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SUPER BEAVERの配信ライブはなぜ“ドキュメンタリー”だったのか バンドの生き様描かれたストーリー性を読む

リアルサウンド

20/7/15(水) 6:00

 先日本サイトで公開したインタビュー(参考:SUPER BEAVERに聞く、紆余曲折の15年で見出した“音楽の伝え方”「一個人を見てないとメッセージは届かない」)で渋谷龍太(Vo)は、新型コロナウイルスの影響でこれまでのようなライブができなくなっている状況に対して「自分たちが貫いてきたスタイルっていうのはそれが好きでやってたことだから簡単に変えられるようなものでもない気がしてる」と語っていた。さらに(これは文字数の都合もあって記事には掲載しなかったのだが)、「配信ライブ」についてどう思うかという質問に、柳沢亮太(Gt/Cho)は「ライブとは別物」であるという認識をはっきりと口にしていた。ライブハウスで、フェスで、あるいは武道館やアリーナのような大きな会場でも、常に「あなた」に向き合って音楽を届け続けてきたSUPER BEAVERらしい、明快なスタンスだと思った。

SUPER BEAVER

 そのSUPER BEAVERが「配信ライブ」をやる。それがどういうことなのか、その場を借りて彼らが伝えようとしているものとは何なのか。彼らが契約した<ソニーミュージック>が手掛ける映像配信サービス「Stagecrowd」での一発目の配信、そして4月から開催する予定だったツアーが全公演中止となるなかで行われるSUPER BEAVERにとってメジャー復帰後初のライブ。もちろんいまだ先が見えないコロナの状況に対するバンドの姿勢を見せる機会にもなるだろうし、何よりファンにとってはずっと待ち望んでいたものである。話題性という面でも意味合いという面でも、「普通に」ライブをやって「普通に」配信するだけでもきっとインパクトのあるものになっただろう。しかし彼らはそうはしなかった。

 7月11日に行われた『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP ~LIVE document~』。タイトルに「LIVE document」と記されているとおり、今回の配信はライブだけを届けるものではなかった。映像はいきなり、ライブを終えたメンバーの表情を切り取るところから始まる。「SUPER BEAVERってこういうバンドだなってすごい思った」とリーダー・上杉研太(Ba/Cho)が口にすれば、柳沢亮太も「『これですよね、SUPER BEAVERは』みたいなものを表現できた」と満足げに語る。その後時間をさかのぼり、カメラは会場入り、リハ、そして本番と、この初めての試みとなった1日をつぶさに追っていくのである。会場となった新木場スタジオコーストの名物であるサインボードには例にならってバンド名とイベントタイトルが掲げられ、これが文字通り「ライブ」であることを印象づける一方で、その映像の作りが、そのライブ自体をもうひとつ外側から見つめるような視点を浮かび上がらせる。

渋谷龍太

 配信ライブはライブの代替物ではない。終演後のツイートで柳沢もそういう意味のことをつぶやいていたが、そのとおり、こういう状況下でお客さんの前でのライブができないからせめてライブを「疑似体験」してもらおうという、多くの配信ライブのコンセプトとはまったく正反対のアプローチがここにはあった。視聴者はライブが終わった直後のメンバーの充実した表情を手がかりに、リーダーの言う「こういうバンド」の生き様を追体験していく。いきなり本番の演奏だけを見せられたのでは、この「バンドと一緒に時間を積み上げていく」ような感覚は当然感じることはできない。SUPER BEAVERというロックバンドが、どのようにしてここにたどり着いたのか、そして終わったあとに訪れた「やりきった」というような表情はどこから生まれたのか。そのドラマをもしっかりと伝えることが重要だったのだ。

柳沢亮太

 そんなドキュメントパートを経て、いよいよライブが開幕する。フロアに円形に置かれた楽器にメンバーが集い、音を鳴らし始めるなか、眩しい光に照らされた渋谷龍太が登場する。「おひさしぶりです」という挨拶から1曲目に鳴らされたのは、8年前のこの日、自主レーベルでリリースした『未来の始めかた』のリード曲となった「歓びの明日に」だった。これまでの歩み、築いてきたファンとの絆、バンドとしての自負。そのすべてを賭けて敢行されたこのライブの1曲目として、これ以上ふさわしい曲はないだろう。ここからまた始めるんだ、と、のっけからテンションの高い演奏が雄弁に物語っている。

 メンバーそれぞれに専用カメラが付き、普段のライブではあり得ない近さとアングルで、表情はもちろん弦を弾く手元や足元のエフェクターまでをつぶさに映し出していく。メンバーどうし向かい合いながら奏でられる音は、ステージから客席に向かって放たれるのとは違う、濃密な空気を帯びているように感じる。カメラに向かって手拍子を求めるシーンもあった「青い春」を終え、渋谷は「ライブはやっぱり目の前にあなたがいて成り立つもんだと思う」と正直な気持ちを口にする。そう、これは「いつもの」ライブの再現ではない。でも、というよりだからこそ、ここからライブの熱量はどんどん増していく。美しいライティングのなか藤原”32才”広明(Dr/Cho)の叩き出すタイトなビートと柳沢の転げ回るようなギターリフがスリリングに展開する「正攻法」、そしてそのままのテンションで「予感」へ。コール&レスポンスが起きるパートでは渋谷が「あなたの番です!」とカメラに向けてマイクを向ける。いつもならここで会場中から声が上がるのだが、当然今日は聞こえてこない。それでも「あなた」とこのライブを作ってるんだ、と態度で示す彼の姿に感動する。

