Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ミニ目玉焼き、生鮭の味噌焼き、ニラ玉……杵島直美先生の朝ごはんレシピ、作って食べたら最高すぎた

リアルサウンド

20/7/10(金) 8:00

 「この家の子どもになりたい!」。私が幼い頃、よく遊びに行っていた友だちの家のお母さんが、手作りのおやつを振舞ってくれるたびに心からそう思っていた。我が母だって、焼き菓子やドーナツなどをマメに作ってくれていたにもかかわらずだ。まだまだ外食の経験値が低い子どもだったゆえか、生まれて初めて舌に乗った未知の味覚に興奮したのかもしれない。

 先日、本書『家族の朝ごはん』(立東舎)のレシピで初めて料理し、食べたとき、まさにその感覚が呼び戻された。自分で作ったのに、なぜかよそのお家の料理をいただいているような気分になったのだ。これは初めて誰かのレシピにトライする際によく起こる料理現象なのだが、今までに何度も著者のレシピ本にお世話になっているからほんとうに不思議だった。きっと、起き抜けのコンディションが余計に頭と舌にサプライズをもたらしたのだろう。そこには、「杵島さんちの子になりたい」と思う、五十手前の自分がいた。

 著者は、料理研究家・杵島直美。NHK『きょうの料理』ファンやレシピ本好きならご存知かもしれないが、母に故・村上昭子、息子にきじまりゅうたという人気料理研究家を持つ、日本でも屈指のクッキング・ファミリーの一員だ。杵島一家のレシピは、テレビや書籍、ウェブメディアなど至るところで目にする。三人に共通するのは、和洋中の枠を超えて幅広いジャンルでメニューを展開しながらも、家で再現しやすい手軽なレシピ開発に尽力している点だろう。一家のこの飾らない方向性は、「おうち料理はかんたんに美味しく」がモットーの主婦の私にぴったりマッチし、私の本棚には杵島ファミリーセレクションとも言えるコーナーがある。いっそのこと、ここでそれぞれの著作についても解説したいぐらいの名著揃いなのだが、それはまた別の機会に。

 さて、人は起きたそばから和食派、洋食派、はたまたどっちつかず、というように、朝ごはんに対して夢と主張を持つ生き物なのではないか。家庭内においても、ママはコメ派、わたしはパン、パパはどっちでもいい(これが最も困りものだが)、と朝ごはんの方向性が分かれているところもあるだろう。

 本書はズバリ、上記のようにバラバラな好みを持つ家庭でこそ最も活きると思う。まず第一章に「和の朝ごはん」、続いて第二章「洋の朝ごはん」。最後に、第三章「休日の朝ごはん」と、おおまかに三つの趣向とシチュエーションで構成されているからだ。好みに合わせて、和の主食に洋のおかずを合わせたり、そのまた逆の組み合わせを楽しむこともできる。また、一人暮らしで「パンもごはんも、美味しいものならジャンル不問」なグルメ自炊派も重宝するに違いない。タイムマシンがあったら、独身時代の自分にお急ぎ便で届けたいほどだ。

 本書は、こんな言葉で始まる。

自分の身支度、子供の世話、食事の準備、朝はあわただしく、時間に追われがちです。かんたんに作れておいしい朝食って何だろうと、と考えながらこの本を作りました。

 そう、手が十本欲しくなるような忙しい朝でも、起きて短時間で美味しく作れるのが朝ごはんレシピの大前提。プロの料理研究家としてだけではなく、一家の母親として蓄積してきた手早く確かに美味しく調理をするコツやアイディアが、レシピのみならずコラムからもほとばしる。「湯を注ぐだけ 自家製味噌玉」「塩もみ野菜」「おむすびの握り方・巻き方のバリエーション」「固茹で卵・やわから卵の作り方とレシピ」などに添えられた先輩お母さんの知恵は、私たち読み手の一生の宝になるだろう。

