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【ネタバレあり】『劇場版ハイスクール・フリート』大和型4隻集合はどう実現した? 監督が語る、戦闘描写の裏側

リアルサウンド

20/1/31(金) 8:00

 1月18日より『劇場版 ハイスクール・フリート』が公開されている。

 本作は、『ストライクウィッチーズ』『ガールズ&パンツァー』などを手がける鈴木貴昭原案のオリジナルアニメーション。“国土水没により海上大国となった日本”という時代背景に合わせ練られた設定と世界観を舞台に、教育艦「晴風」の艦長となった岬明乃をはじめ、艦で共に過ごす仲間たちの豊かな個性や、少女たちの関係性を描き出した。

参考:『劇場版 ハイスクール・フリート』公開にキャスト陣がファンに感謝 夏川椎菜「ようやく出航するんだ」

 そんなキャラクターたちとは一見ミスマッチな艦隊のバトルシーンは、ミリタリーファンも納得の綿密な設定考証に基づき描写されている。TVアニメでも人気だった戦闘シーンは劇場版でどのような進化を遂げたのか。本作の監督である中川淳が、その制作の舞台裏を明かしてくれた。

【本記事は、『劇場版ハイスクール・フリート』のネタバレが含まれます。鑑賞後にご覧ください。】

■「なるべくどのキャラクターにも活躍の機会を与えたい」
ーー中川監督ご自身は『ハイスクール・フリート』そのものには初参加ということですが、今回劇場版をどんな作品にしようと思っていたのでしょうか。

中川淳(以下、中川):ただのお祭り映画にはしたくなくて、1本芯の通ったストーリーを描きたいと思っていたのでましろと明乃の物語を全編を通して描いて欲しいと脚本の方々にお願いしました。

ーー本作の1つの特徴として、キャラクターが多いことが挙げられます。1クラスだけで30人いて、TVアニメの段階でも名前を覚えるのに一苦労だった視聴者もいたと思います。その大人数のキャラクターたちを1つの群像劇にまとめあげるのはどのように?

中川:いわゆるモブキャラがいないというのは本作の1つの魅力ですよね。晴風のメンバーは、全員に名前があって、しっかりと生きているので、なるべくどのキャラクターにも活躍の機会を与えたいなという思いがありました。もっと描きたいキャラクターや、加えたいシーンはたくさんあったのですが、ギリギリまで詰めてテンポを上げて完成させました。

ーーどうしても収録できなかったものもあるんですね。

中川:劇場版の新キャラクター、大和型の艦長たちはどうしても尺的に取捨選択がありました。明乃、もえか、ましろを活躍させつつ、大和型の艦長たちをどうするのか。その調整は非常に頭を悩ませたところでもあります。

ーー劇場用パンフレットでは、大和型の艦長の詳細な設定が明かされています。こういったキャラクター一人ひとりのバックボーンは脚本の方と話し合いながら作っていったのでしょうか?

中川:キャラクターたちの設定に関しては、脚本の岡田(邦彦)さんが中心になって考え、そこに鈴木(貴昭)さんやキャラクター原案のあっと先生の意向やエッセンスを加えていきました。大幅にシナリオを削った部分がありますが、その辺りはパンフレットに付属のドラマCDで補完されています。

■「実は嘘のシーンだらけ」の戦闘シーン
ーーTVアニメ、OVAに続く今回の劇場版ですが、OVAでは日常パートがメインで戦闘が描かれることはありませんでした。本作では、戦闘シーンに期待が集まっていたと思うのですが、そのあたりはどのように進められたのでしょう?

中川:まず前半は艦を出さずに、後半30分で戦闘を存分にやろうという枠組みがあったので後半はとにかく思いっきりやってしまおうと考えていました。鈴木さんがミリタリー描写の専門家なので、流れはお任せして、あとはどう見せるかを意識しましたね。

ーーどう見せるかで悩んだポイントはありましたか?

中川:劇場の大スクリーンで上映されるので、やはりスケール感は重視しました。特撮のような作りになればいいなと思っていて、あえてコマを落としました。あと、TVアニメだと作画でやっていた水の表現に、デジタルの表現を加えて水しぶきを細かくできるようにしました。

ーーコマを落とすとどういう効果が得られるんでしょう。

中川:フルコマという1秒間に24コマの動画をつけると、動きは滑らかになるのですが、どうしても3Dっぽく見えてしまうんです。フルコマのカットもありますが、それだと滑らかすぎるところは、あえて1秒間に12コマの2コマ打ちにしています。少しカクついて逆に味になるんです。あと原画は鉛筆で描くので、細かい部分の表現というのは限界があります。大和型の戦艦は全長263メートルもありますので、鉛筆の点1点がものすごく大きくなってしまうんです。なので、そういった細かい部分に関してはデジタルで描いています。

ーー3Dと2Dのバランスは非常に試行錯誤されたのではと思います。

中川:はい。先ほど言ったスケール感と手描きっぽさというのは、実は全く相反する要素なんです。スケール感を出そうと情報量を上げると、より3Dっぽくなってしまう。アニメっぽく見せるのは、情報量を下げていく行為で、その2つのバランスを取るのは難しかったです。

ーーその中で実現が困難だったシーンはありますか?

