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ー炎のコバケンー 巨匠・小林研一郎が、最後のベートーヴェン全曲連続演奏に臨む!

ぴあ

小林研一郎

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「81歳を超えて肉体的に限度。情熱の炎は脈々と燃え、尽きることはないけれど、最後の全曲演奏に挑みます」と語るのは「炎のコバケン」こと指揮者・小林研一郎。 過去14年間に13回指揮してきた毎年大晦日恒例「ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会」を、今年を最後に勇退することを発表。報道陣を自ら招いて都内で会見を開いた(11月17日)。

小林研一郎

小林 全曲を演奏していると、ベートーヴェンが降臨するような気がする。不思議なことに、こうしようと準備していたのとまったく別のアイディアが浮かんで、この行間はこういう宇宙なんだよと、ベートーヴェンがささやいてくる。その声が80歳過ぎまで階段をひとつひとつ必死に昇ってきて見えた景色を、また新たなものにしてくれる。

2003年の大晦日に始まった「ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会」は、ベートーヴェンの交響曲全9曲を1日で連続演奏するという破天荒な企画。演奏時間だけで7時間超。午後に第1番からスタートするマラソン・コンサートは、大小の休憩を挟んで、終演を迎えるのは、もう新年のカウントダウンが始まる頃だ(始めの数回は開始時間が現在より1時間遅く、年越しコンサートだった)。

会見に出席した、この企画のプロデューサーの作曲家・三枝成彰によると、10時間以上を隣席で過ごす聴衆同士には連帯感も生まれるらしく、「ではまた来年もこの席で!」と1年後の再会を約束して別れる光景も見られるのだそう。初回は3人の指揮者が分担して演奏したが、第2~3回は岩城宏之が一人で全曲を指揮。急逝した岩城追悼の第4回を9人の指揮者が振ったあと、2007年の第5回からはほとんどを小林が一人で指揮してきた(2010年のみロリン・マゼール)。

小林研一郎×三枝成彰

小林 気が遠くなるほど凄い企画。三枝先生から1番から9番まで全曲というお話をいただいた時、どうやって逃げようかということだけを考えた。ベートーヴェンは1曲指揮するだけでもヘトヘト。2曲を同時に指揮するのでさえ私の能力では不可能だと思っていたので。もう大丈夫だろうと、コンサートのためにハンガリーまで逃げたのだけれど、そこにオーケストラのコンサートマスターの篠崎史紀さんが来て説得してくださったのに驚き、感動して、引き受けた。

三枝の話では、岩城の没後、誰に指揮を委ねるかを考えた時、オーケストラからも普通の指揮者とはやりたくないという声があり、篠崎に相談して小林以外にはないという結論になったのだそう。実際に5、6回は断られたのだという。

小林からは自身とベートーヴェンにまつわるさまざまな話題も。

小林 1992年に初めて大阪フィルハーモニー交響楽団で第九を指揮した時、控室に(大阪フィル音楽監督の)朝比奈隆先生から、まっさらな第九の楽譜が届いていた。「長い年月、どうやったらベートーヴェンを理解できるだろうと過ごしてきた人生も、自分の非力もあって終わりが近いと言えます。君たちのように春秋に富んだ人たちが、この純白な行間から、歪められない真実を読み取られることを期待します」というメッセージを添えて。

と涙ぐみながら話し、そのメッセージを聖書としてひたむきに勉強を重ねたと振り返る。また、常に前を見据えているゆえだろう、終わった演奏会の録音を聴いてもどうも納得できないのだと言い、「面白いエピソード」として、幻のベートーヴェン全曲録音の秘話を明かした。

2007年公演 小林研一郎(Photo:山本倫子)

小林 一度、日本のレコード会社に、ハンガリー国立交響楽団(現ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団)と全曲を録音した。ところが聴き返して、スタッフに土下座して謝った。「どうかこれを破棄してほしい。僕にはベートーヴェンの心の片隅に触れることすらできなかった。今後の録音がすべてノーギャラでも構わないから」と。

発売は免れたが、音源は残っているそうで、自分の死後に発表されてしまうのではないか心配なのだと話した。

今年3月には日本芸術院賞・恩賜賞も受賞した日本を代表する巨匠は1940年4月生まれの81歳。普通なら、9曲ずっと指揮台に立っているだけでも大変な負担になる年齢だろう。最近は週に3日ほど、自宅から4キロ離れたゴルフ練習場までの往復を散歩し、1時間半打ち込んで体力維持に努めているのだそう(ゴルフはベストスコア78という腕前のマエストロだ)。

小林夫人の桜子さんの話では、万一に備えて楽屋には毎年医師が立ち会うそうなのだが、医師いわく、「まるで宇宙人。やればやるほど心拍数や血圧などのバイタルが安定してくる」と、最近は第3番が終わる頃には帰ってしまうのだとか。

