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【おとな向け映画ガイド】

『皮膚を売った男』って、どういうこと?

ぴあ編集部 坂口英明
21/11/7(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(11/11~13)に公開される映画は25本。全国100館以上で拡大公開される作品が『アイス・ロード』『恋する寄生虫』の2本。中規模公開、ミニシアター系の作品が22本です。今回はその中から、おとな向けの異色作『皮膚を売った男』をご紹介します。

あなたの背中をアートにしたい!
『皮膚を売った男』

この映画はフィクションです。奇想天外なお話です。でも着想となったモデルがいますし、実話だとしてもありえなくはない。あったら拍手喝采、です。巧妙なサスペンスでファンタジー。少しブラックなユーモアも感じられて、まさに、おとなの味といえる映画です。

迷えるシリア難民の男が、偶然出会った現代美術のアーティストから、アート作品を背中に彫らせてくれ、と頼まれます。世界的に著名なアーティストですが、豚にタトゥーをいれたり、物議をかもすこともアートと思っているようです。報酬は10万ユーロ(約1300万円)。展示会には必ず出席すること、つまり彼が展示品になること、が条件です。お金だけではありません。“アート作品の運搬”を理由に、ヨーロッパの国境を自由に移動できる「シェンゲン査証(ビザ)」取得が可能と言われます。国を逃れ、流浪の民であった男は、どうしてもほしかった“移動の自由”を手にすることになったのです。アーティストがタトゥーで描いたのは、その自由の象徴ともいえるビザそのものの模写。なんとも皮肉です。

その男、サム(ヤヤ・マヘイニ)は、家柄のちがう恋人に公衆の面前でプロポーズをし、そのときの言葉が国家反逆罪にあたると逮捕され、警察から逃亡、レバノンに亡命しています。そこでアーティストと出会います。愛する人は、親の決めた外交官と結婚、いまはベルギーに住んでいます。報酬の他にサムの出した条件は、ベルギーに住まいを持つこと。亡命も、自分がアート作品になることも、すべては愛のため、なのですが……。

モデルがあると書きました。ベルギーのアーティスト、ヴィム・デルボアです。自分の排泄物をタイルに焼き込んだり、豚にタトゥーを入れた作品もある現代美術家、2014年の横浜トリエンナーレに参加していますので、ご存知の方はいると思います。

彼に《Tim》という、人間の背中に彫られたアート作品がありまして。2015年にパリのルーヴル美術館で開催されたデルボア回顧展で、その作品をみたカウテール・ベン・ハニア監督が、映画化を思いついたとのこと。

詳細は書きませんが、タトゥーが完成し、さあお披露目という美術館での展示のシーンが傑作です。アート作品保存のために日常的にはホテル暮らし、ルームサービスで豪華な食事もキャビアのオーダーだって自由自在ですが、やることがありません。背中にできるニキビのケアなど、メンテナンスも大変なんです。さらには、物語が進むと、他のアート作品同様、オークションにかけられたりして……。それは人身売買じゃないの、シリアの恥だ、とかいろいろ社会問題になったりもします。バンクシーもそうですが、現代アートの展示にまつわる話は、門外漢にとっては、まるでエンタテインメントです。

ハニア監督はチュニジア出身の女性。これが日本で公開される1本目です。撮影監督はレバノン人のクリストファー・アウン。主役のサムを演じているのは、シリア出身の弁護士、ヤヤ・マヘイニ。初出演にして主演のこの作品で第77回ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞しています。アーティスト役のケーン・デ・ボーウはベルギー人。スタッフ・キャストも多国から集った、まさに国際合作です。モデルになったデルボア自身も保険業者の役で特別出演しています。

この作品、第93回米アカデミー賞では賞は逸しましたが、国際長編映画賞にノミネートされています。賞を獲得したのはマッツ・ミケルセンの『アナザーラウンド』(スウェーデン)、他の候補作は『少年の君』(中国・香港)、『コレクティブ 国家の嘘』(ルーマニア)、『アイダよ、何処へ?』(ボスニア・ヘルツェゴビナ)。5本ともすべて今年日本公開。どれも年間ベストテン級の映画です。

【ぴあ水先案内から】

佐々木俊尚さん(フリージャーナリスト)
「……現代世界への風刺がとびきり込められているが、それ以上に映画としての面白さ、“映画的醍醐味”としてのエンタテインメント性が素晴らしい……」

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