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生田斗真の笑顔と涙が心を揺さぶる 『いだてん』四三と弥彦を支える家族の思い

リアルサウンド

19/2/25(月) 12:00

 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第8話。日本人初のオリンピック選手として、ストックホルムへと出陣する金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)。家庭環境が全く違う四三と弥彦だが、第8話では彼らを支える家族の存在が印象的な回となった。

参考:中村勘九郎、役所広司、ビートたけし……異色の大河ドラマ『いだてん』の魅力は“主人公”の多さ

 四三の目の前に現れたのは、大金を携えて上京してきた兄・実次(中村獅童)。四三は兄を通じて、春野スヤ(綾瀬はるか)の働きかけでオリンピック出場の資金を得られたと知る。一方、弥彦は母・和歌子(白石加代子)と兄・弥太郎(小澤征悦)に、近くストックホルムへ出発することを伝えていなかった。出発当日、四三と弥彦が乗る汽車が動き出したとき、遠くから弥彦の名を叫ぶ声がする。

 第7話で大森兵蔵(竹野内豊)に「金があるのに行けない三島に、行けるのに金がない金栗か」とつぶやかれていた四三。そんな折、千八百円という大金を抱えた兄・実次がやってくる。病弱な父に代わり金栗家を支えてきた実次は、四三にとって兄であり父親のような存在である。

 実次が用意した千八百円という大金は、スヤの義母・池部幾江(大竹しのぶ)から借りたものだ。当初はオリンピックに対し「そんな得体の知れないものに金は出せない」と話していた。しかし実次は必死に頭を下げ、国の代表として選抜された弟を出場させてあげたいと訴え続ける。そんな実次の姿を見て、幾江は「金栗家の田畑を買い、それを無料で金栗家に貸し出す」という方法で千八百円を工面する。「スヤさんを信頼して」と言っていたが、実次の実直な訴えに心を打たれたことも、お金を工面した理由のひとつなのではないだろうか。

 劇中、海外への渡航に怖気づいた四三に叱咤激励する実次。実次は国を背負うというプレッシャーを抱えた弟の思いに気づいていないわけではないだろう。しかし実次は、オリンピック選手として選ばれたことの意義を伝えるかのごとく「お前が行かなきゃ後が続かん」「お前が弱虫なら、100年後のいだてんも弱虫じゃ」と強く発した。オリンピックへ向かう四三の背中を押す、優しさに溢れた叱咤だ。東京から立ち去るときも、力強い声で四三に言葉を投げかける。「勝とうだなどと思うな!」。四三の「ただ走りたい」という思いを尊重する台詞だった。

 昨今は“勝利至上主義”の思想からさまざまな問題がスポーツ界で起きている。何のために競技に参加するのか、誰のために競技を行うのか。四三の純粋な思いを通して、改めてスポーツを行うことの意義を、見つめ直す必要があるのかもしれない。

 一方、弥彦は出発直前にも関わらず、母・和歌子と兄・弥太郎にオリンピック出場について話をしていなかった。女中のシマ(杉咲花)が何も言わずに出発するのかと心配するも「余計なお世話、だな」と話す気はないことを態度で示す。和歌子も和歌子で、弥彦の帰りが遅いことをシマから伝えられると「弥彦は三島家の恥」と言い捨てる。

 四三の家族とは対照的な三島家の関係。しかし第7話では、写真を現像する弥彦が母の写った写真を現像して微笑むシーンがあった。母親の写真を見つめる弥彦の表情は穏やかで、口では「母は兄に、兄は金にしか興味がない」と言いながらも家族を大切にしている様子が分かる。

 出発の日、弥彦が汽車に乗り込む際、誰かを探すようにあたりを見渡すシーンがある。ほんの数秒のシーンではあるが、家族にオリンピック出場を認めてもらえぬまま出発する弥彦の心残りが伝わってくる。しかしその直後、シマが大声で弥彦を呼ぶ。弥彦の目に映ったのは、シマと弥太郎に抱えられながら駆けつけた和歌子の姿だった。和歌子は弥彦にかけ寄ると弥彦の手をしっかりと握り「三島家の誇り」と伝える。和歌子が手渡したのは、日本国旗が縫い付けられた競技服だった。「弥彦は三島家の恥」と言い捨てたとき、彼女は白い布地の服に何かを縫い付けているようだった。口では「恥」と言い捨てながらも、和歌子は陰ながら弥彦を応援し続けていた。

 白石は、和歌子が弥彦を「三島家の誇り」と発するまで、彼女の持つ凄みだけを漂わせていた。しかし弥彦を見送る和歌子は涙で顔をくしゃくしゃにし、何度も息子の名前を呼ぶ。母親としての彼女の思いを、我が子を見送るシーンの全てにぶつけた白石の演技はとても魅力的だ。

 駅が遠ざかった後、弥彦は母から手渡された競技服に顔をうずめて涙を流す。終盤、記者たちに取材される弥彦は普段通りの姿に戻っていたが、見送りに来た母に手を振り返す弥彦の笑顔は、母を思う息子の顔だった。弥彦の家族への思いが詰まった笑顔と涙は、視聴者の心に強く印象を残したに違いない。(片山香帆)

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