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“水の呼吸”の源流はここにあった! 日本美術史学者が語る映画『HOKUSAI』の魅力

ぴあ

『HOKUSAI』 (C)2020 HOKUSAI MOVIE

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日本が世界に誇る伝説の絵師・葛飾北斎の半生を描いた映画『HOKUSAI』が5月28日(金)から公開になる。葛飾北斎は日本のみならず世界にも熱狂的なファンの多い19世紀の絵師で、代表作「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が2024年度から発行される新紙幣の千円札にも採用されるなど“現代を生き続ける画家”でもある。なぜ、北斎はいまも多くの人に愛されるのだろうか? 日本美術史を研究し、信州小布施にある北斎館の館長も務める安村敏信氏に話を聞いた。

葛飾北斎は幼い頃から絵の道に進み、その後に版画や浮世絵の世界に進出。その生涯を通じて一職人として絵筆を動かし続け、平均寿命が40歳と言われた江戸時代後期にあって、90歳まで生き、3万点を超える作品を残した。

北斎の作品は19世紀のものだが、先に紹介した新紙幣やパスポートなどにも使用され、その技法や特徴はジャンルを超えて現代の文化に多大な影響を与えている。「北斎は色々な表現をしているので、影響を受けた方々も、北斎に刺激を受けた新しい表現を続けている」と安村氏は説明する。

「例を言えば、『鬼滅の刃』に登場する“水の呼吸”の流流舞いというのは、まさに北斎の上町祭屋台天井絵「怒濤図」の「男浪」からイメージされていますよね。"水の呼吸”のほかにも、龍や色々なものが、北斎が滝沢馬琴の作品の中で描いた読本挿絵などの中の図像から刺激を受けていたと、作者の方が仰っていました。

一般の人は知らず知らずに北斎の影響を受けながら楽しんでいるので、北斎の絵を実際に見たときに『どこかで見たことあるかな?何か知っているぞ』という感じになるのではないでしょうか。僕も『鬼滅の刃』を観たときに“流流舞い”などいくつかは『あっ、これ北斎だ!』と気づいて、後から作者の方が、北斎と月岡芳年を勉強したと言っていたことを知りました」

年齢を重ねるごとにスタイルを変え、描く対象を変え、技法や手法を研究し続けた北斎。映画『HOKUSAI』では、最新の研究成果を基に北斎の半生と彼の情熱が描かれるが、ひと足早く鑑賞した人の多くが「すごく前向きな気持ちになった。北斎の生涯を観るとポジティブな気持ちになる」と語っているという。

「それは当然だと思います。北斎は90年間も生きたのに、死ぬ間際にもっと生きたいと言った人です。何故ここまで生に執着したかというと、もっと生きて、次々と表現を変えていきたかったんです。

どんなときでも挫折というのをあまり感じない人で、自分で自分を否定する。自分で作り上げた様式を自分で否定して、次の段階へ変化していく。まさに前へ前へ進むバイタリティがありますよね。北斎は進化を続けていくため、画風が変わるたびに雅号(名前)もいっぱい変えました。北斎は90年の生涯で93度の引越しをしたと言われていて、その理由は不明ですが、自分の雅号を変えたと同じように、新しいものを次々と求めていく上で、一ヶ所に留まれなかったのかもしれないですね」

何が起こっても立ち止まらずに前に進み続ける、年齢を重ねても“その年齢にしか見えないもの、描けないものがある”と信じて絵筆を止めなかった北斎が残した作品は膨大。現在も新たな作品が発見されているという。

「北斎は肉筆で肖像画を描いていましたが、今のところ2、3点しか残っていません。だいたい北斎が50代の頃に描いたものですが、去年に40代に描いた肖像画が1点初めて見つかり話題になったんです。持ち主の方はあまりにもボロボロだったので、捨てようとしていたらしいですが、北斎館に持ってこられて、本物だし、ビックリしましたよ。そんな肖像画なんて出てくると思わなかったですし、見たことのない北斎の新しい絵が見つかる可能性がまだまだありますね」

これだけ世界に影響を与え、いまもなお影響を与え続ける北斎にはいまだに“知られていない作品”があるのだ。映画『HOKUSAI』で描かれるエピソードの中には、製作陣が研究を基に創造した部分もあるが、本作の解釈が北斎の作品たちに新たな光をあてることになるかもしれない。

「やっぱり一番面白かったのはラストシーン」と語る安村氏。映画公開前のため、どんな結末が描かれるか明かせないが、安村氏曰く映画のラストは「感動的で、未来に繋がるようなシーン」になっているという。

『HOKUSAI』
5月28日(金)公開

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