藤原”32才”広明

「自分たちが音楽をやっている姿勢が、プラスの活力にだけなればいい。まっすぐな意味での『頑張れよ』だと思ってくれたら嬉しいです。俺たちの『頑張れよ』は、あなたが頑張っているのを知った上でも言いたい『頑張れよ』なので。すべてがあなたを前に転がすための原動力になりますように」

 おそらく、カメラ越しに何を語ればいいのか、渋谷自身も迷っていたのだろう。丁寧に言葉を選びながら、最大限誠実で正直であれるメッセージを、彼はそう言葉にした。その言葉を受けて披露された「ひとりで生きていたならば」は〈原動力はずっとひとりで生きていないこと〉というパンチラインが、まるでバンドとファンの心情を代弁するように聞こえてくる。音源とは違う、4人の音だけで鳴らされた新曲。力強く硬派な、まるでSUPER BEAVERそのもののような曲だなと思う。そして一瞬の静寂を挟み、「嬉しい涙」へ。疾走するエイトビートが光のように差し込んでくる――。

上杉研太

 最後のMCで、客席からの歓声や歌声がないことに違和感がある、と渋谷は正直に話していた。それは当然だろう。だが、その違和感すらも、SUPER BEAVERは楽曲のパワーと自身の覚悟によって乗り越えていたと思う。それは「音楽の力は距離を越える」みたいなロマンティックなことでは1ミリもなくて、そのときの状況に対して、自分たちの態度をしっかりと定めて、その上でやれることを全力でやるという愚直さこそが唯一の正解であり、それをやり続けるのがロックバンドという生き様だということだ。15年の歩みを振り返るMCを経て、最後に演奏された「ハイライト」。人生のハイライトを作り続けていくんだと歌う、SUPER BEAVERの基本姿勢を改めて形にしたようなこの曲の頼もしさが一層輝かしく感じられたのは、この配信自体がその証明だったからだろう。

 渋谷による藤原広明イジりや、ライブ前後の口上、食らいつくように歯を食いしばってドラムに向かう藤原の表情、笑顔を見せながらもカメラに向かって煽り倒す上杉研太のエモーション、そして相変わらず全身全霊を曲に捧げるような柳沢のプレイ。すべてこれまで何度も観てきたビーバーだった。ただ、ここには「あなた」がいないという一点において、これは決定的に「いつもの」ビーバーではなかった。しかし彼らは、ドキュメントとしてこの配信を構成し、ライブのセットリストはもちろん、楽器の配置や照明やカメラの位置までをも考え抜いて、「それでも届けるんだ」という意志を表現した。ブレない芯があるからこそ、彼らはこの「表現」にたどり着けたのだ。

 終演後、柳沢は「自分たちが思った『正解』はひとつできたんじゃないのかな」と胸を張った。「『頑張っている』上での『頑張れ』」。渋谷が言った言葉が脳裏に蘇る。その主語はもちろん「あなた」だが、同時にSUPER BEAVER自身のことでもある。「想像もしえなかった日々の真ん中でバンドマンに何ができる?」――渋谷はライブの冒頭で自分たちにそう問いかけた。この『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP~LIVE document』はその問いにバンドの生き様を刻みつける渾身の作品として完璧に答えていた。

■リリース情報
『ハイライト / ひとりで生きていたならば』
発売中
【初回生産限定盤(2CD)】
¥1,900(税込)
【通常盤(CD)】
¥1,300(税込)

SUPER BEAVER結成15周年記念特設サイト『SUPER BEAVER 15th ANNIVERSARY SPECIAL SITE』

■ライブ情報
SUPER BEAVER 15th Anniversary 第2弾ツアー
「続・都会のラクダ TOUR 2020 ~ ラクダの前進、イッポーニーホー ~」
9月5日(土)【香川県】高松festhalle  OPEN 17:00 / START 18:00
9月6日(日)【香川県】高松festhalle OPEN 17:00 / START 18:00
9月10日(木)【福岡県】Zepp Fukuoka OPEN 18:00 / START 19:00
9月11日(金)【福岡県】Zepp Fukuoka OPEN 18:00 / START 19:00
9月18日(金)【新潟県】新潟LOTS OPEN 18:00 / START 19:00
9月19日(土)【新潟県】新潟LOTS OPEN 17:00 / START 18:00
9月26日(土)【広島県】BLUE LIVE広島 OPEN 17:00 / START 18:00
9月27日(日)【広島県】BLUE LIVE広島 OPEN 17:00 / START 18:00
10月10日(土)【宮城県】仙台ゼビオアリーナ OPEN 17:00 / START 18:00
10月11日(日)【宮城県】仙台ゼビオアリーナ OPEN 16:00 / START 17:00
11月2日(月)【大阪府】大阪城ホール OPEN 18:00 / START 19:00
12月6日(日)【愛知県】名古屋ガイシホール OPEN 17:30 / START 18:30
12月8日(火)【神奈川県】横浜アリーナ OPEN 18:00 / START 19:00
12月9日(水)【神奈川県】横浜アリーナ OPEN 18:00 / START 19:00

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