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緊迫感あふれる映画の“唯一の癒し”に。女優・南沙良、18歳の今

ぴあ

21/3/5(金) 7:00

南沙良 撮影:源賀津己

夕陽に照らされながら、少しうつむきがちにスクーターの後ろの席に腰を掛け、運転席の少年の腰に軽く手を回す姿がなんとも切ない。

多くの映画で青春の1ページの代名詞として描かれてきた“ふたり乗り”だが、この映画において、こうした青春の描写の美しさは、その後、主人公が歩む運命の過酷さを際立たせる。後ろの席に座る少女は南沙良。映画『太陽は動かない』(3月5日公開)において、主人公の敏腕エージェント・鷹野(藤原竜也)の高校時代の島での生活を描いた回想シーンで、甘酸っぱい初恋の相手である詩織を演じている。

『太陽は動かない』(c)吉田修一/幻冬舎 (c)2020「太陽は動かない」製作委員会

吉田修一の同名小説を原作に、心臓に爆弾を埋め込まれた主人公が秘密組織のエージェントとして世界各国を駆け回る様を描くノンストップ・サスペンスだが、映画では鷹野の高校時代を描いた別の小説『森は知っている』も取り込み、ひとつの映画に仕上げている。

「最初にお話をいただいたときに原作の2冊の小説を読んだのですが、これをひとつの映画にするってどういう感じになるんだろう?と撮影に入るのが楽しみでした」と南は語る。

『太陽は動かない』(c)吉田修一/幻冬舎 (c)2020「太陽は動かない」製作委員会

詩織はある事情で東京から島に越してきた少女で、鷹野(日向 亘)、鷹野の親友で同じくエージェントの訓練を受けている柳(加藤清史郎)と少しずつ距離を縮めていく。監督を務めるのは『海猿』や『MOZU』シリーズなど、日本映画の従来のスケールを超える迫力あるアクションを描いてきた羽住英一郎。本作でも藤原竜也らが出演している“大人”パートでは緊迫感あふれるシーンを描いているが、この“青春”パートは一転、穏やかで静謐な空気の中で展開する。撮影は三重県の答志島で1週間にわたって行われた。

「現場もすごく穏やかでした。監督はずっと“この島のシーンは唯一の癒しだから”とおっしゃっていて。演出に関しても“そのままでいいよ”と言われて本当に何もなかったんですよ、こっちが大丈夫かな?と思うくらい(笑)。特に準備とかはなく、探りながらのお芝居だったんですが、演じながら詩織は芯のちゃんとある子だなと感じて。私自身は弱くてネガティブなタイプなので(笑)、強くなれた気がしてお芝居していて楽しかったですね。

島は、コンビニもなくてWi-Fiもなくて、逆に新鮮でしたね。日向くんと加藤くんとは空き時間に卓球をしたり、3人で海を見に行ったりしていました。スクーターのシーンは、小説を読んだときから描写の瑞々しさがすごく印象的だったんですけど、実際に景色がものすごくきれいでした。あとは、滝のシーンがマイナスイオンがすごくて(笑)。夏の撮影で暑かったんですけど、そのシーンだけは全身にミストがかかって寒くて、日向くんと震えながらお芝居してたのを覚えてます(笑)」

14歳で映画『幼な子われらに生まれ』(三島由紀子監督)で女優としてデビューを飾り、約4年。映画やドラマで見せる卓越した演技力への評価はもちろん、モデルとしての活動、さらにポッキーのCMにも出演するなど、知名度も着実にアップしている。来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(三谷幸喜作)への出演も発表されるなど、実力と人気がしっかりと噛み合ってきた感があり“ブレイク前夜”をうかがわせるが、当人はいつ尋ねても「全く成長の実感がないんです。いろんな取材で“成長したところは?”と聞いていただくんですけど、見当たらなくて……」と苦笑する。それでもこの1年ほど、自分なりに女優としての幅を広げるべく、努力を続けてきた。

「自分の中の引き出しを増やしたいなという思いがあって、自分はこういうことをされるとこんな気持ちになるんだ……、こういう状況でこんな感情になるのか……、本当に悲しいときってこういう反応をするのか……、とか細かい感情を自分の記憶の中にとどめておけるように意識しています」

子供の頃から「他の仕事をする自分が想像できなかった」と言うほど、女優という仕事に対して憧れを抱いてきた。その強い思いは、デビューして数年を経た今も変わらない。10代後半の今、カメラの前でのあらゆる瞬間を濃密に感じている。

「作品に入っているときはすごく濃い時間を過ごせているなと自分でも感じますね。作品が終わるとぼんやりして、家にこもってるんですけど(笑)。周りの反応ですか? うちの家族は私の作品について、何も言わないんですよ。こっちも“見た?”とも聞かないし、お互いに何も言わず、さらっと流してます(笑)」

「昔から、人前で自分の考えや思いを言葉にして表現するのは苦手」とのことだが、決して思いそのものが“ない”わけではない。むしろ、マグマのように胸の奥を様々な感情が脈打っている。役柄というフィルターを通してこそ、18歳の少女の感情は熱く、強くこちらの心を打つ。

取材・文:黒豆直樹 撮影:源賀津己



『太陽は動かない』
3月5日(金)より公開

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