以前本人から、10時間超の公演中に摂る食事はメロン半分だけだと聞いたこともある。体力もさることながら、きっと集中力が極限まで研ぎ澄まされているのにちがいない。ベートーヴェン連続演奏会の指揮こそ後継にバトンを渡すが、エネルギッシュな指揮活動自体をセーブする予定はまったくない。国内外のオーケストラの指揮台を駆け回る一方で、今年はコロナ禍で1年延期された80歳記念のチャイコフスキー交響曲全曲チクルス(全5公演)を成功させ、次はブラームスの交響曲全曲の計画が進行中、さらにはマーラー全曲も視野に入れているという。関係者によれば90歳まで現役続行を言明しているそう。ベートーヴェンも凄いがコバケンも凄い。

2020年公演 小林研一郎(Photo:山本倫子)

最後の全曲演奏会は今年も大晦日、12月31日(金)午後1時から東京・上野の東京文化会館で。管弦楽は特別編成の岩城宏之メモリアル・オーケストラ(コンサートマスター=篠崎史紀)。第九の独唱は、ソプラノ=市原愛、アルト=山下牧子、テノール=錦織健、バリトン=青山貴。感染防止のガイドラインに従って60人規模の特別合唱団を編成する。

第九終楽章のプレスティッシモが鳴り終わってホールを出る頃には年が明け、上野の森には寛永寺の除夜の鐘も響き始めているはずだ。新しい年の平和と安全を祈りながら、私たちも巨匠とともにベートーヴェンの旅を完走したい。残席はわずか。チケット購入は今すぐ!

Text:宮本明

<公演情報>
ベートーヴェンは凄い!2021 第19回全交響曲連続演奏会

2021年12月31日(金) 東京文化会館 大ホール
開場12:00 / 開演13:00 / 終演23:25(予定)
※終演時間は演奏の都合により変更になる場合がございます。

『ベートーヴェンは凄い!2021 第19回全交響曲連続演奏会』チラシ画像

指揮:小林研一郎
管弦楽:岩城宏之メモリアル・オーケストラ(コンサートマスター:篠崎史紀)
ソプラノ:市原 愛
アルト:山下牧子
テノール:錦織 健
バリトン:青山 貴
合唱:ベートーヴェン全交響曲連続演奏会特別合唱団
お話:三枝成彰

チケットはこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2175721

小林研一郎 プロフィール

東京藝術大学作曲科及び指揮科を卒業。第1回ブダペスト国際指揮者コンクールでの鮮烈な優勝を飾ったことを皮切りに世界的に活動の場を拡げ、現在も第一線で活躍を続けている。音楽に対する真摯な姿勢と情熱的な指揮ぶりは「炎のコバケン」の愛称で親しまれ、名実共に日本を代表する指揮者である。これまでに海外ではハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ネーデルランド・フィルハーモニー管弦楽団 (25年間、常任客演指揮者を務める)、アーネム・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団、ローマ・サンタ・チェチーリア国立管弦楽団等、国内では NHK交響楽団、読売日本交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京都交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、九州交響楽団等、名立たるオーケストラと共演を重ね、数多くのポジションを歴任。この長年にわたる文化を通じた国際交流や社会貢献によって、ハンガリー政府よりハンガリー国大十字功労勲章(同国で最高位)等、国内では恩賜賞・日本芸術院賞等を受賞。

作曲家としても数多くの作品を書き、1999年に日本・オランダ交流400年記念の委嘱作品、管弦楽曲『パッサカリア』を作曲、ネーデルランド・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されると、聴衆から熱狂的な喝采を以て迎えられた。同作品はそれ以降も様々な機会に再演されている。社会貢献を目的とした「コバケンとその仲間たちオーケストラ」では、活動趣旨に賛同するプロ、アマチュア、学生などのボランティアメンバーと共に2005 年より80 回に及ぶチャリティ公演を日本各地で行ってきた。さらに、音楽の楽しさを伝えるため小中高生向けの出前授業も行なっている。また、CD、DVDはオクタヴィア・レコードより多数リリース。著書に『指揮者のひとりごと』(騎虎書房)等がある。現在、日本フィルハーモニー交響楽団桂冠名誉指揮者、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団及び名古屋フィルハーモニー交響楽団桂冠指揮者、読売日本交響楽団特別客演指揮者、群馬交響楽団ミュージック・アドバイザー、九州交響楽団名誉客演指揮者、東京藝術大学・東京音楽大学・リスト音楽院名誉教授、ローム ミュージック ファンデーション評議員、長野県音楽監督、豊島区音楽監督等を務める。

関連リンク

公演オフィシャルサイト:
https://saegusa-s.co.jp/concert/con211232.html

小林研一郎オフィシャルホームページ:
http://www.it-japan.co.jp/kobaken/

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