みうらじゅんの映画チラシ放談
『科捜研の女 -劇場版-』『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
月2回連載
第67回
『科捜研の女 -劇場版-』
── 今回の1本目は、長寿TVドラマシリーズを映画化した『科捜研の女 -劇場版-』です。
みうら これはもう前から観たいと思ってました! 映画化されるのがテレビで告知されてるのを見ていて、気持ち的には「待ってました!」でしたよ。キャストもフルメンバーですしね。
── テレ朝の捜査ドラマでは、内藤剛志さんや金田明夫さんも『警視庁・捜査一課長』とキャストがかぶってますよね。
みうら やっぱ『科捜研』をあんまりご覧になっていない方は『捜査一課長』とダブっちゃいますよね。でも、全く違うんです。例えば『一課長』では内藤さんの部下役の金田明夫さんが、『科捜研』だと内藤さんより偉いんですよ(笑)。
── 『一課長』では“見つけのヤマさん”の金田明夫さんが、『科捜研』では刑事部長なんですね。
みうら そうなんです。今までも『科捜研の女』の特番は何度かあって観てきたんですけど、今回は満を持しての映画化なんです。やったぁー!
ただ、僕は1作目から観ていたわけではないんです。ある時期をきっかけにどっぷりハマったんです。それは還暦を迎えたときにね、“老いるショック”一発目の頚椎から右手の指先までにすごい痛みが走るようになっちゃったんです。僕はいまだに手書きで原稿を書いてるんですけど、痛くてシャーペンすら握れない。それでも締切を何本か抱えてるんで、必死で握ってはみるんですけど、痛くて痛くてとうとう大きい病院に行って診てもらったんです。
レントゲン撮ってもらったら、やっぱり頚椎のところがヘルニアになっていて、でも手術しても治るかどうか分からないっていうんですよ。脳に近い危険なところなんで、痛み止めしかないと言われて、注射も毎回、数発打ってもらってたんですけど全然治らない。もう、自暴自棄になっちゃって、いいやって思って毎日家でふて寝していたときにですね、テレビをつけたら、昼に再放送していた『科捜研の女』にどハマリしちゃったってわけで。もう『科捜研』だけが僕の救いだったんです!
── どこにそこまでハマったんでしょう?
みうら 沢口靖子さん演じる榊マリコさんっていう主人公にね、恋しちゃったんですよ(笑)。マリコさんはね、上品で浮世離れしておられる。とても高貴なイメージなんですよ。
しかし、内藤さん演じる土門刑事が、マリコさんのことを「お前」とか呼んだりするんです。そこがとても気がかりというかね、老らくの恋をしている僕としては。
きっと、土門刑事は、マリコさんのことが好きなんだと思うんですよ。でも毎回見ていても恋愛めいた展開はまったくないんですよ。いつも行動を共にして、良きパートナーなんだけど、土門刑事は「お前」って呼ぶことであえてマリコさんを遠ざけてるんじゃないかと。「俺には恋なんて性に合わねぇからな」なんて思っている気持ちを、僕は痛い首に耐えながら読み取りました。そのときに、『科捜研』は『ローマの休日』だと思ったんです。
── 意外な映画が出てきましたね(笑)。
みうら そうなんですけど、僕はマリコさんと土門刑事は、オードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックだと思っているんです。あの王女と新聞記者の間にあった、淡い恋はあるんだけどその先に進めない関係性とどうも被るんですよね。
『科捜研』は、謎解きも楽しみで観てるんですけど、とにかく土門さんが抱く淡い恋心を感じ取るのに懸命でね。いつも事件が解決するとふたりだけで屋上に上がるんですが、遠くに京都の東山を見つめながらボソボソっと喋る姿はまるで恋人同士。で、照れ隠しなのか「でも、なことねえよなお前!」みたいに、何かを打ち消すように土門さんはおちゃらけにするんです。きっとマリコさんに自分の恋心を知られたくなくて、高圧的に出てしまったり、照れくさいからごまかしてるに違いありません。
こんなことは、ずっと『科捜研』を観ている人なら気づいてますよ。僕は今回の映画でそれが明かされるんじゃないかと思ってるんです。これまでのスペシャルドラマでは、土門刑事の過去とか、榊マリコのお父さんの過去とか、いろんなことが明かされたんだけど、肝心の『ローマの休日』的な恋心がどうなるのかはまだ明かされてないですからね。
── 本当に直球でふたりの恋愛にご興味があるんですね(笑)。
みうら いや、全国民の関心事だと思いますよ(笑)。チラシには“衝撃の最終実験はじまる”と書いてありますけど、まあ科捜研だから当然、毎回実験はされてますけど、今回の実験は科学ではなく、恋の実験じゃないかと僕は踏んでいますね。
そういえば沢口さんには、3年前にみうらじゅん賞を貰っていただいたんです。トロフィーもお渡しして「よく存じあげない賞ですけどありがとうございます」というコメントもいただきました(笑)。僕にとっては、本当にふて寝していたところを救ってくれた王女様。これは絶対に観に行きます!