中川:要塞に入ってからは全部大変でした。それ以前は割とリアル路線の画作りを心がけて、入った後はフィクションでいこうと考えました。ですので実は嘘のシーンだらけなんです。例えば晴風の船速は35ノットなので、時速にすると60キロ程度なのですが。そのままだとあまりにもスピード感がでなかったので、思い切って120キロぐらいにしました。最後要塞から脱出しているところは120キロ以上飛ばしていたりします。

ーー他にも「あえて嘘をつく」表現があったのでしょうか。

中川:劇場版はやはり大画面なので、画面の情報量を気にしました。もちろん原案の鈴木さんの許可を取っていますが、実際いろいろな嘘をついています。例えば、艦隊編成でいうと、本来艦同士の間隔は、縦800メートル、横400メートル空けなければいけません。それをリアルに描写すると画面がスカスカになるので、大和型4隻が縦列で、その横に晴風が並ぶシーンは、縦400メートル、横200メートルの幅で、実際の半分くらいのサイズ感で描きました。そういった部分は画面の美しさを優先しています。

■知名もえかがもっと活躍する幻の初期構想
ーー武蔵を含む大和型の4隻が集合するのは、今作の見どころだと思いますが、この発想は最初からありましたか?

中川:はい。原案の鈴木さんのロマンを実現するということで、初期段階から重要だと考えていました。でも4隻並ぶのが逆に難しかったんです。同じ形の戦艦が4つ並んでいるので、そのままだと実は画にならなくて。綺麗に並ばせてしまうと、コピー&ペーストになってしまう。なので、なるべく並びをずらしたり、バランスや少しだけパースを嘘ついて違う方向に傾けたりと、色々工夫をしました。

ーー計算された絵作りだったんですね。

中川:計算というより1回並べてみたらびっくりするほどコピー&ペーストだったので、そこから試行錯誤したという感じです。あともちろん水平射撃や一斉射撃といった、ミリタリー好きのロマンもしっかり丁寧に描きたいという思いもありました。水の表現が上手くいくのかなど、色々と心配はありましたが、3Dを担当したグラフィニカの方々が非常に良いものを作ってくれて、最初にサンプルとして上がってきた射撃の映像を見て、これはいけるなと思いました。

ーー水の表現というのは着弾して水しぶきが跳ね上がったりとか。

中川:そうです。TVアニメの時は、なるべく作画でやるというコンセプトだったようでした。今回は3Dで描写しているので、そこをデジタルすぎる画面作りになってしまわないように、TVアニメを見ていた方に、いかに違和感なく楽しんでいただけるか気を配りました。

ーー本作では、TVアニメでは武蔵を乗っ取られてしまい、表に立って戦闘を指揮するところが見えなかったもえかが、艦長として戦闘に参加しているところも見どころですね。

中川:もえかに関しては、むしろ少し弱くなってしまったと思っていたのですが、お客さんの反応を見ると、「もえかが活躍してよかった」と言われていて、ホッとしています。実は初期構想ではもっと活躍する予定だったんですが、もえかが活躍しすぎてしまうとましろが最後目立たなくなってしまうので、削った箇所もあったのですがそこは嬉しい誤算でした。

ーーちなみに、その初期構想はどんなものだったんですか?

中川:最後要塞から晴風が脱出するシーンで、本編だとましろがスキッパーで特攻して活路を開くのですが、そこにもえかも同時発射で援護するとか、いろいろと話はあったんです。でも「さすがにやりすぎじゃないか」とか「ましろの活躍が薄まってしまう」という意見があって最終的にあの形に落ち着きました。

ーーそのバージョンも見てみたい気もします。今作全体を通して、中川監督が力を入れたポイントを教えてください。

中川:TVアニメと比べてかなり様々な色を使っているんです。例えば、夕景のシーンでは、TV版は夕景の光は艦内には干渉しないというルールの元で作っていたのですが、今回は夕景の日差しもしっかり艦内に干渉させて、美しい色になるように意識したり、各パート、色を贅沢に使って作りました。

ーーラストシーンの朝焼けは印象的でした。

中川:あれは最初のティザービジュアルと同じ色を使っています。はあえて制作作業を優先してなるべく色数を減らすコンセプトでやっていたとTVアニメに参加していたスタッフから伺っていたので、劇場版でやるからには、もう少し贅沢に色数は増やしていこうと考えていました。

ーー監督が考える本作の注目シーンはどこになりますか?

中川:やはり大和型の描写ですかね。何度もリテイクを出してこだわって作ったので、艦隊描写を楽しんでいただければと思います。

(取材・文=安田周平)

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