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HYのライブから伝わる、未来へ突き進んでいく姿勢 20周年記念ツアー初日をレポート

リアルサウンド

19/11/7(木) 20:30

 メンバーの名前を呼ぶ小さな子供の声が会場に大きく鳴り響いた。しかもライブ中に何度もだ。HYのファンだった世代が子供を生み、親子二世代でライブに訪れている。そんな光景からも、バンドが積み重ねてきた日々の重さを感じ取ることができた。

(関連:HY 新里英之&名嘉俊&許田信介に聞く、結成から20年の歩みと最新作『RAINBOW』の真髄

 今年6月に13thアルバム『RAINBOW』を発表し、それに伴うレコ発ツアー『HY 20th Anniversary RAINBOW TOUR 2019-2020』が10月から来年2月にかけて開催。筆者はその初日・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール(東京都)公演を観た。会場名の通り、ここはオーケストラ演奏を主目的にしたホールで、国内でもトップクラスの音響効果を備えている。HY20周年プロジェクトを飾る上でも最上の場所と言えるだろう。1、2階席と合わせて約1300人収容のキャパには、先述したように2、3歳の小さな子供を含めて幅広い層の観客が詰めかけていた。HYのメンバーが「初めてライブを観た人?」と挙手を求めると、今日が初めてという観客もちらほらいたが、どんな感想を持っただろうか、とても興味深い。

 結論から書くと、ツアー初日から「えっ、こんなに飛ばして大丈夫?」と余計な心配をしたくなるほど、エネルギー全開で観客と対峙するメンバー4人の姿がそこにあった。新里英之(Vo/Gt)はステージ中央に位置し、下手に仲宗根泉(Key/Vo)、ステージ奥に名嘉俊(Dr)、そして、これまで仲宗根と同じく下手側にいた許田信介(Ba)が上手にいる。ご存知の通り、結成から19年間共に歩んできた宮里悠平(Gt)が今年9月に脱退した。当時からライブを観てきた筆者もこれには本当に驚いたけれど、何より残ったメンバー4人はもっと複雑な心境だったに違いない。

 けれど、奇しくも最新作は「虹」をテーマに据え、雨が降った後に色鮮やかな虹がかかる、という願いを込めて制作された作品であった。「虹が美しく見えるのは、いろんな色がそこにあるから」とは最新作に寄せられた新里のコメントだが、まさに今のHYとしてこれまでの活動の軌跡を鮮やかなグラデーションに落とし込む、魅惑のライブパフォーマンスを展開した。

 20周年イヤーを祝うべく、過去曲と最新曲を織り交ぜながら、ショーを進めていく。しかし、何度とライブで聴いてきた2ndアルバム『Street Story』収録の「トゥータン」、「ホワイトビーチ」などの人気曲はまた違うメッセージ性や輝きを帯びて、心に響いた。前者の〈それでも あきらめなかったよ また一から始めようか さぁ〉の歌詞が胸にグサリと突き刺さったし、後者の観客を一つに束ねて湿った空気を一瞬で吹き飛ばす楽曲パワーにも改めて圧倒されられた。

 もちろん最新作のツアーなので、そこからの楽曲も数多くプレイされた。特に作品テーマとも密接に繋がった「no rain no rainbow」は、軽快な鍵盤を配したハッピーな空気感を振り撒く新境地とも言えるナンバー。「HYを代表する『AM11:00』とか、その上を行く明るさがある」とメンバーも取材時に答えてくれたけれど、ライブでは想像以上の輝きを放ち、クラップと大合唱が会場を満たす大盛況ぶり。どんなに雨が続こうとも、必ず晴れる日が来るんだ! という強力なメッセージにより、観客からたくさんの笑顔を引き出す景色は感動的だった。さらに仲宗根泉のバラード「いつか」も披露され、彼女の繊細かつダイナミックな歌声がモーツァルトホールと共鳴し、他の追随を許さないスケールのある声量で聴く者を温かく包み込んでいた。

 そして、毎回趣向を凝らし、アルバムのツアーのみでしか観ることができない仲宗根監修による「イーズーコーナー」は今回も必見だ。ツアーを経るたびにメンバーの演技や演出も精度を高め、もはやライブでは欠かすことができない名物コーナーとなっている。これはライブDVDにも未収録、本当に現場でしか体験できないスペシャルコンテンツなので是非お楽しみに。

 とにかく、メンバー4人が一致団結したパフォーマンスは、新里、仲宗根、許田、名嘉の各メンバーのキャラクターや存在感がより前面に出たステージだった。何があっても、前へ、未来へ突き進んでいくその姿勢こそが、HYが今ライブでもっとも伝えたいことの一つなのだろう。悲しみや喜び、その周辺にある様々な感情にきちんと寄り添い、それをすべて生きるパワーに変えたHYの姿を今ツアーで確かめてほしい。様々な意味で過去最高にエモーショナルな演奏を体感することができるはずだ。(荒金良介)

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