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
── 次の作品は『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』ですね。
みうら このシリーズは一応全部観てるつもりなんですけど、時系列がよく分かんなくなってしまって。初めは、博物館みたいなところに呪いの人形を置いてましたよね。
── スピンオフも作られたアナベル人形のことですか?
みうら それです。チャッキー的な人形。主人公のウォーレン夫妻は心霊研究家で、自宅の地下室かなんかを、資料館にしてたんですよね。1作目のタイトルが『死霊館』で、呪いの人形アナベルのスピンオフが作られたり、またタイトルが『死霊館』メインに戻ったりしてね、これはちゃんと繋がってるんでしたっけ?
── 一応繋がっているはずです。この連載で取り上げた『ラ・ヨローナ~泣く女~』も同じ世界観の話です。
みうら 世界観が同じだとシリーズに入るんですか? 『死霊館のシスター』なんて全然違う話でしたけどね。
僕はそういうのを“書きたい邦題!”って呼んでるんですけど、日本の配給会社が書きたい放題に邦題をつけることって多いじゃないですか。まったく関係ないのに、さもシリーズのようにくくってみたり。『サスペリア』が当たったからって、物語は繋がってないし、作られた順番も違うのに『サスペリア2』ってつけたりもしてましたよね。
『死霊館』シリーズは別に舞台が館に限定されてるわけでもないですし、もう、『死霊館』っていうタイトルじゃなくても良かったりするのもありますよね。きっと若手の社員が「資料館と死霊館をかけましょう」って言い出して、「お前、ウマいこと言うな!」って上司に褒められた会議があったんでしょうね(笑)。ちなみに原題はどういう意味なんですか?
── 原題は“ザ・コンジュアリング”で、呪文という意味のようです。
みうら だったら“呪怨”みたく“呪文”シリーズでも良かったと思うんですけど、やっぱり若手が提案したダジャレが良かったんでしょうね。たぶんその人は、今では会社の中で昇格してますね。もはや宣伝の責任者になったりしてるかもしれません。きっとその人が新たに生み出した副題が“悪魔のせいなら無罪”ですよね。
── 今回は、裁判にまつわる法廷モノの側面もあるみたいですね。1作目の10年後のお話で、今回も実話って書いてあります。
みうら ウォーレン夫妻は実在するのと、それが実話なのとは違いますよね? 日本にもおられるじゃないですか。宜保愛子さんとかも実在したし、超常現象について語ったりする専門家みたいな人もいますけど。アダムスキーさんはいたけど、アダムスキー型円盤が本当に実在したかは分からないように。かなり実話を押し出して宣伝しておられますけど、どうなんですかね?
── でもチラシのど真ん中には堂々と“実話”と書いていますね。
みうら これは誇大広告じゃないかとJAROに訴える人もいるかもですよ(笑)。
あれ? このキャッチマークみたいになってるの、すごくエビ反りした人じゃないですか? 『エクソシスト』のリンダ・ブレアのエビ反り階段降りとほぼ同じものが、まるでシンボルみたいになってますね。僕、このエビ反りマークのTシャツが映画館の売店にあったらたぶん買いますね。エビ反りしてる人形も作られてはどうでしょう?
── それは欲しいかもしれませんね。
みうら このチラシの説明文に色が違う文字が混ざってるのも気になりますね。赤い色の字を繋げて読むと、“ア・ク・マ・ノ・セ・イ”ってなってますよ! これは1本取られましたね! いやあ、このチラシ作った人、いろいろ考えてますねえ。チラシ作りに命をかけてる情熱が伝わってきます。やっぱ観たくなっちゃいますね。
取材・文:村山章
(C)2021「科捜研の女 -劇場版-」製作委員会
(C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc.
プロフィール
みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。