 ここで、実際に作ってみた私のお気に入りレシピをいくつか紹介しようと思う。

和の朝ごはん

■生鮭の味噌焼き

 「生鮭の味噌焼き」は、前の晩から味噌、みりん、酒に漬けておいた鮭の切り身をフライパンで焼く。仕上げに落とすバターがポイント。ちゃんちゃん焼きでもおなじみの、鮭・味噌・バターの仲良しトリオは間違いない美味しさ。口の中にハラリと広がる鮭の脂のジューシーさが、米を呼んでやまない。

■鶏そぼろのおむすび
 甘辛い鶏そぼろは、書いてある通りポロポロに炒める。なるほど、汁気がすっかり飛んで、おむすびにしやすい一品だ。たくさん作り置きして三色丼やお弁当の主役にするのも良さそうな味わい。

■ニラ玉
 フライパンでニラをサッと炒めて味付けしたら隅に寄せ、空いたスペースで卵を炒め、最後に両者を合流させる。洗い物レスな調理法が忙しい朝にありがたい。ニラ玉は定食屋や居酒屋の定番メニューというイメージだったが、塩気をまとったニラの歯ざわりでシャキッと目覚めるのが癖になりそうだ。

ピーラー野菜の味噌汁


 大根と人参をピーラー、つまり皮むき器でピラピラと剥いたもので味噌汁を仕立てる。向こう側が透けるほど薄い具材は火の通りがとても早く、朝ごはんにぴったりの時短調理法。なんなら前の晩に剥いておけば、豪速で汁物が出来上がる。

洋の朝ごはん


■ほうれん草のソテーとミニ目玉焼き

 この発想はなかった! うずらの卵が、まるで食品サンプルのミニチュア目玉焼きのようで、食べるのがもったいないほど可愛らしい。まるで小さな恐竜の卵のようなうずらの卵は、卵殻膜が丈夫なようで、鶏卵を割るようにパカっとはいかない。初めて割る人には、あらかじめボウルに三〜四個割ってフライパンにそーっと流す方法をオススメする。

■トマトサラダ
 みじん切りの玉ねぎに泣いた甲斐あり、おめざに最適の甘酸っぱい一品。このドレッシングはソテーしたチキンや豚しゃぶなどの肉類とも好相性。

■コンビーフとクレソンのソテー
 二大好物がドッキングした「コンビーフとクレソンのソテー」は、ほろ苦さと牛脂の旨味のバランスがあとを引く。パンにはもちろん、ショートパスタにも合いそう。

■コンソメスープ
 コンソメキューブが玉ねぎとベーコンの旨味をグッと底上げする、オーソドックスなスープ。朝たっぷり作っておいて、夜は野菜や肉団子を入れてアレンジするのも良いかもしれない。

 本書には他にも、休日にゆっくり味わいたいパンケーキやフレンチトーストなどのスイーツ系からサンドイッチ、雑炊系など、全100もの朝食向けレシピを収録。全体的には昭和のお母さんが拵えてくれた、ちょっと懐かしい感じのメニューが多い。中には、お母さんが缶詰めとヒラメキ一発で生み出すナウい傑作料理を彷彿とさせる「さば缶のマスタードマヨ炒め」や「スパムのピカタ」のような白眉レシピも。

 美味しい気分でシャキッと目覚めた日は、結構いろんなことがうまくいく。その昔、朝ごはんはしっかり食べなさい!と言われても、やれダイエットだプチ断食だ、などと口を尖らせては母親に歯向かっていた十代の私に言いたい。あの日しくじったのは若さゆえのあやまちではなく、単に朝から胃袋につらい思いをさせたからだよ、と。

 大人になって、朝ごはんの大切さを理解できるようになったとともに直面した難点もある。未だに早起きが苦手な私にとって、起きてすぐ台所に立ち、食事の用意をしなければならないことだ。本書に記されているレシピは下ごしらえから段取りまできっちりツボを押さえられており、今日も寝ぼけまなこの私の手助けをしてくれる。

■大信トモコ
元Supersnazz、現在はTweezersとRock Juiceで活躍中の歌うベーシスト。趣味は映画と音楽鑑賞、料理本集め。Twitter

■書籍情報
『家族の朝ごはん』
杵島直美 著
価格:本体1,500円+税
出版社:立東舎
公式サイト

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む