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90~00年代の恋愛ドラマになぜ魅了されるのか? ヒットメーカー北川悦吏子と中園ミホの脚本論

リアルサウンド

20/7/12(日) 8:00

 コロナ禍の不安や、ひとと会えない寂しさ・人恋しさから、近年は停滞していた恋愛ドラマのニーズが高まっていると言われる。そんなコロナ禍で再放送されたドラマの中でも、常盤貴子・豊川悦司が出演した『愛していると言ってくれ』(1995年/TBS系)の特別編に続き、視聴者の間で大いに話題になっているのが、松嶋菜々子主演の『やまとなでしこ』(2000年/フジテレビ系)特別編だ。

【写真】若き日の松嶋菜々子と堤真一

 『ロングバケーション』(1996年/フジテレビ系)、『ビューティフルライフ』(2000年/TBS系)、『Love Story』(2001年/TBS系)、『オレンジデイズ』(2004年/TBS系)など、90年代~00年代にことごとくオリジナル脚本で多数のヒット作を出してきた「恋愛の神様」とも呼ばれる北川悦吏子。

 それに対し、中園ミホは『白鳥麗子でございます!』(1993年/フジテレビ系)、『Age,35 恋しくて』(1996年/TBS系)、『不機嫌な果実』(1997年/TBS系)、『anego』(2005年/日本テレビ系)など、多数のヒット作を出しているとはいえ、中山美穂がシングルマザーを演じて話題となったオリジナル脚本の『For You』(1995年/フジテレビ系)を除き、ヒット作の中心が原作付きだった。

 そんな中、オリジナルで、なおかつ平均視聴率26.4%、最高視聴率34.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という驚異的数字を獲得したのが、『やまとなでしこ』である。

 これは「幸せ=お金!」と信じ、玉の輿に乗るために夜な夜な合コンを繰り返す主人公・桜子(松嶋菜々子)が、素朴で優しく、生き方に不器用な魚屋の男性(堤真一)に惹かれてしまい、最終的にお金ではなく愛を選ぶという王道の恋愛物語。

 もう20年も前の作品であるにもかかわらず、いまだに「人生のバイブル」「自分のナンバーワンドラマ」と熱く語る女性も多い。一体なぜなのか。

■時代性を反映した「当時の女性の価値観や心情」

 同作は映画『ノッティングヒルの恋人』との共通点を挙げられることが多いが、『ノッティングヒルの恋人』もまた、『ローマの休日』をオマージュした作品と言われるように、いつの時代にも響く普遍的な愛を描いているということがその大きな理由だろう。

 そして、何より、桜子を演じる松嶋菜々子が本当に魅力的だったこと。ファッションや髪型などは憧れの対象として女性誌などで特集されていた。その一方で、日常生活は質素で倹約家で、カップ麺をすすって暮らしながらも、お金持ちと結婚することを夢見る桜子。自分の武器である美貌を理解し、最大限に生かしつつも、「良い服を着たい」「周りよりもちょっと幸せでありたい」という目的のために、ひたむきにブレずに努力する姿は清々しくもあった。

 桜子が誰より愛されるヒロインであったのは、可愛さ・美しさや努力、さらに時代性を反映した「当時の女性の価値観や心情」がリアル描かれていたからではないだろうか。

 私事で恐縮だが、『やまとなでしこ』が放送された2000年前後に、20代をターゲットとした女性ファッション誌で仕事をしていた時期がある。その頃、読者のペルソナ設定として会議や打ち合わせで挙げられたのは、「チャーミーグリーンのCMのように、トシをとっても手をつないで歩くような夫婦になること」「周りよりちょっと幸せ」「周りにちょっと羨ましがられる生活」などのワードだった。

 「他者にどう見られているかが気になる」心理や、「周りに羨ましがれたい」という見栄がありつつも、究極に求めるものは「ずっと仲良し夫婦」という恋愛観・人生観。それは桜子の合コン三昧の日々と、最終的に選ぶ愛のかたちとピタリと重なっている。

■恋愛ドラマのヒットメーカー北川悦吏子、中園ミホ、野島伸司

 共に90年代~00年代の恋愛ドラマのヒットメーカーである北川悦吏子との相違点はたくさんあるが、その一つに、物語の作られ方の違いがあると思う。

 北川悦吏子の場合、何より「感性」の人であり、時代の空気を肌で感じ、自身のアンテナに引っかかった風景や出来事を直感的にとらえ、自身の中から湧き出る物語を綴っていくスタイル。ヒロインは『愛していると言ってくれ』や『半分、青い。』(NHK総合)に至るまで共通して見られるように、まっすぐでエネルギッシュで、猪突猛進型で、その一方で「寡黙でクールで、ナイーブ」な男性を輝かせる。

 対して中園ミホの場合、“取材の中園”と言われるように、脚本を執筆するにあたり、かなりの取材を重ねることで知られている。『For You』ではシングルマザーを、『やまとなでしこ』では20代の女性たちを、後にお仕事で大ヒットを連発する流れにおいては、『ハケンの品格』(日本テレビ系)で派遣社員を、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)では医師に取材し、本音を引き出し、それらを作品に反映させているのだ。

 だからこそ、中園ミホが描く女性たちは、その時代の女性の心情に寄り添い、共感を呼ぶだけでなく、ブレない強さを持つ憧れの存在ともなってきたのだろう。

 バブルによってテレビの娯楽化が進み、高級マンションに住むオシャレな人々が繰り広げる80年代の軽佻浮薄なトレンディドラマ。それがバブル崩壊とともに、『東京ラブストーリー』(1991年/フジテレビ系)を機に90年代ドラマは様変わりし、リアルな等身大の人物や地方回帰が描かれるようになっていく。

 そうした中、ヒットメーカーの野島伸司は、フジテレビ系で『101回目のプロポーズ』(1991年)や『ひとつ屋根の下』(1993年)など、ベタな王道物語を描き、一方で、TBS系で『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(1994年)や『高校教師』(1993年)など、トラウマや禁断の愛など、センセーショナルな題材の中に「破滅の美」を描くようになっていった。

 また、『親愛なる者へ』(1992年/フジテレビ系)、『素晴らしきかな人生』(1993年/フジテレビ系)、『この愛に生きて』(1994年/フジテレビ系)、『恋人よ』(1995年/フジテレビ系)、『青い鳥』(1997年/TBS系)、『眠れる森』(1998年/フジテレビ系)など、緻密な構成と、スリリングな展開、文学的香り漂う繊細な筆致により、普遍的愛と現代人の孤独を描いてきた名脚本家もいた。

 力あるストーリーテラーたちが活躍した90年代~00年代の恋愛ドラマ。その中でも同時期に活躍した女性脚本家である北川悦吏子と中園ミホは、物語の紡ぎ方の違いや作風の違い、キャラクターの違いなどが楽しめる好対照の二人である。

 ちなみに、『やまとなでしこ』の特別編放送決定で沸く中、Twitterで中園ミホとの交流を問われた北川悦吏子は、こんなレスをしている。

「ミホは仲良くしてますよ。一番、中園さんらしい作品だよね。あの頃は仲悪かったです。今は仲良いです」

 コロナ禍を機に、20年以上の時を経て名作ドラマが続々と再放送される中、脚本家しばりで90年代~00年代の作品を振り返ってみるのも面白いだろう。

(田幸和歌子)

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