アニメ賞)という日本勢がノミネートされていることから、例年以上に各賞の行方が気になる今回のアカデミー賞。ここでは、その音楽部門の中でもとりわけ注目を集めている「歌曲賞(主題歌賞)」にノミネートされた5つの楽曲を、それぞれの映画の内容と合わせて見ていくことにしたい。

(関連:『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/ スター誕生』の意外な共通点とレディー・ガガの歌唱力

◎(本命)「シャロウ~『アリー/ スター誕生』愛のうた(Shallow)」/レディー・ガガ&ブラッドリー・クーパー(『アリー/ スター誕生』)

 言わずと知れたポップスター、レディー・ガガが女優として主役を熱演し、見事主演女優賞にもノミネートされた『アリー/ スター誕生』。その主題歌である「Shallow」は、主題歌賞大本命の一曲と言えるだろう。劇中では、アリーがスターの階段を駆け上がっていく、まさにそのきっかけの歌として、アリーとブラッドリー・クーパー演じるもうひとりの主人公、ジャクソンのデュエットによって披露されていたこの曲。レディー・ガガとマーク・ロンソンらのチームによって生み出されたこの曲は、「浅瀬(シャロウ)ではなく、もっと深いところにいくの」という、アリーとジャクソンの決意と強い絆を描いた1曲だ。先日授賞式が行われたグラミー賞で、最優秀映像作品賞と最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)賞に輝いた同曲だが、今回のアカデミー賞授賞式では、その歌も含めて見事なロックスターを演じ、主演男優賞にノミネートされたブラッドリー・クーパーとガガの2人による、映画さながらのライブパフォーマンスが予定されている。主演賞にノミネートされている2人が、主題歌賞にノミネートされている曲を授賞式で歌うという前代未聞の事態であることも含め、やはり最有力の一曲と言えるだろう。

○(対抗)「All The Stars」/ケンドリック・ラマー&シザ(『ブラックパンサー』)
 そんな「Shallow」に負けず劣らず有力候補と目されているのは、全米で7億ドルを超える興行収入(『アリー』は2億ドル)を叩き出した大ヒット映画『ブラックパンサー』の主題歌「All The Stars」だ。スーパーヒーロー映画としては初めて作品賞にノミネートされたことも話題を集めている本作。その監督であるライアン・クーグラーから主題歌の依頼を受けたのは、アルバム『DAMN.』で昨年のグラミー賞を総舐めにした“ヒップホップの新王者”こと、ケンドリック・ラマーである。作品の内容と志に共感した彼は、主題歌のみならず本作にインスパイアされたオリジナルアルバムを仲間たちと共に制作。かくして映画の公開に先駆けて発表された同曲で歌い上げられているのは、父親の死に伴い王位を継承することになったティ・チャラ(ブラックパンサー)の内面世界である。ケンドリックとシザが出演するそのミュージックビデオの秀逸な仕上がりも相まって、奇しくもそれは“ヒップホップの新王者”と称されるようになったケンドリック自身の内面を反映しているようでもある。ちなみに、先述の「Shallow」とは、グラミー賞の最高賞である最優秀レコードを争った関係でもある(結局同賞は、チャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」が受賞した)。作品賞にもノミネートされている2作だけに、その賞の行方と合わせて気になるところだ。

▲(単穴)「幸せのありか(The Place Where Lost Things Go)」/エミリー・ブラント(『メリー・ポピンズ リターンズ』)
 昨年受賞した『リメンバー・ミー』、一昨年に受賞した『ラ・ラ・ランド』など、ミュージカル色の強い映画が受賞することも多い主題歌賞。そう考えると、『メリー・ポピンズ リターンズ』の主題歌「幸せのありか(The Place Where Lost Things Go)」にも、十分受賞の可能性があると言えるだろう。1964年に日本でも公開された映画『メリー・ポピンズ』の20年後の世界を描いた本作。歌手であるガガが演技を披露した『アリー』とは逆に、女優であるエミリー・ブラントが堂々たる美声を響かせたこの曲で描かれるのは、「永遠に消え去るものなど、この世にひとつもない」という、『メリー・ポピンズ リターンズ』という作品が持つメッセージ性とも深く関係したテーマだ。同曲を生み出したのは、本作で音楽賞にもノミネートされているアカデミー賞の常連マーク・シェイマンと、彼のパートナーであるスコット・ウィットマンのコンビである。ちなみに、ジュリー・アンドリュースが主演したオリジナル版『メリー・ポピンズ』は、1965年のアカデミー賞で最多13部門にノミネートされ、主題歌賞を含む5部門を受賞している。その主題歌であり、いわゆるスタンダード曲として日本でも馴染み深い「チム・チム・チェリー」に比べると、楽曲としての印象がやや薄いような気がするけれど、今回の授賞式では、サプライズゲストを招いた形でのパフォーマンスが予定されているとのことなので、そちらも合わせて楽しみにしたい。

