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キュウソネコカミは今いい状況を迎えているーー実直に音楽活動に臨んできたバンドの姿勢を追う

リアルサウンド

18/11/26(月) 18:00

 もしかしてキュウソネコカミは、とても偉いのではないか。

 11月21日水曜日、新木場スタジオコースト、ニューアルバム『ギリ平成』のリリース(12月9日)に先駆けて行われた東名阪ワンマンの1本目の東京編、『DMCC REAL ONEMAN TOUR 2018 -EXTRA!!- ~PAINT IT WHITE!!!~』。「白いシャツと白い帽子」というドレスコードが設けられたため、見事に一面真っ白に埋まった超満員のフロアが熱狂するさまを2階席から観ながら、改めてそう思ったのだった。

(関連:キュウソネコカミの“ライブ用耳栓”が話題に 『あさイチ』特集から考える音楽の上手な楽しみ方

 非リア充青年のしみったれた、デッドエンドな日常から発される、呪詛と自虐に満ちたリリック。「就職活動に敗れた者達を中心に結成」とバンドプロフィールに謳って登場したことにも顕著な、「イケてなさ」を武器にするキャラクター。速くて激しくて一緒に歌える、ただしパンクやラウドロックやパワーポップ等の既存のスタイルとは、微妙に、かつ絶妙に異なる音楽性。そして、「俺以外ダイブ禁止」のルールに則って、ヤマサキセイヤ(Vo/Gt)がオーディエンスの頭上に出張するパフォーマンスや、〈スマホはもはや俺の臓器〉(「ファントムバイブレーション」)、〈ヤンキーこーわいー〉(「DQNなりたい、40代で死にたい」)等の、オーディエンスの大合唱を呼び起こすパンチラインの数々。要は、最初からあたりまえに“笑い”が充填されている、インパクトの塊のようなライブパフォーマンス。

 と、ひとつずつ魅力を列挙していくと、2010年代前半~中盤のシーンにおいて、キュウソネコカミがあっという間に人気バンドになったのは当然だったと思える。が、ただし、そんな強烈なインパクト搭載であるということは、「一発屋」「すぐ消える」的な危険性と常に背中合わせであった、とも言える。

 おまけに、自身も含めたバンドシーンのことや音楽業界のことも歌詞にすることが多いキュウソは、メジャーからの最初のアルバム、『チェンジ ザ ワールド』(2014年6月18日リリース)の1曲目である「ビビった」に、〈メジャーに行って1、2年で消えるバンド多過ぎクソワロタ〉という1行を入れてしまった。つまり、その1行が将来自分たちに返って来るかもしれないという地雷を自ら撒いた、ということだ。

 はたして、このままどこまで行けるのか、何年先までこの全力疾走が続くのか、右肩上がりを描き続けられるのか。というキュウソのこのチキンレースは、2015年7月24日に『ミュージックステーション』に出演したあたりから、2016年3月の、インテックス大阪2デイズと幕張メッセイベントホール2デイズのアリーナワンマンライブあたりまでをピークに、以降は落ち着いているように見えているかもしれない。地上波出演等のわかりやすい露出は(タマホームのCMへの曲提供と出演を除き)減っているかもしれない。

 しかし。地元の神戸ワールド記念ホール(8000人)でワンマンを行ったのは2018年4月14日だ。あるいは、日本最大級の夏フェス、ROCK IN JAPAN FESTIVALの中でもっとも大きいGRASS STAGEに、出演5回目にして初めて立ったのも、2018年8月4日だった。ツアーは各地ソールドアウト状態が続いている。つまり、もっとも露出の多かった2年前よりも現在の方が、バンドとして、いい状況を迎えているということだ。

 ということなどファンはみんな知っていると思うが、逆に言うと、ファン以外の人、ロックバンド好き以外の人にその好調ぶりが届くような具合にはなっていない、ということでもある。で、キュウソは、「それでよし」と判断している。とにかくひたすらライブをやる、他のバンドのツアーのゲストも出るしフェスやイベントも出まくって、自分たちのツアーに来てくれる人をじわじわと増やしていくキュウソのやりかたが、実を結んでいるのだろう。

 そもそも、さっき触れた2016年3月の東阪アリーナ2デイズは、当時のキュウソの勢いであっても、いくらなんでもそりゃ無理だ、さすがに売り切れないでしょう、ということが、開催発表の時点で誰の目にも明らかだった。で、実際、ほぼ埋まったものの、完売はしなかった。なんでそんなスケジュールを切ったのか。「だからこそ」切ったのだ。ツアーごとにライブのキャパを拡大しても拡大してもソールドアウトが続く、次こそはチケットを買えない人がいない状態にしたい、ならば「これなら絶対売り切れない」キャパにしよう。日本武道館でも幕張メッセイベントホールでも完売してしまう、ならイベントホール2日にしようーーということで1日ではなく2デイズにしたのだ、と僕は踏んでいる。あの時期のキュウソとしては、日本武道館を即日完売にした方がバンドストーリーとしては美しいし、イメージ的にもプロモーション的にもその方がよかっただろうと思う。思うが、キュウソにとってそんなことよりも「チケットを買いたいのに買えない人がいる」ということの方が、重大な問題だったのだと思う。

 12月5日リリースの、メジャーから3枚目となるニューアルバム『ギリ平成』は、リリックも曲調もアレンジも演奏も、すべての面で、何かが吹っ切れたかのような清々しさと勢いに満ちている。「推しのいる生活」「炊きあがれ召し上がれ」「米米米米(ベイマイベイベー)」といったナンセンス方向に振り切れた曲もあれば、「馬乗りマウンティング」のような、今のこの世の中の生きづらさをテーマにしたシリアスな曲もある。「The band」のように、自分たちの足元を確認しある意味宣言する曲もあるし、「ギリ昭和」のように自らの世代をテーマにした曲もある。

 好きなことを好きなようにやればいい、「ファンはこういうの求めてるかも」「チャート的にはわかりやすい曲を作った方がいいかも」とか気にしなくてもいい、というような。ここまで自分たちがライブで積み重ねて来たことが実を結んでいる、間違っていなかった、という自信に裏打ちされた結果、そんな、風通しのよいアルバムになったのではないか。

 なおキュウソは、年明けの1月から4月までで33本を回るこのアルバムのリリースツアーがすでにアナウンスされていたが、11月21日新木場スタジオコーストのアンコールで、さらにその次のツアーが発表になった。5月と6月『試練のTAIMAN TOUR 2019』14本。12月から1月にかけての間、つまりリリースツアーが始まる前の時期は、Fear, and Loathing in Las VegasやBLUE ENCOUNTやHEY-SMITHのツアーのゲスト6本、イベントやフェス出演4本も控えている。つくづく、止まらない。(兵庫慎司)

※記事初出時、一部記載に誤りがございました。訂正してお詫びいたします。

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