富田直樹 東京
19/11/6(水)
建設中が増えた東京風景だが、見えない歴史の層は柱の根継ぎのようにあるのかもしれない。旺盛な蓮池の向こうに奇妙に建つビル風景は、上野だな。LEDの灯る新国立競技場など、過渡期の東京が描かれている。オーバーブリッジが横断する空の平行幅のグラデーション。一見スーパーリアリズムのように見えるかもしれないが、間近で見ると油絵の厚塗りの筆跡が、現実にはありえない、絵画でしか表せない豊かな表現になっている。
茨城県取手市で生まれ育った富田が以前に描いていた地元の風景は、寂寞感も漂うが、ニュートラルな目線ゆえに温かくも映った。東京は、中学生になると買い物に出かけ、20代になると芸術を学ぶ場所になる、自身が持つ意味の変化も伴う街であるという。
記憶は律儀ではない。時間をかけて描かれた絵画を、時を忘れて見つめることが、変わりゆく風景にささやかながら応えることになるのかなと思った。
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