△(連下)「I’ll Fight」/ジェニファー・ハドソン(『RBG 最強の85歳』)
 「I’ll Fight」は、アメリカの最高裁判事の1人であるルース・ベイダー・ギンズバーグを追ったドキュメンタリー映画『RBG 最強の85歳』の主題歌だ。1970年代に弁護士として、女性やマイノリティーに関する数々の重要な裁判に勝利し、今日の礎となる偉業を成し遂げ、1993年からは最高裁判事の1人として現在に至るまで活躍しているルース。とりわけ、トランプ政権樹立後は、リベラル最後の砦として、その立ち振る舞いや発言が注目を集め、若者たちからはロックスターのように支持されている彼女の経歴をひもときながら、その人間性に迫った秀逸なドキュメンタリー映画として、長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされている本作。そのエンドロールに流れるこの曲を生み出したのは、これまで数々のヒットソングを生み出し、今回が実に10回目のノミネートとなる“バラードの女王”、ダイアン・ウォーレンだ。そして、「私は戦う」というルースの生き様にも通じるメッセージを持つこの曲を圧巻の歌声で歌い上げるのは、ジェニファー・ハドソン。かつて、ビヨンセが主演した『ドリームガールズ』に出演し、アカデミー賞助演女優賞に輝いたことでも知られる、あのジェニファー・ハドソンである。彼女たちも惜しみない賛辞と尊敬を寄せるルース・ギンズバーグ。日本ではあまりなじみのない人物ではあるけれど、5月10日に予定されている本作の日本公開に先んじて、ルースの若かりし頃を描いた映画『ビリーブ 未来への大逆転』が3月22日から日本公開されるなど、今後ますます注目を集めるであろう人物だ。

☆(大穴)「When a Cowboy Trades His Spurs for Wings」/ウィリー・ワトソン&ティム・ブレイク・ネルソン(『バスターのバラード』)
 そして最後に、このラインナップに並んでノミネートされること自体がある意味驚きだった『バスターのバラード』の主題歌「When a Cowboy Trades His Spurs for Wings」。日本でも人気の高いコーエン兄弟の最新作とはいえ、『ROMA/ローマ』と同じくNetflix配給という限定された形での公開となった本作は、いわゆる西部劇の形をとった6つのエピソードからなるオムニバス形式の映画だ。今回主題歌賞にノミネートされた同曲は、その冒頭を飾るエピソードの最後、決闘の末に勝者と敗者になったガンマン……すなわち生者と死者がデュエットで歌い上げるという、何ともコーエン兄弟らしい皮肉の効いたカントリー調のバラード曲となっている。劇中では、バスター役のティム・ブレイク・ネルソンと、流れ者役を演じたフォークシンガー、ウィリー・ワトソンがデュエットしているが、授賞式では同曲の作詞作曲者である人気フォークシンガー、デヴィッド・ローリングスとギリアン・ウェルチによるパフォーマンスが予定されている。アカデミー会員たちにも人気の高いコーエン兄弟の映画であること、そして依然としてアメリカで支持者の多いカントリー調の楽曲であることなどから、思わぬ“大穴”となる可能性もある同曲だが、例年以上にビッグネームが並ぶ同賞のノミネートの中では、いささか地味な印象があることは否めない。
 レディー・ガガとケンドリック・ラマーというグラミー賞にもノミネートされたアーティストの楽曲がエントリーしていることはもちろん、主題歌賞にはノミネートされなかったものの、ロックバンド・クイーンを描き、日本でも大ヒットを記録中である映画『ボヘミアン・ラプソディ』が作品賞、主演男優賞など主要部門にノミネートされるなど、いつにも増して音楽色が強いような気がする今回のアカデミー賞。それだけに、その授賞式は映画ファンのみならず、音楽ファンからも大きな注目を集める一大イベントとなることだろう。(麦倉正樹)

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