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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

佐野元春さんがいかに凄かったか・その②

毎週連載

第142回

前回に引き続き、今週も「佐野元春さんがいかに凄かったか」を喋ります。

先週、『SOMEDAY』で一躍ヒットシンガーになった佐野さんが、いきなりニューヨークに渡った……という話をしました。では、佐野さんはニューヨークに行った後、どんな作品を作ったかと言うと、これがまた超ヤバいんだ。いち早くヒップホップとかにも触れて、現地のアーティストとラップの曲を入れたアルバムを作っちゃったんだよ。『VISITORS』っていうアルバムなんだけど、これ日本でヒップホップが流行り出す前の1984年とかそんな時代に出した作品なんだ。日本でいち早くヒップホップを始めたアーティストに、タイニー・パンクス(藤原ヒロシ・高木完)というユニットがあるけど、この結成は1985年と言われてて。これが本当だとすると、実はタイニー・パンクスよりも1年早く佐野さんがヒップホップのアルバムを出してたってことになるわけ。

それくらいラップ、ヒップホップという音楽が日本にまだなかった時代だからさ、佐野さんがいきなりラップをやっても、みんな何がなんだかわからなかったんじゃないかと思う。想像だけど、『SOMEDAY』で好きになったファンの中には、この『VISITORS』というアルバムを聴いて離れていっちゃった人も多かったかもしれないよね。

でもさ、今聴いてもマジでカッコ良いよ。本当にヤバい。佐野さんのラップがすごいカッコ良いし、バックトラックもマジでヤバいから聴いたほうが良い。かなりオシャレな音だし僕は大好きです。

佐野さんはその後もジャズ、スカ、レゲエを取り入れた作品を出したり、あとポエトリーリーディング作品をシングルカットしたり、先駆的なことをどんどんやるんだよね。しかも奇を衒ったり、「誰よりも早いことをやろう」とかでもなくてさ、アーティストとして表現を追求して斬新な作品ばかりを作っていったわけで、これはもっと評価されるべきなんじゃないかと僕は思っています。

ところでさ、佐野さんの歌詞は、英語をちょいちょい入れる特徴があるんだけど、1989年にリリースした『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』っていうアルバムでは、こういったカタカナっぽい表現をあえてヤメて、日本語に立ち返るんだ。つくづく『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』っていうタイトル自体が素晴らしすぎるけど、このアルバムの中の1曲でシングルカットもされた『約束の橋』は歌詞の中にひとつも英語のワードがないんだよ。しかも、その歌詞全体を読むとマジで泣ける。凄すぎる歌詞だから、心して聴いてほしいね。

おそらくブルーハーツのヒロトさん、マーシーさんも佐野さんから強い影響を受けたんじゃないかと思う。「自分の気持ちを音楽が代弁してくれる」って意味でね。もちろん、この点ももっと評価されて良いと思うんだ。

佐野さんの歌詞には「ジェネレーション」っていうワードが多く使われてるでしょう。これ、僕の解釈では「若い人が持つモヤモヤした気持ちを音楽で代弁する」みたいな感じでさ、やっぱり「音楽が誰かの立場、生活に寄り添う」って意味ではないかと思う。この点ももちろんもっと評価されるべきだと思うよ。

江口くん(マネージャー)が大好きな尾崎豊さんも、佐野さんからの影響があったろうし、吉川晃司さんとかも佐野さんからの影響を公言してる。「影響を与えた」って意味で言えばさ、ある意味で「日本のロックを変えた」重要アーティストですよ、佐野さんって。

日本の男性シンガーソングライターには吉田拓郎さん、井上陽水さん、忌野清志郎さん、大滝詠一さんとか色々な人がいるよね。本当に凄い人ばかりで僕も尊敬しているけど、今一番すごいなと思うのはやっぱり佐野さん。有名な『SOMEDAY』『アンジェリーナ』ももちろん良いけど、佐野元春さんの全アルバム、全楽曲を聴くと、その凄さがよくわかります。佐野元春さんの全作品、是非聴いてほしいですね。

『物語なき、この世界。』(作・演出/三浦大輔)、終わりました。観に来てくれた方、ありがとうございました。

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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