川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』
成瀬巳喜男『浮雲』の話から…「インターナショナル」が流れた映画…ウォーレン・ビーティの『レッズ』につながりました。
隔週連載
第16回
19/1/22(火)
林芙美子原作、成瀬巳喜男監督の『浮雲』(55年)に労働歌「インターナショナル」が流れる、と書くと「えっ、どこに」と驚く人も多いだろう。道ならぬ恋愛に追いこまれてゆく男女の物語に、〽起て 飢えたる者よ……という労働歌はあまりに不似合だから。
それでも確かに『浮雲』に「インターナショナル」が聞こえてくる場面がある。
仏領インドシナ(現在のベトナム)からの引き揚げ者である森雅之演じる森林技官の富岡と、高峰秀子演じるゆき子は、日本に戻ってからも関係を続ける。不倫の深味にはまってゆく。二人とも次第に時代から取り残されてしまう。
冬のある日、二人は千駄ヶ谷駅の駅前で落ち合い、神宮外苑を歩く。世を忍ぶ二人のそばを労働者のデモ隊が通る。高らかに「インターナショナル」を歌っている。労働運動が盛んだった戦後の世相をあらわしている。誇らし気に「インターナショナル」を歌うデモ隊が歩いてゆく。そのかたわらを二人は肩をすぼめるように歩く。時代の中心にいる労働者たちと、時代の隅に追いやられてゆく二人の対比がよく出ている。
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